王公の集い、そして商談
王公社交界に参加するために会場に来た僕。そこではもうすでに何人かの公爵たちが談笑していた。中には初めて見かける人もいる。挨拶しとかないとな。
「御機嫌よう、お初にお目にかかります」
「おお、初めまして! うんうん、なるほど。その若き年齢ということで流石に初対面でもわかりますぞ。貴殿はアレン・アンドレアス・ベッケラート・ラント殿ですな。我々公爵の中でも数少ない、第二の苗字として誉れ高きアンドレアスの姓を名乗ることを許された傑物! お会いできて光栄ですぞ」
「これはこれは、こちらこそお会いできて光栄です。貴殿とは仰る通り初対面ですね。ですので、失礼ですがお名前を伺っても?」
「おお、これは失敬! 私はアヒム、アヒム・バッハシュタイン公爵。お初にお目にかかりますぞ。こうして新たに五人目の公爵を迎え入れることができて本当に嬉しい限りですな! そうは思いませぬか、フロイデンタール公爵?」
僕が声をかけた公爵、アヒム・バッハシュタイン公爵。ようやく名前と顔がつながった。この方はアンドレアス王国の財務関連の業務の大部分を担っている超重要人物だ。僕も四公の名前を覚えるときはバルツァー公爵家の次に名前を覚えたくらいだもんな。
そして彼は隣にいたフロイデンタール公爵に声をかけた。当然だけど彼は知っている。以前に王家主催の祝宴に赴いた際に、声をかけてくださった四公の一人だ。今となっては五公だけどね。
とりあえず知っていても挨拶は重要なので僕はフロイデンタール公爵に声をかけた。
ちなみに僕らほど爵位が高くなった貴族は基本的に貴族敬称では呼び合わない。格に見合ってないと思われているからだ。
いくら同格とはいえ、公爵相手に卿というのはちょっと、というのが理由だそうだ。かといって閣下呼びは下の者がすることなのでそれもおかしい。
ということで一番無難な役職名か(財務大臣とか)、もしくは爵位名で呼ぶのだそうだ。
取り敢えず、フロイデンタール公爵にも声をかけると挨拶が返ってきた。
「お久しぶりですな。今日は非常にめでたい日だ。既に法的には貴殿は公爵と認められている。しかし本当の意味で公爵と認められるのはこの社交界に出席してからだ。という訳で今日この瞬間より名実共に公爵となったラント殿、今後もよしなに頼みますよ」
「こちらこそ、再びお会いできて光栄です」
そんな感じで取り敢えずその場にいた公爵たちとは挨拶を終えた。
そうしてしばらく皆がゆっくりと過ごしていると、陛下及びそのほかの王族の方々が入場してきた。
いや〜こうして見ていると壮観だね。陛下、王妃、王太子殿下、そして三大公のアードラー大公、ボーゼ大公、バーデン大公。全員が出揃った。
ちなみにあの場に、第一王女と第二王女がいないのは嫁いで貴族夫人になったからだ。
1人は当然ビアンカで僕の妻だ。もう1人はグスタフのお嫁さんだね。ビアンカが第ニ王女で、グスタフのお嫁さんが第一王女だ。そんなわけで2人はあの場に立つことができない。
じゃあ王妃以外の夫人はどうしているのかというと、ビアンカも含め、今回参加する貴族の夫人たちは別室で今は待機している。理由は準備に時間がかかるのと、レディファーストの概念からか男性側が先に会場に来て女性たちを出迎えるというスタイルになっているためだ。
後でビアンカたちも会場に入ってくる。ちなみに当然だけど、僕が公爵になったことでエレオノーレも公爵夫人ということになるので、王族扱いになるから参加権限がある。
故にエレオノーレもビアンカと一緒に別室でおめかししたりしている。
そして妻たちが会場入りする前にまずは陛下から開会のお言葉を頂く。
「ええ、我が一族である諸君! 今日は忙しいであろうによくぞ集まってくれた! 礼を言うぞ。さて、そろそろ女性陣の支度も整った頃だろう……ああ、今合図がきたな。それでは麗しい花の登場だ。皆拍手で迎えよ!」
パチパチパチ!!
