宣戦布告!
お待たせいたしました。本日もよろしくお願いします。
僕たちアンドレアス王国の貴族を含めた人民が旧帝都入りをしてから早二年が経った。
その間何か特別なことというのはなかったけど、強いて言うなら僕の新しい領地以外にも続々とアンドレアス王国貴族が予定通り入ってきて、それに伴い人口も順調に増えつつある。
元々アンドレアス王国は人口密度が高めで、貧民街も他の国に比べたら少なめだけど確実に増えつつあった。
なのでここいらで新しい土地を得られて、しかもその土地が完全に機能停止しているとなればたくさんの公共事業が行える。
道を整備し直したり、家をたくさん建て直したり、学園やお金のない家のために教育してくれる教会を増やしたりとやれることはたくさんある。
そこに貧民街で燻っていた人たちを労働力として従事させることによって職のない人を徹底的に排除する。
その後旧帝都が安定してきたら新しい職を斡旋する。そんな感じで政策を進めていく。
もちろんお国やその他の政策に協力している貴族の懐を圧迫する状況ではあるけど、新しくアンドレアス王国・アフトクラトリア"地方"となったこの土地を速やかに治めるにはみんなで協力していかないといけない。
こう言う時にアンドレアス王国は統制の取れた、比較的悪徳貴族が排除されている国でよかったと思う。
もちろん面倒な貴族はいなくはないけど、それでも他国に比べてかなり数が少ない。
そのおかげでどんな政策を取るにしてもスムーズにことが運ぶ。
そうして順調に領地の立て直しが進んでいたアフトクラトリア地方だが、いつの世も平和な時にほど問題は起こるもので、永遠に平和な世の中というのは夢物語なのだなと実感する。
コンコンコンッ!!
いつもより強く叩かれる扉に不安を感じながら、僕はノックしている人物に入室を許可した。
「失礼します!」
入ってきたのはデニスの代理として僕に付き従ってきた使用人だった。
そしてその顔を見る限り、あまり穏やかな内容の報告ではないのだろうと察する。
「うん、どうしたの?」
「それが……」
「仕事が一段落したところだから遠慮なく言ってくれていいよ?」
「承知しました。ではご報告いたします」
「うん」
「ドゥンケルハイト王国がアンドレアス王国に宣戦布告をいたしました!」
「……やはりね、これほど無茶な領地分配をしたのだからいつかは来るだろうとは思っていたけど……予想より早かったな」
「あまり驚いてはおられないのですね?」
「まあ、予想はできてたからね」
そう、予想はできていたのだ。陛下のご決定とはいえ、今回の領地分配はあまりにも他国を軽視した政策に感じた。
何か理由があるのかもしれないので、僕からは陛下に何も進言はしなかったんだけど、苦情書類を送ってきていた国は複数あったのだ。
そしてその中には今回の報告に挙がっているドゥンケルハイト王国も入っていた。
正直その名前を見た時は、背筋が凍った。
(どんな国でもどんな時代でも、国力があるからと調子に乗って他国を軽視するような国は滅びはしなくても手痛いしっぺ返しを喰らうものだ)
陛下はどうお考えなんだろうか……それが気掛かりで仕方ない。ドゥンケルハイト王国は昔から軍事大国で、兵器製造や開発に関しては頭ひとつ抜けている。
おそらく魔装砲や銃なども他の国に輸出されているので、当然ドゥンケルハイト王国でも輸入はしているだろう。
そして開発や大量生産が得意ならば……
(はあ……、普通に装備も新調されて量産体制に入ってるんだろうな〜。だからアンドレアス王国のような大国に喧嘩を売ってきたんだろうし……)
せっかく天使や悪魔との戦いに一段落つけることができたと言うのに、またこれだ。
しかも今度は人類との戦いだ。今更躊躇ったりはしないが、それでもできるなら同じ種族で戦うなんてことはしたくない。
(一難去ってまた一難っていうのは、まさにこのことなんだろうな〜)
数日後、王都より早馬が到着し、特級召喚令状を手渡してきた。つまり何が何でも王都に来いという陛下の御命令だ。
断るわけにはいかない。
「というわけで、行ってくるよ」
「はい、お体にお気をつけて」
「天使や悪魔にも勝った貴方ですもの。心配などしていませんが、エレオノーレと同じく健康的な面で貴方が心配です。忙しくてもお食事などはしっかり摂ってくださいね?」
「うん、気をつけるよ。それじゃあ、行ってきます」
「はい」
「行ってらっしゃいませ」
僕は妻たちに挨拶をして、そこからとある方向に顔を向けた。それは、
「それじゃあジークフリート、アルベルトも、行ってくるよ」
「う〜」
「あ〜」
去年生まれたばかりで、今年ようやく一歳となった僕の子供たちである。たまに単語を話すが、まだまだ滑舌も回らず可愛らしい声を出すことしかできないようだ。
はあ、本当に可愛い……おっといけない、いけない。危うくずっと我が子たちを眺め続けてしまうところだった。
その様子を妻たちに微笑ましそうにくすくすと笑われてしまった。
ダメだよな、しっかり気を引き締めて仕事に臨まないと!
