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兵器と戦略、そして…

 敵師団のあの凄まじい性能の兵器には驚かされたが、依然としてアンドレアス王国の優勢は揺らいでいない。

 ダミアンとグスタフはそう思う。何故なら敵のあの兵器を持っている人物達はすぐに下がっていったから。

 おそらく補給をしに行ったのだろう。あの後も何発か見舞われたが、頻度自体は多くなかった。

 なのでグスタフは彼らが弾切れか何かで補給をしに行ったのだと予想を立てた。


「よし、聞け! 諸君! 先ほどの手強い敵は一度後方に下がった。おそらく補給か何かで戦闘を続けられなくなったのだろう。故に今が攻め時だ! 魔装砲と弓をありったけ降らせろ! 魔法師部隊は敵が突破してこぬよう、第二防壁から漏れた敵を殲滅せよ! いいな?」

「「「ハハ!!!」」」

 

 グスタフの予想ではあの敵はしばらくの間出てこないだろうと思われる。

 なので今のうちに多く敵師団員の数を減らす作戦だ。アンドレアス王国側は砦においての防衛戦。有利な条件は自分たちの側にある。

 そして、


「ベーレンドルフ閣下。今回の戦い、アフトクラトリア閣下に作戦について助言を頂いていて良かったですね」

「そうだな。しかしそれにしても単純ながらこれほど強力な戦い方は聞いたこともない。少し考えれば思いつきそうな戦法なのに、どうして今まで誰も思いつかなかったのか」

「ええ、私も同感です。弓にこんな使い方があったとは」


 彼らが話しているのは弓部隊の編成と運用の仕方だ。具体的にどういった方法なのかと言うと、砦内にある広場に数百人の弓部隊を集めて、そこから曲射での一斉掃射をするという方法だ。天高く発射して、砦外にいる敵に矢の雨を降らせる。

 実際、砦の狭い防壁の上からちまちまと援護射撃するより、数百人で数百本の矢を砦内部で安全な場所から撃った方が部隊の被害も少なく、攻撃面積も広がるだろうと言うこのアレンの提案は大いに戦果を挙げている。

 だがこの方法にはもちろん欠点もある。それは、命中精度だ。砦の中から撃ってるのだから、当然敵が見えているわけがない。なので防壁の上にいる指揮官が目算で指示を出して撃つしかない。なので本来ならとても難しい撃ち方だ。

 しかしそれなら何故戦果を挙げれているのか、これに関しては幼い頃から戦についても英才教育を受けていたグスタフの出番だ。


 解決策としてはまず砦からの最大射程を把握する。そしたら、開戦して敵が突っ込んできた時に、射程距離に入る寸前に発射命令を出すと言う方法を取ったのだ。

 そして、第二の策としては最大射程から少し手前の第二防壁を造る場所に矢が落ちるように練習させ、そこに防壁を築くというものだ。

 実際に今、なかなか防壁を越えられない敵部隊はピンポイントで降ってくる矢の雨によって無惨に蹂躙されている。


 正に戦略が戦略を生み、最高の結果を叩き出しているのだ。

 だがうかうかしてるだけではいられない。敵も馬鹿ではないようで、直ぐに対策を練ってきた。


 だがグスタフやダミアンに焦りはない。むしろここまで一方的にやられたのであれば、対策して当然だというふうな態度だ。


「ふむ、やはり対策を練ってきたな」

「ですね。少し戦いにくくなるかもしれませんが、でもこれで大分敵師団員を減らすことには成功しました」

「そうだな」


 しかし、やはり対策を練られたのには変わりなく、敵の布陣が面倒なものに変わった。

 それは、


「魔力盾部隊と鋼鉄盾部隊、それに結界魔法部隊が前線配置ですか……敵もやはり馬鹿ではありませんね。戦争で成り上がってきた国だけありますね」

「ああ、しかも防壁越えは時間がかかると踏んだのだろう。その後ろに魔装砲を置いてさらにその後ろに先ほどの連射できる銃の部隊。そして魔法師部隊までしっかりと配置してきた。盾に守らせながら、最大化力を撃ち込んでくる算段だろう。そして防壁破りは他の部隊に完全に任せたようだ。敵ながら完璧な攻防一体の布陣だな」

