決戦 その3
ようやく書けました! 今回もよろしくお願いします!
熾天のアリエルは苛立っていた。それはなぜか? 目の前で格下のくせに自分に抗ってくる存在にどうしようもない複雑な感情が渦巻いていたからだ。
その存在とは竜魔導師の男である。男はボニファティウスと名乗った。雷の超位竜を従えているようだ。
それは確かにすごいことだが、しかしアリエルにとって格下というのは変わりない事実である。だが現状倒しきることができないでいる。確実に事前に魔将帝と戦っていたことが原因だ。
だがそれを口に出して言い訳をすることは自分の聖天将としての沽券にかかわる。故にイライラして仕方がないのだ。
(ええい! 鬱陶しい! 竜と契約を交わしたというだけで人間がこれほどまでに強くなるとは……誤算だった。だが現状魔力を回復することもできない。この状態で戦い抜くしかないということか)
「いやはや、貴様ら竜魔導師がこれほどまでに我ら天使に食らいついてくるとは思っていなかった。ここは素直に称賛しておくとしよう。だが、これで遊びは終わりだ。これ以上長引かせるつもりはない!」
「はッ! 言われなくともこっちだって終わらせるつもりだっつうの!」
二人がそう言い合った後、ボニファティウスが最初に動き出した。それから雷轟竜に指示を出してブレス攻撃で熾天のアリエルに攻撃していく。
雷轟竜のとてつもない電気エネルギーが込められた雷の収束光線がアリエルに向かっていく。さらに超位竜の力を見よとばかりに、雷轟竜自身が判断をして追加攻撃で雷雲を作り出し、雷の雨をアリエルに振らせていく。光線の威力は魔法の階級換算で帝王級。雷は伝説級だ。
それらの無数の攻撃に合わせるように、ボニファティウスは魔法を発動する準備をしていく。
そしてアリエルの方はと言うとまずは雷轟竜が撃ってきた魔法を防ぐために結界魔法を張っていく。
「念のために帝王級を張っておくか」
アリエルがそう言いながら結界を張り終えると、ちょうどそのタイミングで雷のブレスと落雷が殺到した。バシバシ、ドンドンと轟音を立てながら飛来する攻撃の数々を見て流石のアリエルも肝を冷やす。
(これは……やはり舐めてかかってはいけない相手のようだ)
と気持ちを再度引き締め、今度はこっちの番だということを示すため、ボニファティウスが魔法の準備をしているのもお構いなしに手早く魔法発動の準備を整えていく。
(仮に私が先に放てなくとも、相殺に持っていけばよいのだ)
魔力は無駄にするが、人間と天使では魔力の絶対量が違う。なので自分の魔力を犠牲にしてでも相手の魔力を減らすことに注力した。
だが戦闘に夢中になりすぎて、アドレナリンがとめどなく分泌されて冷静な状況判断ができなくなってきていたアリエルは失念している。
相手が超位竜を従える竜魔導師だということを。それは当然人間の一般的な魔法師よりも圧倒的に魔力量が多いということも。さらに言えば、自分は疲労困憊、向こうは万全の状態で戦場に出向いてきた。
この違いは致命的だ。現に、
「あれ? いいのかよ。俺は竜魔導師で体力満タンでここに来たっていうのによ。すでに心身ともに限界が来てるお前に後れを取るとか思われてんのか?……全く、舐められたもんだぜ」
ボニファティウスが独り言をつぶやいた時点でようやくアリエルは自分の致命的な失敗に気づいた。
だが既に魔法構築を始めており、魔法陣も浮かび上がり、呪文も空中に羅列されている。今慌てて解除してもそれは魔力を本当の意味で無駄にしたに過ぎない。
もはや後の祭りと言えた。
「しくじった……しかし! ならば先に魔法を当てればいい話! 喰らえ! 我が秘奥義、『断罪の陽炎』!』
「おっとそれは残念だったな! こっちも準備万端だ! 死ね、迷惑な鳥ども!『怒れる天の蒼雷雨』!」
この世のすべてを破壊する勢いの真紅の炎と、全てを焼き貫かんとするような蒼き雷が激突した。初めは見事な均衡が保たれていた。
周囲にめらめら轟々と飛び火する炎、アリエルの炎に弾かれてバシバシゴロゴロと飛び散る稲妻、その二つに次第に優劣が出始めた。
ボニファティウスの雷が押し始めたのだ。そして、
