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報告と事後処理

遅くなって申し訳ありません……

 僕たちは天使と悪魔達との戦いの後、すぐに王都に引き返した。戦いの疲れと行軍の疲れが重なり、1週間以上凱旋するのにかかったけど、まあ、概ね問題は無かった。

 途中で残党達に襲われはしたけど、この部隊は全員が精鋭。瞬く間に魔法具やら魔法やら、そして契約竜達と倒して行ってしまった。なので現時点で部隊における問題はない。

 問題は今後の天使や悪魔達への対応についてだ。


「いくら大将を討ち取られたからと言って、彼らがそのまま僕らに恭順するとは思えないし、かと言って共存とかありえないしね〜。どうしたものかな……」


 それが出来てれば初めから戦争になんかならなかったわけだし。

 僕の呟きが聞こえたのだろう、コルネリウスさんがわざわざ返事をしてくれた。


「そうですね〜。戦争状態は既に解除されておりますので、敵を見つけた瞬間に殺害! というわけにはいきませんな。しかしながら彼らが我ら人間の言うことを聞くはずがないのも事実。見つけ次第捕縛、そしていくつか質問をして人間やその他の生物と共存する道を歩むと約束する者達は解放、否ならば……ということを陛下に進言なさっては?」

「その道しかないか〜。全く最後の最後まで問題を残してくれますね〜彼らは」

「そうですね。とにかくまずは陛下のご判断を仰がねばなにも始まりませんね」

「ですね」


 そんなふうに話しながら僕たちは王城に馬車で向かう。ラント公爵家とアーベントロート侯爵家の家紋の馬車が見えているためか、道行く人々が素早く道路を明け渡して跪く。

 そしてその行為をみんな嫌がっているのではなく、むしろそれが出来ることを誇りに思っているような表情をしている。


 なんか嬉しいね。国民に慕われるというのは。こういう光景を目にすると、いつも必死に頑張っている甲斐があるよ。

 彼らからの期待を失望に変えないようにこれからも、

"ノブレス・オブリージュ"の精神で頑張っていかないとね!



 そんなふうに物思いに耽っていると、いつのまにか王城に着いていた。

 衛兵が直立不動の最敬礼で出迎える。そのすぐ後ろからゆっくりと姿勢良く歩いてくる人物がいる。

 

(クリストフさんはいつも動きが早いな〜)


 伝令は既に出していたので、僕たちが帰ってくることは知っていたのだろう。


「お待ちしておりました。ラント閣下、アーベントロート閣下。長旅と激しい戦いでお疲れでしょうが、どうかもう少しのご辛抱を」

「問題ないですよ、クリストフ殿。それに、報告は早めにするに限ります」

「アーベントロート卿の仰る通り。貴族としての義務をしっかりと果たすだけだよ。でも心遣いだけはしっかりと受け取らせてもらうね」

「そう仰っていただけると、こちらとしてもありがたい限りでございます。ではこちらへ」


 僕たちはクリストフさんに促されるままに歩いて行く。今からあの惨状と、ことの成り行きを説明しなければいけないと思うだけで胃が痛くなる。

 ああ、クリストフさんにはああ言ったけど、実は猛烈に帰りたい。なるべく手短に終わらせよう。

 まあ、陛下に色々根掘り葉掘り聞かれて早く終わらない可能性もなくはないけど、それはもう仕方ない。

 

 そんなふうに取り敢えず早く報告を終わらせるようにしようと決意しているとクリストフさんが立ち止まった。


「こちらです」


 いつもの会議室だ。


 コンコンッ


「おお、来たか。入れ入れ」

「失礼します」


 クリストフさんがいつも通り代表して声を上げ、扉を開く。

 その後彼は陛下の後ろに歩いて行き、その場で直立不動となる。仕事は終わりということだ。

 そしてコルネリウスさんが初めに口を開く。本来なら公爵である僕が先に話すべきなんだけど、今回はあくまで師団員として行動していて貴族としては行動していない。

 なので師団内トップが最初に口を開くのは当然の流れなのだ。


「お忙しい中、お時間を下さりありがとうございます、陛下」

「私からもお礼を申し上げます」


 ここまで来たら僕は自由に話していい。なのでコルネリウスさんに続ける形でお礼を言う。


「良い良い、むしろ戦場から凱旋してきたばかりのお主らに報告を強いておるのだ。むしろ余が色々と心配せねばならん。そんなわけで今回はお主らにも座って報告をしてもらおう。流石にもう立っておるのも辛かろう。はようこちらに来なさい」

「お気遣い感謝いたします」

「失礼致します」


 そうして僕たちは陛下や大公閣下方の対面に座って報告をしていく。初めは普通の真顔で報告を聞いていた陛下達だが、途中から神妙な顔つきになり、最後の方ではまた問題の発生か……という嫌そうな顔を露骨にしていた。