「よし、役者は揃ったな! それでは本日の王公社交界、開会である!」
その後、まず初めに皆一人一人が陛下とその家族の皆様に挨拶に向かった。もちろん僕もその列に並んで挨拶をした。
そうした後は皆それぞれが好きに食事を取ったり、お酒を楽しんだり、仲のいい貴族同士で談笑していた。
僕はこの場にいる皆さんと仲が悪いわけでは当然ない。でも何となくエレオノーレとビアンカの3人でいた。初めはたくさん声をかけられたし、これからは自分達の領地ともぜひ商売をさせてほしいと頼まれたりもした。
だからこそだろうか、元々こう言う場は嫌いではないけどそんなに好きというわけでもなかった。
なので一通りなすべき礼儀は成したし、仕事の話もある程度まとまったので、3人でお酒を楽しんでいた。
はあ、悲しきかな……血は争えないとはこう言うことを言うのか、僕もかなりのお酒好きアンド酒豪みたいだ。
前世で言う、ワクほどではないけど、ザルには分類される程度には強いだろう。
今もレミンソンというこの世界の代表的蒸留酒700mlクラスを1人で飲み切ったし、今まさにさらにラグナーと呼ばれる葡萄酒をボトル一本開けてるし、レミンソンを飲む前には軽く麦酒、要はビールだね。それを大きめのコップ3杯くらい飲んだ。
両親が酒豪だから確実に自分も酒豪だろうとは思っていたけど、ここまであからさまだと開き直るよねもう。
「ああ、もうアレン様ったら、本当にお酒がお好きなんですね」
「お義父様の血を色濃く受け継がれているというのが分かりますね」
2人は僕が酒飲みなのは、既に知っているからか、仕方ないなという顔で微笑んでいる。
本来なら小言を言うところなのだろうけど、僕が回復魔法を使えると言うのを知っているからか、あまり強くは言ってこない(肝臓に回復魔法をかけることで体調を整えることも可能なのだ)。普段はある程度セーブしてるのも影響していると思う。
なので僕はこの体質をしっかり受け止めて、こういう場では遠慮なく、普段晩酌をするときはコップ2、3杯で止めておくと決めているのだ。
ちょうどラグナーを飲み終わったので肝臓に回復魔法をかけておくのも忘れない。
酔いはしなくても肝臓には確実にダメージがいってるからアフターケアを怠らないように飲んだときはしっかりとやらないといけない。
そんな感じでなんだかんだお酒を楽しんでいた俺たちのもとへ陛下がやってきた。
「はっはっはっは! 流石エトヴィンの息子だな! 血は争えんな!」
「陛下……お酒自体は好きなのでいいのですが、お酒に強すぎること自体は少し気にしている部分なので出来れば弄らないでいただけると……」
「何を言っておる、余も結構いける方だが、あやつほどは無理だ。だが酒自体は好きなのでな! お主とエトヴィンが羨ましくて仕方ないわ! ははは」
陛下は僕の遺伝をいたくご満悦のようだ。と、そんな感想を抱いていると、ふと陛下の目が真剣になった。
どうした? と思っていると、
「アレンよお主にちと、仕事の事で話があっての、今良いか?」
「もちろんでございます」
そうして皆から少し場所を移したところで話が始まった。ちなみに他の王族の方も勢揃いしている。
だが流石に仕事上で国王と公爵が話しているのだ。王妃以下、正式な役職を持たない彼らは静かに陛下の後ろに控えている。ビアンカたちも同様だ。
他の公爵や大公はまだ会場の真ん中らへんで談笑している。
そんな感じで取り敢えず場は整った。なら早速、
「陛下、お話というのを早速ですが伺っても?」
「うむ、実はな、お主に新たな師団用魔法具の開発を頼みたいのだ」
僕は今おそらく、ぽっかーんとした顔をしているだろう。
それは何故かって? 理由は簡単。既にラント領の学園や王都の学園で優秀な魔法具師がいるというのに、何で僕? という顔だ。
最近は王国の魔法技術が底上げされてきている。昔みたいに僕だけが常識の埒外みたいな魔法具を開発していた時代じゃない。
みんなが僕が伝えたいろんな効率のいい魔法具の作り方などを学んで実力を上げてきている。
段々と昔なら奇想天外と言われるような発想で魔法具を作る人も増え始めた。
なのでわざわざ僕に頼る必要なんてないのだ。そう考えていると、
「取り敢えずそのアホヅラを止めよ。はしたないぞ。そして何故というお主の顔に対する答えだがな、要は我らが今欲しているものはお主にしか作れそうにないものなのだ。他の魔法具師に頼んでみたら全員難しい顔をしよった。そういう事だからお主に頼んでおる」
一体何を作らせるつもりなのだ? お義父様? いやよ? へんなもの作らせちゃ嫌よ?