「しかも敵は今のところ竜魔導師も出してきてませんしね。あれほどの大国なら恐らくいるでしょうから、まだまだ警戒は必要ですね」

「全くもってその通りだ」


 グスタフはダミアンに対して心底感心している。平民でありながら、大戦争に参加して生き残り、貴族になってからも驕ることなく、軍略などを学び続けて短期間でこれほどまでの指揮官に成長した。

 正直末恐ろしいとさえ思ってしまう。それほどダミアンの指揮官としての有能ぶりは凄まじい。

 グスタフは心の中でダミアンへの評価をしっかりと上方修正した。


 そしていよいよ敵が反撃を開始した。


 ドンドン、ドーンッ! ダダダダダダッ!

 ヒューン、パシパシパシパシ! ドガーンッ! 

 バシーンッゴロゴロゴロ!


 魔装砲が連発されて敵の高性能な銃が乱射され、大量の矢の雨が降り注ぎ、爆炎の魔法、雷の魔法、さまざまな攻撃が一斉に砦に襲いかかった。


「くッ!」

「これは……予想よりも凄まじいな」


 ダミアンとグスタフは敵の圧倒的な物量の攻撃に改めて舌を巻く。

 他の指揮官達なんて、急いで部下に指示出しをしているが、内心では恐慌状態に陥っているのは明らかな表情をしていた。

 自分たちよりも長く戦場にいた指揮官達でさえ、こうなるのだ。敵が今回の侵攻にどれほどの力を注いできたかが嫌でも分かる。

 だが、


「総員、聞け! 守ってばかりでは敵は倒せない! 攻撃を加え続けろ! 確かに敵の攻撃は凄まじい。しかしそう長くは続かないし、まだまだこちらには余裕がある! 現に砦にはヒビひとつ入れられていない! 良いか! 攻撃が止んだらこちらもありったけの攻撃を撃ち込んでやれ! 大丈夫だ、諸君らならできる! 次からは私たち指揮官も攻撃に加わる! 共に敵を撃滅しよう!」


 ダミアンがこれ以上士気を下げられてはたまらないと、砦内にいる師団員全員に向けて檄を飛ばした。

 そしてそれは、


「「「ウォォォォォ!!!」」」


 師団員達の恐怖心を打ち払うには十分だったようだ。

 そしてその数十秒後には魔装砲と弓と銃の攻撃が止み、向こうは魔法しか撃ってこなくなった。

 今がチャンスとダミアンは全力で指示を出す。


「総員、攻撃開始!」


 その号令の数秒後、大量の矢と魔装砲、魔法、銃が発射された。未だに第二防壁に多くの者が侵攻を妨げられている敵部隊は次々と死傷者を出した。

 ものすごい戦果に砦内は少なくない喜びの声が上がる。


 だが、次の瞬間にアンドレアス王国の師団員達は戦慄することとなる……


 ヒューン、ドゴーンッ!


 今までとは比にならないほどの圧倒的火力の攻撃が撃ち込まれたのだ。

 そしてその攻撃の余波で第二防壁もついに決壊してしまった。

 グスタフとダミアンは顔を見合わせた。


「ついに出て来たか」

「そのようですね」

 

 そう、竜魔導師が出て来たのだ。


「随分と遅いお出ましですね」

「そうだな、相当な寝坊助なのだろう。奴の相手は私がしよう。アードラースヘルム卿は引き続き部隊の指揮を頼む」

「承知しました」


 グスタフはダミアンに指揮を任せて、まずはアンドレアス王国にとって脅威となるであろう敵竜魔導師の排除に動いた。グスタフの見立てでは敵は恐らく超位竜と契約を結んだ竜魔導師だ。

 属性は雷。なかなかに手強そうな相手である。しかしさまざまな強敵と戦って来たグスタフにとって、緊張しすぎて戦えないなんてことはない。

 

 そっと深呼吸をひとつ。そしてそのまま砦から飛び降り、敵に向かって歩み出すのであった。

 

 

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