「なんともまあ、次から次へと……」

「一度災いが去ったというのにまたですか……」


 ボーゼ大公とバーデン大公が2人して愚痴っている。バルツァー公爵も苦虫を噛み潰したような顔になっている。


 だがすぐに報告から話題が変わり、褒賞の話になる。

 この話に関してはいつも通り宰相のバルツァー公爵から詳しい内容を伝えられる。


「今回の遠征でラント卿とアーベントロート卿にはかなり重大な報酬が支払われます」


 という説明に僕は疑問が生じたので、素直に質問した。


「その報酬とは?」

「はい。それは領地です」

「領地? 僕は既に広大な領地を陛下からお預けいただいているのですが?」

「私も同じく」


 この報酬にはコルネリウスさんも驚きだったようだ。


「それは十分に理解しています。お二人ともかなり広大な領地を持つのでこれ以上受領してもあまり旨味がないというのは」

「では何故?」

「理由はその与えられる領地です。問題はそこなのです」

「領地が問題……」

「はい。その領地とは、旧アフトクラトリア帝国領土です」


 はっ!?


「て、帝国領ですか?」

「はい、そしてラント公爵には旧アフトクラトリア帝都及びその周辺領土を治めてもらいます」


 ブフォッ!? 思わず飲んでいたお茶をバルツァー公爵の顔面にぶっかけるところだった……

 そしてこの反応は予想していたようで、すぐに布巾を渡してくれた。


 ここで、今まで黙って聞いていたコルネリウスさんが言葉を発する。


「事情は理解しました。そして私もその領土の一部を受領するということですか?」

「仰る通りです」

「具体的にはどれくらい増える予定なのでしょう? その割合によっては現領地に留まったまま、新領地に代官を派遣するか、現領地に代官を据えて私が直接新領地を治めるかが変わってきます」

「承知していますとも。具体的な割り当てを申し上げれば、ラント卿には先ほども申した通り、旧アフトクラトリア帝都そしてその周辺都市全て、つまり大公領や公爵領と言った帝都とは別で大きな領土が分配されます。そしてアーベントロート卿にはアンドレアス王国に近い侯爵領や伯爵領辺りをいくつか割り当てると言った感じです」


 そこまで言われて一応納得はしたが、僕は一つ気になったことを質問した。


「一ついいでしょうか、バルツァー卿」

「はい、なんでしょう?」

「私がそれらの領地を受領する予定だというのは理解しました。ですが、バーデン閣下にボーゼ閣下、そしてアードラー閣下がいらっしゃいます。何故私が閣下方よりも広大な土地を収めることに?」

「それは単純な話です。功績です。帝都を解放できたのも、天使に占領されていた土地を解放できたのも、ラント卿やアーベントロート卿、師団員の皆のおかげです。その中であなた方が達成された功績はとてつもないものです。そして勿論のことですが、今回手に入った土地は旧帝国領。故に広大な土地が多くあるので、閣下方にも幾つか土地は分配されます。やはり優秀な方がたくさん治めてくださった方が事態の収拾も早いので。こんな感じでお二人が心配されることは特になく、強いて言えば今後の領地運営についてだけ心配なさってくださればと」


 なるほどな。理解したよ。僕は一向に構わない。何せラント領は既に先進領、代官には信頼できるデニスを配置すれば万事解決だ。そして僕は大手を振って旧帝都に赴任できる。

 問題はコルネリウスさんだが……


「なるほど、理解しました。ではその報酬ありがたく頂戴いたします」

「おお、そうかそうか! では頼んだぞ!」

「はは!」


 あっさり引き受けちゃったよ……。まあいいか、人様の領地のことだ。僕が踏み入って気にすることではない。

 とにかく、今は新しく増える土地のことをしっかり考えていかないとな。


 ああ、また仕事が増える……。そのうちハゲるかも。


 それと最近気づいたのだが、僕はよく報酬を渡される前にその内容を教えられる。

 普通はそんなことはない。報酬は陛下や宰相であるバルツァー卿が事前に決めていて、謁見の間で初めて受け取る側がその内容を知ることとなる。

 だが教えられるということはそれだけ重要な内容ということなんだろうな。

 実際、普通なら人生をかけて大手柄を狙い、それを達成して初めて得られるような勲章などを一回の謁見でいくつももらっている。そりゃ内容が内容だからある程度伝えておくか。そう納得することにした。

 そして今回もそのすごい内容の報酬なので事前に伝えられたということか。



 


 取り敢えず今の僕が考えて動くべきはそのもらった報酬をどう活かしていくかだ。何故ならそのもらう報酬である旧帝国領土は既にボロボロの土地だからだ。

 悪魔達に蹂躙され尽くしたからね。なので統治が大変だと思う。当面はこの領地の発展を考えることだな。


(よぉし、やるぞ!)




 

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