新公爵は多忙なり
いつも評価やブックマークありがとうございます!
王都の戦勝記念祭で、新たに王族兼貴族と言う特殊な立ち位置の公爵という爵位を授かった僕。
そして気づいたこと、それは……あれ? いつの間にか僕に直接的に逆らえる貴族ほとんどいなくなってない? ということ。
まあ勿論、他の僕と同じ公爵の人たちは僕に意見しても、少しキツめの発言をしても、とがめられることも不敬罪に処されることもない。
でも自分で言うのもなんだけど僕の影響力ってこの国においては王族に並んでほぼ無敵状態なんだよね。いつの間にかとんでもない事態になってたよ。
おそらく今後、僕と対立してる貴族たちは肩身の狭い思いをすることになるんじゃないかな? だって他のみんなが国を救ってもらった恩を忘れてラント公爵にたてつくなど、恩知らずの不届き物め! みたいな感じになるだろうから。
別に僕自身は自分の功績をひけらかしたり、恩着せがましいことを言ったりするつもりは全くないけど、国民がそれを許さない可能性がある。
なのでそういう観点から見ても、なんだかんだここまでこれたんだなあ~、と改めて少しだけ自分に賛辞を贈ろうと思う。
(お疲れ様、僕。まだ問題は片付いてないけど、取り敢えず今は勝利と出世できたことへの余韻に浸ろう)
そんなこんなで今日も忙しく領地で仕事をしているのだが、ここ一週間で国家情勢が大きく変わった。まず一つ目が僕の役職が一つ増えたのだ。
それは兵務大臣というもの。具体的には師団の統帥権などがあるわけではないが、その予算算定や、他国からの兵器の輸入、もしくは兵器の刷新。そして兵務に関する人事を担当する。
さらには一般犯罪と師団内犯罪は別物ととらえられており、もし仮に師団員が罪を犯した場合、兵法裁判と呼ばれる裁判が執り行われ、その裁判官を担う。ちなみに軽犯罪なら僕の補佐役が代理裁判官を務める。
だが重罪や国家を揺るがすような大罪人の裁きは僕自らの手で行うとなっている。
法律はわかるのか? と言う疑問に関してですが、問題ないです。
学園時代に法学は修めているしね。
そして余談を話すと、ここ一週間で師団内の犯罪はゼロらしい。理由は僕が大臣となったことが抑止力となっているんじゃないかと言われている。
ちなみに兵器の刷新までも任されているのは僕が魔法具をより開発しやすくするようにというのと、もしよい物が開発されたら開発者である僕が大臣であることによって配備がスムーズになるんじゃないかというのが理由らしい。
もともとはこの権限は大臣に与えられていなかったようだ。
とまあ、そんなこんなでまた一つ仕事が増えたわけだ。僕に関してはそんな感じ。
だが他のみんなはもっと変わっている。特に父上だ。
父上は僕が公爵に格上がりしたと同時に伯爵に陞爵されている。これでベッケラートの純血の一族はみんな上位貴族だ。そしてここからが重要。
父上が爵位継承を宣言した。つまり、ディルクに爵位を譲ると言ったのと同義だ。
だが本来ならお家の継承の相続権は15歳からなので成人しなければ与えられない。
だけど今回は少し特殊だ。これは僕が公爵に無理矢理なったのとは別でちゃんと明文化された法律がある。
内容としては当主がまだ健在の場合は爵位の相続権を15歳から与えるものとするが、例外として当主が病で寝たきりになった場合、及び当主自ら引退宣言をした時のみ、その子息に自動的に爵位は受け継がれる。
と言うものだ。ようは本当はまだ相続できないけど、お家の当主が辞めます、子供に爵位を譲りますと言った場合は相続してもいいよと言うものだ。
と言うわけなので、今回を機にベッケラート家は当主交代が行われた。
これでディルクも立派な貴族だ。まあ僕もディルクはとんでもない速さで成長してるし父上の選択は理にかなってるかな? と思っている次第だ。
これで益々ベッケラート一族の未来は安泰となったね。何せ現本家と元本家が公爵家と伯爵家になったのだ。
こんな大貴族家、その辺の貴族では相手にならない。なので今後絡め手は使われるかもしれないが、真っ向から我が一族にケンカを売るような反対派閥の貴族はいないだろう。
