再びの激突 その2!
遅くなりました! 申し訳ありません。
昼食が終わって一休みしているとき、ディルクと僕は自然と向き合って頷きを返しあった。
既に決闘のことは父上たちに話してある。久しぶりの機会で、僕も非常に忙しいだろうからこれからもなかなか家族がそろう機会が無いであろうことからやってみなさいと言ってもらった。
「審判は私が勤めよう」
父上がそう申し出てくれた。素直にお願いしようと思う。
「お願いします」
「ありがとうございます、父上」
それから僕たちは我が屋敷の私兵たちの訓練場に赴いた。結構広い造りにしてある。
そこで僕たちは10メートルくらい離れて向き合った。
「勝負は一本、先に有効打を相手に入れた方が勝ち! では位置について」
僕たちは父上の宣言に合わせて前に一歩出た。そして構える。
「はじめ!」
その開始の合図とともに僕らは一斉に突撃した。
(ルシファーさん達、出番ですよ?)
(なるほど、おぬしの弟か。久しぶりだな)
(そうだね。久しぶりだよ。それから彼はもう立派に竜魔導師だからさ、みんなにも力を借りることになると思う)
(任せてよ!)
(うん、ラーにも絶対に力を借りるからね。いつでも行けるように準備をお願いできるかな?)
(わかった!)
(承知した)
二人の元気な返事をもらった。そしてほかのみんなも元気に返事をしてくれた。
「初めから全力で行くよ!」
そういいながらディルクは炎の超位竜と風の上位竜を召喚した。そして竜たちはいきなりブレスをぶっ放してくる。
ディルク自身は身体強化と炎の強化魔法をまとって突っ込んできた。
「『雷旋門』!」
僕は雷の上級防御魔法、雷旋門を発動した。これは僕が生み出した魔法だ。
見た目は想像できるかもしれないけど、前世の某ファッション&ワイン大国の巨大な石造りの門だ。
あそこにずっと行ってみたかったんだよね〜。料理に関しても世界三大料理に選ばれていたっけ?
しかも西欧全般の、というか世界の基本的なテーブルマナーもあの国がベースのような感じがしたし。
音を立てずに食べるとか食器も互いに打ち付け合わないとか、咀嚼音もなるべく立てちゃダメだとか、色々。
割と世界の文化の中心的存在だったよね。死ぬ前に行ってみたかったな〜……。
なんて感傷に浸るのはここまでにして、取り敢えずディルクへの対処だ。
僕の魔法は完璧に彼の攻撃を防いで見せた。すると次に彼が、
「兄さまならそんなあいさつ程度の攻撃普通に防いでくると思ってたよ! 本命はこっちだ!」
「そういうことは普通は言わずに相手に斬りかかるものだよ」
ディルクが先ほどの強化魔法をまとったまま斬り込んできたので、僕はサイドステップで軽くかわし、腕に強化魔法を集中させて拳に結界魔法を張り、正拳突きをを放った。
それをディルクが剣の腹でガードし、同時に吹っ飛ばされる。
「相変わらずなんて馬鹿力なんだ……。ふつう拳だけで強化魔法をまとって頑丈になってる人間を吹っ飛ばせるわけがないのに」
「ディルク、君は基本的に体全体に強化魔法をまんべんなくまとっている。だけど今みたいな状況ではそれが逆にあだとなる。僕が腕にだけ強化魔法を集中させたのは分かっているね?」
「まあね。やばそうだと思ったから攻撃を欲張らずに防御に回ったんだし」
「全くもっていい判断だ。僕はさっきの一撃に英竜闘気もふんだんに混ぜ合わせて打ち込んだ。直撃していれば体の内側にまでその膨大な魔力と衝撃が流れ込んで一撃で動けなくなっていただろうね」
「なるほど、いくら一点集中でも普通の強化魔法だけであんなふざけた突きを放てるわけないと思っていたけど、そういうことね……」
そうしてお互いが成長を確認しあって、実力も確かめ合ってしばしの沈黙……
最初に動いたのはやはりディルクだった。僕は真正面からそれを待つ。
「でも俺だって負けない! ずっと前に兄さまと戦って惨敗してから猛特訓を重ねてきたんだ! 行くぞ! 陽炎竜!」
彼らは再び突っ込んで来た。そして驚いたことに、陽炎竜、炎の超位竜だが、その竜のブレスが先ほどとは次元の違うものとなっていた。離れた場所からでも物凄い熱量を有しているのが分かる。
だけど、僕もこれからだよ。
「出でよ!」
その短い一言だけで5体の神位竜が顕現した。圧倒的魔力密度。場は整った。これからは本当の意味での真剣勝負だ。
ディルクはすぐに異変を察知した。なにしろ急に体全体が、特に足周りが重く動きにくくなったから……。
理由は明白だ。目の前の化け物じみた竜魔導師の仕業だ。その考察の正しさを証明するかの如くすぐに圧倒的覇気を放つ竜が五体顕現した。