「じゃあ彼らのこと、頼んだよ」
「ええ」
「お任せください」
子供たちを抱っこしながら妻たちがしっかりと返事をしてくれたので、僕は軽く頷くとすぐに踵を返し、転移魔法の発動に取り掛かった。
すぐに王都に着いたので、早速王城に向かう。
いつも通り王都の外壁門前に突然現れたのだが、もう師団員たちは慣れた様子で軽く敬礼をすると詰所に入っていった。周りにいた、王都に入場しようとしていた平民や僕より爵位が下の貴族たちが、一斉に跪き最敬礼をした。
僕は楽にしてくれていいと伝えて、入場手続きに向かった師団員を待つ。
するとすぐに通された。普通なら最後尾で待たないといけないのだが、僕の場合は馬車で来ない時は緊急事態だと周りの民たちからも師団員側からも認識されているようで、明らかな順番抜かしではあるが文句は誰からも出ない。
そもそも公爵の肩章を付けている貴族が明らかに急いでいる様子で門の前にいるのだ。邪魔する方が許されない。
それに家紋も新アフトクラトリア公爵家のものだ。それだけで僕が誰か分かるようで、寧ろ皆が率先して道を譲ってくれる。
そんな公爵という役職の偉大さを実感していると、門番が戻ってきた。
「アフトクラトリア閣下、大変お待たせいたしました。どうぞお通りください」
理由を何も聞かず気を利かせて通してくれているようだけど、彼らも仕事をしないといけない。
彼らの顔も立てないといけないので、念のため、
「ありがとう、一応これ。特級ね」
「そういうことでございましたか。我らの仕事にご理解を示してくださり、感謝いたします」
「こちらこそ、毎回こっちの意を汲んでくれてありがとうね」
それだけ伝えて僕は足速に王都に入った。相変わらず門番たちも仕事が早いようで既に往生に連絡を入れてあったようだ。適当に王城に向かって歩いているとすぐに目の前に豪華な馬車が現れた。
ここは王都だ。歩いて王城に向かえば平民街、上級商店街、貴族街、王城と別れているので普通に1時間以上到着に時間がかかる。
なので僕を迎えにくるために王城に連絡が入ってすぐに馬車が出されるのだ。
だがそれにしても到着が早いと思うだろう。それは最近僕が開発した魔法具の影響だ。
まだ数時間程度の距離ではあるけど、それくらいの範囲ならば通信用の魔法具で連絡が取れるようにしたのだ。
もちろん王城まで直通の有線通信だ。なのでまだ重要な施設以外には通信できないようになっている。
今のところ、冒険者組合や教会、学園、そして王都外壁詰所といったところだね。
とまあそんな感じで早速その魔法具が役に立ったようで、速攻で迎えがきて歩く手間が省けた。
中から出てきたのはやはりと言うか、クリストフさんだった。
「お久しぶりですございます、アフトクラトリア閣下」
「久しぶり。お迎えありがとね」
「いえいえ、これもお仕事ですから」
「ははは、そうだったね」
「では早速ですが……」
「うん、よろしく」
そんな感じで軽く再会の挨拶を済ませ、すぐに馬車に乗り込む。ちなみに家名がラントからアフトクラトリアに変わっているのは、土地を与えられるたびにその地名を名乗っていてはあまりにも名前が長くなるので、この王国の法律では新しく得た土地を以前治めていた土地も含めて治めるものとしてそれら全てを包括し、新しく得た方の地名を名乗るものとする、て言うふうに決まっているからだ。
まあそんなわけで僕は今、アレン・アンドレアス・ベッケラート・アフトクラトリア公爵と名乗っている。
さてさて、そんなアフトクラトリア公爵の初の国家絡みの緊急騒動はまさかの戦争で口火を切る形となった。
魔天教の事もあるし、早い事解決しないとね。
誤字報告ありがとうございます。自分で見直ししても見落とす事はあるので、助かります!