ただ一つ気になるのはディルクはまだ事実上未成年だ。なので足元を見られるかもしれない。彼なら心配はないと思うけど、もし援護が必要な時は助けてあげよう。
ぶっちゃけ公爵家が助けますと言ったらほぼすべての貴族が引っ込むだろうから。
そしてお次はアンナの結婚相手が決まった。カールだ。マジかとは思ったけど、別に不思議ではない。貴族なら友達がいきなり義理の弟や兄、姉、妹になるなんてことは良くある話だ。
少し違和感はあるけど、不満は全くと言っていい程ない。
彼に妹を養ってもらえるなら僕も家族も安心できるだろう。アンナももう既にカールにベッタリみたいだし。
少し寂しいけど、別に僕がアンナに嫌われたわけでもないし、カールのような素敵な男の子ならあれだけ懐いても不思議じゃない。
カールもアンナのことを大切にしてくれているみたいだし、これから僕のすべきことは二人の幸せをただひたすらに願うことだよな。
でも、たまには兄ちゃんに会いに来てよね? ほったらかされると多分兄ちゃん死んじゃうよ……。
死因、妹に相手にされなくなったさみしさ、という間抜けな理由で。
とまあ、おふざけもこの辺にして、ここからは本格的に政治にかかわってくる話だ。
まず最初にコルネリウスさんが陞爵された。ついに侯爵だ。今となっては僕の方が爵位が高いという状況だけどそれでもコルネリウスさんも大貴族だ。これでさらにコルネリウスさんの発言力も増すことだろう。
そしてベッカー侯爵が僕とは少し違うけど、名誉公爵という地位に就いた。これは一代限りの公爵だ。世襲権はない。
だが今既に貴族として活躍している僕より少し年上のベッカー卿のご子息がもし今後王族と婚姻を結ぶようなことがあれば、確実に世襲権のある公爵になれるだろう。
これはどの王族でもいいのだ。陛下のいとこの一族でも、はとこの一族でも、伯父や叔母の一族でも、とにかく大公位や公爵位についてる貴族の方の令嬢と結婚出来ればそれで王族入りだ。ベッカー公爵のご子息のご子息、つまりベッカー公爵からすれば孫にあたる方が王族となる。
まあ、大体そんな感じかな。あとはツェーザルがこの間師団の大隊長に就任して子爵位に上がり、ダミアンとカールも師団員所属で、功績を挙げ要職に就いたため、二人そろって大隊長で子爵位になった。
みんな大出世だ。
そうして皆が困難に遭遇しながらも、前を向き順調に歩みを進めている。僕も今まで以上に気を抜かず、貴族としても働きながら、師団員として訓練も積み続けようと改めて思ったね。
天使と悪魔の件はまだ終わってないんだから。
場所は変わって旧アフトクラトリア帝国・帝都。
ドスンッ!!
王宮の謁見の間の柱に向かって一つの拳が振り抜かれた。
「クソッ! あり得んッ。ヴェルノートがやられただと? あの戦闘に特化した男が……」
「そうだな。かなり予想外だな~」
強欲のアルマーダが答えた。
「ふん、貴様はずいぶんと余裕だな」
「そうでもねえさ。これでも過去にねえくらい驚いてんだぜ?」
「まあ、いい。ヴェルノートがやられたのならば、敵はいよいよ本物だ。場合によっては我も出る」
「いや、ゼローグ。お前は待機だ。お前まで出張ってしまってはここの守りが薄くなる」
「あら? 私たちの力が信用できない?」
ゼローグがヴェルノートの敵討ちに出るかもしれないという話をすると、即座に静止が入った。ヴォルドールだ。
だがその静止するためにした発言の内容が気に入らなかったのか、嫉妬のセレジアが反応する。
「いいや、そういうわけではない。仮に俺たちがその竜魔導師殺しに躍起になっても、羽虫どもは待っちゃくれないからな。戦力が減った時に攻めてくるなんて小物みたいな真似を平気でできてしまう奴らだからな」
「確かにそれもそうね」
「ただ、今後人間も本格的に戦闘対象になるってことをあのお方にもお伝えしないとな」
「それは我が行こう」
「ああ、頼む」
悪魔たちは信じられなかった。七つの大罪の中でもトップクラスの力を持つヴェルノートが負けるなんて。だからこそ、もう人間を(特に竜魔導師を)舐めるのはやめようと、この時本気で思ったのだった。