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83.「作新祭(後編)」

「高木守道君」

「数馬」



 天気予報は正確。

 今日は朝から気温もグングン上がる。


 日差しを避けるように日影にいたところ、結城数馬が俺に声をかけてくる。


 視線の先にはパン研のブース。

 双子パンダのネーム募集に、たくさんの人が来賓している。


 その隣。

 長机の一ノ瀬美雪と桐生沙羅のいる場所。


 段ボール箱には1箱200個のパンダストラップが入っていると言っていた。

 作新高校に届いた段ボール箱は全部で5つ。


 時刻は12時。

 『作新祭』開始から3時間が経過した。


 相変わらず生徒会のメンバーがパンダブースへの来賓を促す。

 まだその段ボール箱1つすら売れていない。

 状況は絶望的。



「君はどう思う、今の生徒会」

「凄く良い生徒会だと思う。出来るならこのまま1年頑張って欲しい」

「そうだね守道君」

「おい、どこ行くんだよ数馬」

「客引きさ。今の僕には、この程度の事しか出来そうにない」

「数馬……」



 1人でも多く、1つでも多くストラップを買ってもらうため。

 結城数馬が竹のササを見ていた親子連れに声をかけて、パンダのネーム募集に応募しないかと誘っている。


 直接買ってくれなんて言えない。

 あくまでお土産を買いに来た人だけにしか声をかけるわけにはいかない。


 数馬がパン研のブースを手伝ってくれる。

 朝からブースで来賓者の対応をしていた南部長が俺に近づいてくる。 



「後輩君。結城君が居てくれる間に、わたし一度図書館の部室に戻って岬さんと交代するね」

「僕も行きます。なにか宣伝できるような旗とか部室にありませんでしたっけ?」

「ああ~あるある。後輩君にピッタリのやつ」

「本当ですかそれ!?なんでもやります、俺、みんなの力になりたいんです」



 岬れなが朝から旧図書館のパンダ研究部の展示ブースにいる。

 お昼もまだ食べていないだろう。

  

 南部長は野球部のお食事ブースでフランクフルトやポテトを購入。

 50円のフランクフルト2本。

 100円のポテト2つ。

 超破格の販売価格。


 フランクフルトに至っては原価が1本10円だと言う。

 それだけ一括購入の原価カット効果があると話していた叶会長。


 その差額利益で校内の豪華な装飾など、赤字分を補填して『作新祭』全体の魅力を上げている。

 美と癒しの場を追求した叶美香スタイル。

 

 この誤発注の一件が無ければ、3年生2期目、叶美香生徒会長の『作新祭』は、まさに有終の美を飾る最高の舞台だったに違いない。


 最初はアデューな人だと誤解していたけど、結構、いや、かなり後輩の面倒見が良い最高の先輩。


 失敗した一ノ瀬美雪も自分の責任だと罪をなすりつけるどころか、自ら指揮し組織全体で対応する姿勢。


 生徒会のメンバーが言っていた。

 すでに学校サイドに事の事態は報告が済んでいると聞く。


 叶美香。

 責任を取って、生徒会長を降りるのでは無いかとメンバーが心配していた。


 そんな事したらみんな悲しむ。

 楓先輩だって、俺だって……。


 旧図書館にフランクフルトとポテトフライを持ってやってくる。

 パンダ研究部の第二展示会場。


 旧図書館全体を使った、南夕子部長の3年間のパンダ研究の集大成。

 夏に応募する、国のコンクールの資料もふんだんに使用。


 現在の来場者は2名。

 おじいちゃんとおばあちゃんが、真剣な表情でパンダの生態にくぎ付け。


 まあ。

 こんなもんだろう。



「岬、お疲れ様」

「うっーす」

「お前野球部かそれ?」

「あんたのマネ」

「マジか」



 唯一来場していたおじいちゃんとおばあちゃん。

 満足したのか旧図書館を後にする。


 旧図書館。

 新図書館は今年リニューアルオープン。

 今は本の貸出などいっさいしていない。

 来年、新図書館の地下耐震工事終了と共に、ここの蔵書は新図書館の地下室に移動。


 旧図書館の受付に座る岬れな。

 こんな可愛い女の子が受付してくれるなら、普段稼働していれば旧図書館は男子来場者が殺到する予感。



「こっちサンキューな。ほれ、フランクにポテト」

「うっーす」



 岬姫が喜んでいる。

 顔が微妙に変化。

 S2クラスのクラスメイト。


 S1クラスにいる成瀬や神宮司よりも対面する機会が多い入学してからの3カ月。

 彼女の可愛い顔の観察を毎日している俺には、この微妙な変化が分かるようになってきた。

 


