決戦 その1
お待たせいたしました。
バシバシ、ドンドンと力と力が激突し合う音が辺り一帯に鳴り響く。
人間の上位者と、悪魔や天使たちとの死闘が繰り広げられる中、悪魔や天使側は面白くないという面持ちで事に当たっている。それはどういう意味かというと、
(人間どもめ、ニ千人程度しか連れてこなかったので不思議には思っておったが、まさか全員が竜魔導師か魔法具を身につけた強者だったとはな……我らの手勢がみるみる減っておる。クソッ!)
(まさかこれほどまでの大軍団で攻めてくるとはね〜。驚きだわ。昔は強い人間は貴重だったから少数精鋭で何人かの竜魔導師が邪魔しにくる感じだったのに。人間の数の増え方を少し侮っていたかしら)
一際大きな個体の悪魔と天使の親玉が各々そういうふうに考えていた。
そして彼らが言っていた人間側の全員が強者というのはまさにその通りであり、ここには本当に強いものしか連れてきていない。
だが当然この戦場だけに竜魔導師や強い魔法師や魔法剣士を連れてきたわけじゃない。王都にもしっかり予備戦力は残してきてある。
こういう対応ができるのも、大国の余裕である。
なら何故初めに彼らがこの人間の軍団は強者しかいないと気づかなかったのか、それはアーベントロート侯爵ができればギリギリまで戦力情報を隠そうと、許可が出るまで隊員たちに力の解放を許可しなかったからだ。
そして今になってようやくゼデルゲートもアヴェリーナもこの軍団の厄介さを理解したのであった。
そんな感じで状況が推移して行く中、アレンたちは、
「思ったより押しておりますな、ラント閣下」
「ですね。それに後方部隊の戦場での戦いも思いの外、銃と魔装砲が……」
「大暴れしている様子ですね」
「我作品ながら舌を巻く性能ですね、全くもって頼もしい限りですよ」
「あれがなければ魔法を高度に扱える者以外、戦場に足を踏み入れることさえできませんでしたからね」
そうなのだ。銃や魔装砲が無ければ今頃人類はもっと少ない人数で特攻じみた作戦を展開せざるを得なかった。
そう考えると必死に魔法具を開発しておいて正解だったな。
ってなんでこんな呑気に会話できているかというと、魔将帝や聖天将の相手をグスタフたちが引き受けると言って聞かなかったからだ。
危険だと一瞬思ったけど、よくよく考えたら僕の私兵の竜魔導師も連れてきている上に、出陣前に全員平等に僕や国の最高の魔法具師たちが開発した魔法具を装備させている。
冷静に考えてみたら戦えないこともないだろう。
それに、
(今の俺の同期や私兵の上位陣たちはものすごい成長を遂げている。この間、僕もヒヤリとするほどの魔法を喰らいかけた)
そう考えるとなんとかなりそうな気がしてきた。実際グスタフやツェーザル、エデゥアルト、そして私兵の竜魔導師を筆頭に魔将帝や聖天将たちとやり合ってる。
大丈夫だ。彼らを信じよう。
そうと決まればこちらのやることはただ一つ。
(あのデカブツ2人を倒さないとね)
そう覚悟を決め、僕はコルネリウスさんに許可をもらい、
浮遊しながら戦って、それでもこちらを警戒するそぶりを見せる2人に近づいて行く。
真紅の劫火が爆裂しながら迫ってくる。それを防ぎながらグスタフは思う。
(おのれ……先ほどまで聖天将どもと死闘を繰り広げていたのだろう? 底なしかコイツら! 化け物め! 今は2人で攻めているからまともに戦えているが、ツェーザルもいなければジリ貧でやられていたかもしれんな)
グスタフはそんな感想を抱く。
「ははは! お前ら良いな! 竜魔導師とは久しぶりに戦うが、これほどまでに練度の高い技を扱う者は稀だ。俺とここまでやりあえるとはな、誇って良いぞ?」
「ふん、貴様ら悪魔に褒められても嬉しくなどないわ」
「そうだね、僕もあんまり嬉しくはないかな」
「ヘッ! 生意気な奴らだ。だがそういうのは嫌いじゃねえ。しかしだ、俺はあの小僧を倒さないといけない。故にお前らの相手なんてしてる暇ないんだよ」
「奴を倒さないといけない……か」
「ぷッ! あははは!!」
ツェーザルはいきなり笑い出し、グスタフも少し肩を震わせている。
それに対してヴォルドールは……
「何がおかしい!」
そう怒鳴りながら闇と炎の混合帝王級魔法を撃ち込んできた。
「ふん、貴様は友を失った悲劇の主人公でも演じているつもりか? 全くもって反吐が出る!」
「自分達から攻撃を仕掛けてきておいて、自分達から人間や他の生物の世界を汚しておいて、自分の仲間が殺されたら逆ギレってどれだけおかしな思考回路をしているんだか。悪いけど僕たちは君ら悪魔たちに同情なんかしないね」
「そして未だなお、我々の世界に害をもたらそうとする貴様らを排除するだけだ。奴の元に行きたければ、まずは我々を倒すんだな」
そうやって言い返しながら、軽く帝王級魔法を防いでみせた。それから畳み掛けるように、
「この世から消え去るが良い! 『炎竜の行進』!」