アリエルの灼熱の魔法をすべて弾き飛ばし、ボニファティウスの蒼い雷がアリエルを破壊せんと蹂躙を始めた。
「ぬぉぉぉぉッ! おのれ人間! いつもいつも我らの邪魔ばかりしおって!」
「邪魔なのはお前らの方だ。よそ様の世界に来るのはお前らの勝手だがよ、来るなら来るでそこでのしきたりや規則を守ろうや。文明社会においてはな、お前らみたいな秩序を乱すだけでこちらに歩み寄ろうとしない奴らは最終的には世の中の流れに粛清されるって相場が決まってんのよ。分かったらさっさとくたばりやがれ」
「くそったれがぁーーーッ!」
こうして熾天のアリエルと金剛級冒険者ボニファティウスの戦いは幕を下ろした。
「まあなんだ。あっけなく終わったが、結構ギリギリだったな〜。2度とこんな戦いはごめんだぜ」
もう一つの戦場では、
「アーノルド! 援護して!」
「おう! 任せろ! 『氷輪斬』!」
金剛級冒険者アーノルドとベッティーナがそれぞれ竜を召喚しながら戦っていた。
たった今アーノルドが伝説級氷魔法を3連発で敵の聖天将・冥冰のスエラにお見舞いした。
だが敵も弱っているとは言え天使の最高峰。当たり前のように結界で防いできた。
だがその結界で防いだ隙をついてベッティーナが風の魔法を剣に纏いながらスエラに攻撃を仕掛ける。
これもまた直前で結界にて防ぐが、やはり不意打ちをされたのはデカかったのだろう。直後にはスエラが結界ごと吹き飛ばされた。
「チッ! 厄介ね。さっきまで自分が想定していたよりずっと力が上の相手と戦ったばかりだっていうのに、本当に勘弁してほしいわ」
「そう言いながら防いでるじゃねえか! 言ってることとやってることが笑えるほど噛み合ってねえよ!」
「天使っていうのはそういうものでしょ! 次行くわよアーノルド!」
「おう!」
2人が声を掛け合った後、ベッティーナは光の竜と水の竜、そして雷の竜を自分の元に呼び寄せて作戦を固める。
風の竜には援護をさせている。こういう時にベッティーナの下位ではあるが、4体いる竜のありがたみが発揮される。
そしてベッティーナは、
「アーノルド! 私をもう一度援護して!」
「分かった!」
そうして準備を整えたベッティーナが魔法発動の準備に移る。それを察知してスエラが邪魔をしに動くが、さらにそれを邪魔しようとアーノルドが動く。
「させるかよ! 『氷刃剣』!」
「ほんっと面倒ね! 『爆氷弾』!」
アーノルドが氷を纏った剣で切り掛かってきたのをスエラは以前使った爆氷球よりも上の威力の魔法で迎え撃とうとする。だが、アーノルドはスエラに直接的に斬りかかれないと悟ると、剣を腹の面を相手に向けるよう構えた。そして、
「お返しだ!」
そう言いながら爆氷弾をスエラに向かって打ち返した。
「なッ!?」
スエラはあまりの奇想天外な反撃方法に一瞬パニックになる。そしてその隙は大きすぎた。
もろにその一撃を喰らうと、動きが止まる。
その隙を見逃すベッティーナではなかった。完璧に準備が整っていた特大魔法をスエラに叩き込んだ。
「滅びなさい! 永遠にね! 『三属性封滅極大結界』!」
ベッティーナが放ったのは結界魔法でもただの結界ではない。かなり過酷で苛烈なものだ。
何せそれは結界とは言いつつも相手を滅する結界なのだから。水、雷、光の三属性によって構成された永続的に結界内で相手を攻撃し続けるものだ。
しかもその攻撃を維持するために結界内の空間、及び封印対象から魔力を奪う。
体の構成要素がほとんど魔力である天使にとってこれは天敵とも呼べる技なのである。
そしてスエラはそこに囚われてしまった。
要するにもう詰みである。
「ぐッ!? こ、これは! 魔力を吸われる!? おのれ! 忌々しい結界……ガハッ!?」
スエラがベッティーナを睨みつけて怨嗟の念をぶつけていると早速結界からの攻撃が始まったようだ。
これで体力、魔力共に消耗し、彼女はいずれ塵と化す。
「終わった……」
「ああ、よくやったよ。やっぱりお前はすげえな! ベッティーナ!」
「ありがとう。貴方も凄かったわよアーノルド」
2人は互いの健闘を讃え合うと本陣へと踵を返す。
これで幹部達との戦いは全て決着がついた。後はどうなるか。それはアレン達にかかっている。