明らかに自分の竜とは住む世界の違う階級の竜…。
だけどディルクは動揺はしない。自分や自分の竜よりも格上の相手と何度も渡り合ってきた周りの偉人たちを知っているから。目の前の超人の親友であるツェーザルもその一人だ。
自身の超位竜や上位竜よりも格下である下位竜であそこまでの力を発揮できると証明した人が身近にいるんだ。
自分にだってできるはず! そう思いながらディルクはもう一度気合を入れ直す。
そして目の前の巨大な壁に向けて一歩踏み出す。
「ようやく役者はそろったって感じだね! 行くよ兄さま、『爆裂熱覇』!」
「そうだね、あとはお互いぶつかり合うだけだ! 永久氷獄」
僕の伝説級氷魔法の防御とディルクの伝説級炎魔法のぶつかり合い。正確にはディルクの魔法は炎と風の混合魔法だ。
魔力波動的にそう感じた。やはりディルクも学園に通っていろいろな技術を身に着けてきたんだと実感した。
ものすごく魔法の扱いが高等になっている。
「陽炎竜! 灼熱の咆哮だ!」
「ポセイドン! 大地の尖槍三連!」
ディルクの竜が爆発的な熱を放ってきたので、こちらは太く大きい土の槍を三本盾にした。そしてそこから、
「いまだブイ! 凍てつく白氷!」
ブイの猛烈な吹雪がディルクの陽炎竜を襲った。完全に予想外のタイミングで魔法なら帝王級に匹敵するようなブイの特殊攻撃をもろに喰らい、かなりひるんでいる。
「本当に化け物だね……兄さまも兄さまの相棒たちも」
「当然のことだよ」
「は! そうだね!」
ディルクは炎と無属性の強化魔法をまとって一気に距離を詰めてきた。
僕もそれに続く。雷と無属性の強化魔法だ。
ガキーンッ!!
激しいつばぜり合いに突入した。お互いが相手の出方を見る中、先に動いたのは、
「今だ! ラー!」
「任せて!」
ラーが熱を一点に集めた所謂、熱収束砲という奴を放った。ディルクがそれに気づき、全力で陽炎竜に魔力供給をしてもらい、結界を張った。
僕とラーのコンビネーションで一気に形勢が不利になったディルク。なんとかラーの攻撃には耐えきったようだけどかなり疲弊している。
「終わりだよ! ルシファー!」
「待っていたぞ」
「ディルク、これが今の僕たちの戦い方と実力だ。しっかりとその目に焼き付けるんだ! 『引爆』!」
僕はルシファーから供給してもらった力で、引爆という魔法を放った。これは空気を闇魔法で極限まで圧縮して、一気に開放しながら敵に放つ魔法だ。強力ながら実力のある相手なら殺すまではいかない。でも、無力化はできる便利な魔法だ。
「グハッ!」
ディルクに直撃した。いや正確にはディルクを守ろうと、盾になった竜たちもろとも吹き飛ばしたのだ。
風属性のディルクの上位竜はずっと援護に徹していた。ディルクが突撃する際は風魔法で機動力を援護したり、魔法に風属性を付与したり、と。でも僕の最後の魔法は自分も盾になるべき威力だと判断したのだろう。
実際それは正しい。今この場に優秀な回復魔法を使える者(母上やエレオノーレ、アンナだ)がいたから使えた。そう判断すべき魔法なんだ。
殺すとまではいかなくとも、それなりの負傷を追わせる魔法なのだから。
そんなわけで竜たちがかばってくれたので比較的ディルクは軽いケガで済んだ。体を擦りむいた程度だ。
「そこまで!」
父上が戦いの決着を宣言し、治療や休憩に入る。
「やっぱり兄さまはすごいな。全然敵わないや」
「そんなことはないよ、ディルク。正直面には出していないだけで、内心驚愕することがかなり多かったからね」
「ほんとッ!?」
「ああ、君が血のにじむような努力をしてきた軌跡をはっきりとこの目で見届けたよ。強くなったねディルク」
「そ、そっか……俺、強くなれてたんだ……」
「当たり前だよ。あれだけ戦えるのならはっきり言って上位程度なら悪魔や天使でも楽勝なぐらいの実力になってるよ」
「そ、そうなんだ。戦ったことがないから分からなかったよ」
「ははは。そりゃ誰もかれもが彼らと遭遇してたら人類はかなりまずい状況だよ。でもおそらくこれからの戦い、君も召集されることがあるだろう。その時は頼んだよディルク」
「うん。勿論、任せて! 兄さま」
治療室で軽く話をした後、僕らは居間に向かった。その後は家族でゆっくり過ごした。
本当に幸せな時間だ。この光景を守り続けられるようにこれからも僕は頑張ろうと思った。
誤字を教えてくださった方々、本当にありがとうございます! 自分で見直しても気づかないことが割とあるので本当に助かります!