とそんなふざけた思考は通じぬとばかりに見せられた要望書を見て僕は天を仰いだ。
パパよ、それは俗に言う"大砲"と言うやつではないかね?
火薬ならともかく、魔法でそんなもの作ったらそれこそ無双状態になるよ。
「つまり、銃の巨大版を作れと仰せで?」
「そうだ、余はそう仰せだ」
ものすごくふざけた回答が返ってきたけど、作る事自体はできそうだ。
だけどこれ以上前世の記憶を元に兵器を作って行った場合。他の国とのパワーバランスがおかしくなり、将来悪魔や天使を滅ぼせたとしても、他の国から警戒心や敵愾心を買いまくるのではと気が気でならない。
理由なんて簡単だ。
かつて地球でアジア最強に上り詰めた大日本帝国。その天下が続かなかった理由は極シンプル、
あまりにも資源不足だったから。
もちろん東南アジアはほぼほぼ制覇し、天然資源の確保には成功したけど、その時期が遅すぎた。
あの時代にちょっと資源的余裕ができても、既にアメリカの生産能力に追いつかなかった。初めは日本が空母保有数も世界最多だったのにいつの間にか抜かれていた。
それもこれも資源が足りず、軍事兵器を大量生産できなかったから。
だけど、今回の大砲は違う。何せ原動力は魔力。つまり空気中に無限に漂っているものを呼び寄せて発射するものと予測できる。
そうなってくると今後も進化していくかもしれない兵器は、前世で言うと酸素があれば全部稼働しますってレベルで資源に困らないわけだ。
世界の破滅に一役買いそうだな〜。んーどうしよう。
でも確かに強力な兵器は今後も必要になるだろう。そして作ったものは僕が国内に情報を提供して、大量生産の目途を立てれば良い。
どうしようか迷っていると、これしかないだろうなと言う案が思いついた。
「承知しました。謹んで拝任致します」
「おお、そうか! ではやってくれるのだな!」
「はい、確実にご期待にお応えできるかはまだ分かりかねますが、もし完成出来れば陛下にひとつお願いしたき義がございます」
「む? 何だそれは? 具体的に申してみよ」
「それは今回この兵器が完成すれば、その設計図を他の国にもばら撒いていただきたいのです」
「ッ!!!?」
うんうん、は? アホかこいつ。そんなことしたら兵器としての抑止力がなくなるではないか! と思っているだろう。
でもそれが正解なんだよ。どこかの地域が弱くて、どこかの地域が強いとかになると、確実に侵略や戦争の火種となる。
せっかく悪魔や天使から世界を守っても、人同士で世界を滅ぼしていたら元もこもない。
どこかの国が強すぎても、かえって危ない。その国を潰そうといろんな国が同盟を結び出す。
そうなれば世界大戦だ。そして確実にアンドレアス王国は悲惨な末路を辿るだろう。
少し形は違うけど、力が増大し過ぎてアジアを実質的に牛耳り、欧米列強に脅威だと認識されて大量の連合国に押し潰されたありしの日本みたいにね。
それをできるだけ、わかりやすく、端的に説明した。すると、
「ふむ、なるほど。確かに一理あるな。あい分かった。約束しよう。他の国にも情報提供は怠らん。これで良いのだな?」
「ご理解、心より感謝いたします」
こうして、新たな仕事が王家より入った。これからまた忙しくなりそうだ。
過去の人類の過ちを知っているアレンはかなり有利ですよね。