緊急会談。そしてアンドレアス王国大師団出撃!
遅くなりました! ごめんなさい
王都についた僕は早速王城に向かった。
勿論、事前に妻たちを王都の屋敷に送り届けてからだけどね。
「ではデニス、後の事は頼んだよ」
「万事お任せくださいませ。お家も、奥様方もお守り致します」
「うん、宜しく」
僕はそう言うとすぐに王城の門に向かっていった。既に完全に礼服に着替えているため、家紋も勲章も肩章も身につけているので、衛兵たちは僕の姿を視認した途端直立不動になって最敬礼をして来た。
「ラント閣下、お待ちしておりました! すぐに案内の者をお呼びいたします。すぐそこに待機させておりますゆえ」
「お仕事ご苦労様。頼んだよ」
「はは!」
衛兵はもう一度敬礼をして去っていった。何故かだらしないほどに口元を綻ばせながら。
「何かいいことでもあったのかな?」
僕の独り言が聞こえたのだろう。もう1人の衛兵が答えてくれた。
「閣下は我らが王国の象徴的存在、そのお方と言葉を交わすことができて嬉しかったのだと思います」
「象徴って、大袈裟だな〜……それを言うなら陛下の方がふさわしいと思うけど?」
「陛下が象徴たる事はお国の頂点であるので自然の理、故にそれ以外の形で象徴的に見られておられる貴方様がより特別で尊いお方に思えるのでしょう。いち民としての意見ではございますが」
「なるほど、確かに陛下を象徴と思うのは当たり前のこと。むしろそう思わない方が問題あるか。なるほど、助言ありがとう」
「貴方様のお役に立てて光栄の極みにございます」
「ははは……それはどうも」
僕は自分よりも年上な筈の衛兵の仰々しい受け答えに苦笑を禁じ得なかった。
まあ、慕われるのは悪いことではないし、むしろ良いことだ。ありがたくその気持ちは受け取っておこう。
そうして衛兵と話して3分ほどした頃、クリストフが現れた。
「お待ちしておりました、閣下。既に重鎮の皆様がお待ちです」
「うん、じゃあ、今日も案内宜しく」
「お任せください」
そうして城に入り、5分ほど進む。いつものルートだ。てことは謁見の間ではなく、会議室か。
程なくして会議室の前に着く。
コンコンッ
クリストフがノックをした。その直後、
「おおっ、ようやっとついたか! 早通せ!」
「ああ、これでなんとかなりそうです……」
中から陛下や重鎮たちの安堵する声が聞こえてくる。
「失礼します」
「おお、ラント卿、待っておったぞ! ささ、そこに座れ」
非常に焦った感じの陛下から先を促され、椅子に座る。
「初めに謝罪を、今回は妻も同行しており、護衛の為、転移で来れませんでした。申し訳ありません」
僕はまず第一声で、あまり責めないでねー。仕方なかったんだよ? と言うのを暗に伝えておく。
これで陛下なら理解を示してくださる筈。
「それは報告で聞いておる。致し方ないことである。それでも早く来れるよう、飛ばして来てくれたのであろう?」
ほらね?
「勿論でございます。馬を走り潰して途中で立ち往生しない程度にではありますが、馬車を御していた担当の者になるべく急いでもらいました」
「で、あろうな。なんせ伝令の者に聞いたが、ここからかなり離れた土地でお主は連絡を受けたと聞いている。それにもかかわらず、半日で王城にまで来てくれた。感謝こそすれ、気にはせんよ。安心せい」
「お心遣いに感謝申し上げます」
そこから一言二言話した後、早速本題に入った。
「つまり、悪魔も天使も全軍をあげて好敵手を討たんと動いているということか……全くもって恐ろしいことよ」
「いかにも、これは早急に動かねば、人類は滅びを迎えますぞ」
「報告には異常なほどに強く、瞬く間に周辺地域への被害を広げ続ける個体が居るとか」
僕は報告を受けるたびに気を引き締めていた。そして今最後に語られた報告……おそらくは、
「その個体、おそらくは魔将帝と聖天将でしょう。聖天将については以前に戦った天使が喋っていました」
「やはり、か。此度も強い個体がおるのだな。やれそうか? ラント卿」
「わかりません。単体ならまだしも、今回は集団で動いていると言うお話。規模が違いすぎます。おそらく私1人では不可能でしょう」
「で、あるか。あい、分かった。お主の同期全員に出陣命令を出すとして、さらに精鋭である近衛師団員を国土の守りの分以外は全員に出陣命令を出す。その他の一般部隊の師団員は国内待機だ。精鋭達ならば下位個体や中位個体に対してではあるが、銃や魔装砲でも十分対応可能な筈だ」
「感謝します」
「うむ。では今回も頼んだぞ」
「お任せを」
こうして僕は再び天使と悪魔との戦いの地に足を踏み入れることとなるわけだ。
はあ、ほんと適当に暴れたら勝手に自分達の住処に帰ってくんないかな?
無理か……はあ。
そんなわけで、僕は急いで領地に帰り、私兵を総動員で編成し、出陣の準備を整えたのだった。
同刻、件の土地では、
ドガーンッ、バシバシバシッ、ゴオォォォッ
絶対零度の冷気により凍った地面、それらをすぐに溶解せんと燃え盛る劫火。
生きとし生けるもの全てに鉄槌をとでも言わんばかりに降り注ぐ蒼き雷、全てを巻き上げ、全てを抉り去る竜巻の数々。
正義を象徴するかのように爛々と輝く光の煌めき、まるで地獄を体現するかのように燃え盛る獄炎。
あらゆる天災が巻き起こる不可侵の土地と化したこの地はもはや自然に存在していて良い場所ではなくなってしまった。
もはや天変地異と言っても過言ではない。
そんな悪魔と天使同士で激しい攻防戦が繰り広げられる中、他の同胞たちよりひと回りほど大きい存在が2人で何やら話している。
「久しぶりね〜、何年ぶりかしら? ゼデルゲート」
「ふん、忌々しい羽虫の統率者め。何年ぶりだと? 余が貴様風情と会っておらん年数を数えてやっているとでも? 寝言は寝てから言うものだぞ? アヴェリーナ」
「あら、名前はちゃんと覚えてくれてたんじゃない〜。もう素直じゃないんだから〜」
「何故だろうな、毎度毎度貴様の話している姿を見ると、体内にある汚物を口から吐き出してしまいたくなる現象に襲われるのは」
「あははは、もう歳じゃない?」
「貴様こそババアであろう?」
「はいはい、爺さんは寝床で寝とかないとね〜。ほら、爺さん、夜ご飯はさっき食べたでしょ?」
「まだ、ボケとらんわ!! アホが」
なんとも気の引き締まらない会話を続ける2人、しかしその間には一切の油断も隙もない。
お互いが仲が良さそうに見えて、本質は殺し合いをする相手だと分かっているからだ。
そして、
「くだらぬ戯言のやりとりもここまでだ」
「ええ、その方が良さそうね。みんな頑張ってるし」
「ゆくぞ!」
「来なさいな! 久しぶりに暴れてあげる!」
こうして世界は数千年ぶりにあの危機に見舞われる。この2人が戦えば、地は割れ、空は歪み、気がつけば雷雲が発生し、雷雨を降らす。
それすなわち、世界の滅亡。
これを阻止しなければ、人類は今度こそとてつもない恐怖に絶望することになる。