妹夫婦の訪問、そしてディルクの?……
遅くなりました!
魔装砲が正式に師団用魔法具に採用されてから、早1ヶ月が経った。
その間に変わったことといえば、大きな変化は特にはないけど、まず一つ目は魔装砲がちゃんと他の国にも情報提供され、いろんな国々の軍事力が上がったこと。
そして二つ目はそれらを用いた各国の師団が頑張ってくれたのもあり、どんどんと悪魔や天使の下っ端たちが人間界から駆逐されつつあること。
そして上位悪魔や上天以上の天使と悪魔たちもダミアンやカール、ツェーザルやグスタフ、そしてコルネリウスさんら国のトップクラスの人達が、頻繁に出撃し、倒して行っていること。
それくらいかな? まあ、人類存続という目標に関して一歩一歩進んでいるのは確かだけど、劇的な情勢変化は今のところ起こっていない。
そういうわけで、最近は比較的平和に過ごせていて、貴族の仕事に専念できている。
特に最近力を入れているのは魔装砲の量産および配備、そして悪魔や天使たちからのちょくちょく起こる攻撃で被害を受けた村や町に食料を迅速に手配するというものだ。
後者が特に重要。なんせ悪魔や天使の攻撃はどれもこれも人類にとっては凄まじいものばかりだ。
特に天使が難儀だ。彼らは自分達が悪魔に勝利する為のことしか考えてないのだ。
なので人類をわざと攻撃しているというよりは、自分達が良さげと思って基地にしようとしている場所にたまたま人間がいたという形だ。
それで邪魔をされるから排除しようと動いている感じ。
悪魔に関してはあれは本能らしいので、最早どうにもならない。初動を速くして対処するしかない。
これらの後始末のため、人々が被害を受けた地域には速やかに援助をしないといけないのだ。
この援助に僕やシュナイダー伯爵が主導となって動いている。その影響か、最近の僕の評価は上がる一方らしい。
こんな感じで色々頑張っている中、先日カールから手紙が届いた。そしてその内容とは、僕の領地に遊びにくるというもの。表向きは視察訪問。
だけど実情は普通に旅行をしにくるだけだ。
アンナと2人でこちらに向かってくるらしい。急だとは思うけど、僕としては大歓迎だ。久しぶりに可愛い妹と、親友の1人に会えるんだから。
ただ、おそらくだけど昔みたいにお兄さま〜っていってアンナが抱きついてきてくれないであろうことが少し寂しいけどね。まあ、これはあくまで僕が思っているだけで、もしかしたらまだアンナは甘えんぼうなのかもしれない。だけどもう12歳だし、だいぶ落ち着いているだろう。
さてさて、しばらく家族とは会えてないから楽しみだ。アンナはどんなふうに成長しているのか、元気にしているのか、カールも元気にしているのか、すごく気になるところだ。
そんなふうに思いながら待つこと1日。
2人が乗る馬車が僕の館の前に到着したようだ。
早速、執務の手を止めて玄関に向かう。すると使用人が大きな扉を押して玄関が開け放たれた。
そして主役の2人が入ってくる。
「ようこそ、ラント領へ。歓迎するよ、アンナ、カール。今日は……」
ゆっくりしていってね? と言おうとした時にいきなり何かに突進された。
何事かと思って胸元を見ると、アンナだった。
ははは、相変わらず素敵な妹で感激だよ。
「お久しぶりです、お兄さま! ずっとラント領にきて、お兄さまとお話ししたかったです」
「あはは、僕も久しぶりに会えて嬉しいよ。それにしても相変わらず元気いっぱいだね」
「はい! カールさんのおかげで毎日が楽しいです!」
「それはよかった。素敵な人と出会えて良かったね」
「はい!」
「カールも元気そうで何よりだよ」
一瞬だけ空気状態だったカールとようやく話ができた。
「うん、アレンこそ元気そうで良かった。たくさん話したいことがあるよ」
「そうだね、僕もだよ」
「確かアレンはお酒が好きだったよね? いい葡萄酒を手に入れたから一緒に飲みながら話そうよ」
「それはいいね! 是非いただくよ。ありがとう」
「ははは、いいっていいって。お酒が好きなのも強いのも完全にご両親譲りだね」
「そうだね。お酒に強くてもあんまりいいことはないけど、それでも好きなお酒をたくさん楽しめる利点はあるかな。その点で両親には感謝してるよ」
そんな感じで、軽い再会の挨拶を済ませた後、2人を居間に案内した。
男爵時代にあてがわれた屋敷を伯爵時代に陛下からそろそろ屋敷を変えなさい。と言われて一旦取り壊して再築した伯爵家用の屋敷だ。
居間だけでもかなりの広さを持つ。ぶっちゃけいらないとは思ったんだけど、陛下曰く上級貴族ならば大きな屋敷を持つのは常識らしい。
つまりそれを持っていないだけで舐められるぞ? と暗に教えてくれたのだ。
そしてその時に、別に派手でなくともいいのだ。ただ大きければな、とも言われた。
むしろ、そう言った侘び寂び的な美的観念こそが真の芸術センスなんだってさ。
しかも今となっては公爵位。さらに屋敷を作り替えるように言われている。
もうこればっかりは仕方ない。と、そんな今は関係ない話を思い出しながら、カールたちを居間に案内していく。
「流石アレンの屋敷。立派で大きいね!」
カールのセリフに僕は苦笑いしてしまう。何故ならさっきも考えていたように…
「カール、褒めてくれてとても嬉しいんだけど、実はこれでもまだ公爵家の屋敷としては不足なんだって」
「え!? そうなの? これだけ大きいのに?」
「うん、公爵になったからまた新たに屋敷を作り直すように陛下に言われてるんだ」
「そうなんだ。大変だね」
「うん、大変だよ〜。でもまあ、この国は影響力のある貴族の屋敷の増築、もしくは再築はお金を出してくれるからまだありがたいんだけどね」
「それなら労力はいくらか減らせそうだね」
「まぁね」
その後は一緒に夕食をとったり雑談をしたりしながら過ごし、食後の葡萄酒もカールと楽しんだ。
だけど、そんな時にカールがこんな話を持ち出してきた。
「そうそう、君の弟君のディルク君がさ、婚約者が決まったらしいね」
と、とんでもない爆弾発言を繰り出してきた。
「え? 聞いてないんだけど?」
「え? そうなの? 随分とアレンのことを慕ってる子だからてっきりもう伝えてると思ってたんだけど」
いや、そんな報告は一切受けていない。初耳だ。
ま、まさか!? ディルクはもうお兄ちゃんに構ってられないから後回しにしてるとか? いやいや、あのディルクだよ? 彼に限ってそれはないんじゃ……
そんな恐ろしいことを考えていると、
「あ、でもよく考えたら納得だね。だって僕の領地の方が近いし。情報が届く順番的にどうしてもアレンの方が後になっちゃうでしょ?」
そう言われて確かにと僕は納得した。そうやって話している時にアンナがちょうど会話に入ってきた。
席を外していたので今帰ってきたのだろう。
「ディルクお兄さまに限ってアレンお兄さまにお話しないなんてことはあり得ないです。多分、カールさんの仰った通りまだ情報が来てないのですね」
「それもそうか。なら詳しい話はその報告の時の楽しみにしておこうかな?」
「うん、その方がいいね」
そんなこんなでまさかの弟の結婚まで決まり、最近は本当にめでたいことがよく続くなと思った次第である。
願わくばこの平和な毎日が当たり前のように速くなってほしい。切実にそう願う。