グスタフは炎の災厄級魔法を放った。災厄級だ。とんでもない威力と熱量でもってヴォルドールに突っ込んでいく。
真紅の体で炎で形作られた竜のような魔法が一直線に敵を屠らんとその身を燃え盛らせる。
そしてその隣には本物の竜である業炎竜が並んで突撃して行く。そして腕と手のひらに灼熱の炎を纏いながら強靭な爪で引っ掻こうとする。
"焔爪"と呼ばれる業炎竜の好きな肉弾戦用の強化魔法だ。
「じゃあ僕も。『水帝の槍』!」
ツェーザルも帝王級の魔法を放った。物凄い量の水を槍の形に凝縮し、放つ。シンプルかつ強力無比。
そしてツェーザルの水竜は膨大な魔力と水分を一点に凝縮して光線のように放った。
これはツェーザルの水竜が愛用する"滅びの聖水"と呼ばれる魔法だ。威力は伝説級。
だが、ヴォルドールも簡単にやられるわけにはいかない。すぐに二つの魔法の危険性を察知し、帝王級結界魔法を張る。
そして大爆発が起こる。煙が晴れ、人影が姿を現す。
それに対してグスタフたちは舌打ちを禁じ得ない。だがすぐにその気持ちは霧散する。
何故なら、
「グオッ! クソ! だんだん魔力の質が落ちてきてやがる!」
ヴォルドールが焼け爛れた体で必死に自身の体を再生しようと格闘していたからだ。
「ふむ、どうやら限界なようだな。それもそうか、何せ我々の前に聖天将とも戦っていたのだろう? 逆にここまで我々と張り合っていること自体が異常なのだ」
「確かに言えてるね。人間ならまず間違いなく戦うことすらできてないもんね」
「ふん、褒めているのか? それとも死に損ないが足掻いているのをみて皮肉っているのか?」
「単純に称賛だな」
「同じく」
実際、自分と同格の者と激しい戦闘をした後に竜魔導師とも戦うなんてこと、普通人間なら不可能だ。
いや、悪魔や天使であっても下位の者ならばまず不可能。故に戦闘が成り立っていること自体が魔将帝という存在の理不尽さを体現していると言えるだろう。
「ふん、強いのは当たり前だ。我らは悪魔だからな! だがまあ称賛は素直に受け取っておかじゃねえか。じゃあ、正真正銘、これが最後だな。行くぞ!」
「お前のその強さに敬意を表し、最後まで全力で挑む! 本来なら全開のお前と戦いたかったのだがな」
「仕方ないよグスタフ。流石にそれは難しいもん」
「わかってはいるのだがな……」
「はっ! よくわかってんじゃねえかお前ら! そうだよ全開ならお前たちは均衡を保つこともできなかった。だが無い物ねだりしても仕方ねえ。今の状態でできるとこまでやってやる!」
そこまで喋った後、三人は突如無言となる。そして、
「行くぞ! 『竜炎の剣』!」
「『深海の大精霊』!」
グスタフの頭上には平均的な成人男性の4倍はありそうな全長の巨大な炎の剣が顕現する。
ツェーザルの眼前には水で型取られた女性が顕現した。一見ただの女性に見えるがその体に内包する魔力は想像を絶する。
「ヘヘッ! いいねえ! 来い! 『大悪魔の赫怒』! 俺の最強魔法で相手してやる!」
そういうとヴォルドールは全てを飲み込みそうな闇と全てを消し炭にしそうな炎で作った禁忌級混合魔法を放ってきた。
空気も魔法の周囲の光も触れるものも全てを飲み込みながらグスタフたちに迫ってくる。
そして三つの魔法と、業炎竜と水竜が放ったブレス攻撃が全て衝突する。
それは普通なら発生し得ないほどの破壊エネルギーを生み出す。
爆発の中心地から膨大なエネルギーが放出され、直後衝撃波を放ちながら辺り一帯を蹂躙した。
爆発が止み、煙が晴れた頃、その場にいたのはグスタフとツェーザル2人と彼らの竜たちだけだった。
だが2人とも、
「はあ、はあ、全く。最後まで化け物だったな……」
「あははは……そう、だね。これが理不尽ってヤツ、なのかな……はあ、はあ」
完全に満身創痍である。幸い、この周辺には天使や悪魔の下っ端たちがいない。
なのでこのように呑気にできているが、いつ新手が来るか分からない。
なので早くこの場を去ろうとするのだが、2人揃って、
「「体が動かない…」」
2人で顔を見合わせて、情けなさに苦笑する。だがそんな穏やかなひとときは束の間の出来事で、すぐに新手が来た。
「不味いな……。わたしたちはもう動けんぞ」
「絶体絶命ってやつだね」
2人同時に覚悟を決める。やるべき仕事は無事に達成できた。あとはこれが戦局にいい影響を与えてくれることを祈るばかりである。
そう思っていた矢先のこと、
「ベーレンドルフ閣下! アデナウアー卿! ご無事ですか! 今お助けします!」
そう言って数名の部下が助けにきてくれのだ。
「意外となんとかなったね」
「そうだな。彼らもよく見つけてくれた。戦後には彼らにはそれ相応の報酬を支払わねばな」
「だね」
その後、魔法具や銃を身につけた魔法師及び魔法騎士の師団員たちの尽力のおかげで、グスタフとツェーザルは無事に本陣に戻れたのであった。