「あんたは食べないの?」

「俺は外のブースに戻る。荷物取りにきた」

「荷物?」

「シュドウ君、うっす!」

「げっ!?なにしに来た光源氏」

「ポテトの匂いがする」

「嘘だろ!?」



 突然の神宮司葵の来訪。

 お前自分のいた野球部のブースでポテト一杯あっただろうに。


 楓先輩いわく。

 すぐに迷子になる葵姫。


 美味しい物がある場所には迷わず到達できる謎のセンサーを搭載している不思議な女の子。

 毎日3年生の校舎がある中庭噴水前には、楓お姉さんの作った美味しいお弁当とお菓子を目指して向かう食いしん坊。


 校舎と校舎に挟まれた中央、中広場。

 野球部のブースが左側校舎、1年生と2年生が入る校舎の壁に沿って長く奥にお食事ブース兼フードコートを出店中。


 向かって右側。

 3年生の入る校舎の壁に沿って、パンダ研究部の双子パンダネーム募集スペースとストラップ販売会場が向かい合う配置。


 きっと野球部のお食事ブースでレジをしている神宮司。

 俺と南部長が1年生の入る校舎に向かうのを見てついてきたに違いない。


 ちょっと訂正。

 俺と南部長の持つフランクフルトとポテトを追ってここに辿り着いたに違いない。



「後輩く~ん」



 南先輩が呼んでいる。

 俺はフランクフルトを食べている場合ではない。


 早く旗か何かを持って、パン研のブースに1人でも来賓者を誘導する手伝いをしないと。

 数馬が待ってる。



「はい後輩君、これ」







 ……












 

 ………













 ……………へ?









「さあ後輩君。美香ちゃんたちの一大事、わたしがあなたに力を貸してあげる」

「ちょっと南先輩、なに考えてるんですか」

「ふふふ~」



 先輩は部室の奥から取り出した白と黒の謎の塊。



「それって……まさか!?」

「ふふふ~」

「嫌ですよ先輩。それ、先輩が青春のすべてをかけて入学式のオリエンテーションで着てたパンダスーツじゃないですか!?」

「さあ後輩君。あなたもわたしのいるこっちの世界に来るのです」

「嫌だ、俺は嫌だ」



 先輩がパンダの着ぐるみの頭を両手に抱きかかえ、俺を部室の隅に追いやる。

 両手に抱えられたパンダの顔が俺をニラむ。


 食い殺される。

 こいつ……凶暴なパンダだ。



「まあ~よいではないか~よいではないか~」



 後ずさり。


 ずっと思ってたけど、この人、トラブルメーカーだ。


 今日のこの事態のそもそもの発端は、この南夕子の余計な発注が原因。


 諸悪の根源、南夕子。


 両手にパンダの頭を抱え、俺を壁際へ追い詰めてくる。


 緊急脱出決定。

 人である事までは捨てられない。

 俺は先輩のようになりたくない。


 俺の左、若干のスペース。

 左から脱出。

 自由への逃避行。 



「あおいちゃん、れなちゃん、逃げるからこいつ確保」

「ほ~い」

「うっーす」




(ギュ!)



「おいこら光源氏!俺の腕離せよ!」

「えへへ~」



 両腕を神宮司と岬に抱き付かれる。

 


(ギュギュ!)



「おい岬!?お前俺の味方だろ?」

「観念しろし」

「嘘だろお前!?絶対面白そうだからとか思ってるんだろその顔」

「ひひ」

「笑ってんじゃないよ」

「さあ~後輩く~ん」

「待て、待ってくれ!?」



 先輩が全身パンダの着ぐるみを笑顔で俺に差し出してくる。

 あれを着れば最後。

 俺はもう、人には戻れなくなる。



「それ先輩が青春のすべてをかけて作ったやつじゃ無かったんですか!」

「そうよ~そう。もうわたしは青春すべてを出し切ったの、女を捨てたの。あなたも着ればそれが分かるわ」

「そんなの知りたくありません!」



(ギュギュギュ!)



「お前ら離せ!」

「さあ~後輩く~ん」

「やめろー!?ああーーーーー」










 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・










 パンダストラップ、販売ブース。



「やっぱり売れない……」

「そうね~。あっ……アハハハハ、ちょっと美雪見て~」

「えっ?……ぷっ、ふふ」



 女の子たちに笑われる声がする。

 俺は男としてもう終わった。

 南先輩が女を捨てたように、俺もすべてを捨てる時が来たようだ。


 販売ブースに等身大2足歩行パンダ出現。

 ビックフッドもビックリの俺の名はユーマ。


 もう2度と。

 人には戻れない。



「お待たせしました~我がパンダ研究部の秘蔵っ子が頑張ります~」

「えっ?その中、もしかしてタッキー入ってんの?」

「……探さないで下さい」



 一ノ瀬と桐生がいるのか?

 前がよく見えない。

 パンダの顔のサイズが合わない。



「その中、高木君なの?」

「その声、成瀬か?」



 パン研のブースの前には、野球部のお食事ブース。

 成瀬も当然そこに……。



「嘘、どうしたのそのパンダ?」

「成瀬、俺、行ってくる。もう2度と戻れないかもしれない」

「ちゃんと帰ってきてよ高木君」

「ごめん成瀬。太陽と仲良くやってくれ」

「高木君待って!」

「馬鹿じゃん」



 岬れなの声が聞こえる。

 あいつがここにいるという事は、旧図書館は今は無人。


 どの道誰かきたところで、展示品をどうこうする人は皆無。

 たまにおじいちゃんやおばあちゃんが数人入って来る程度。

 なんなら展示品全部持って帰ってくれ。


 目測で歩みを進める。

 段々と前が見えなくなってきた。


 パンダスーツの中は灼熱地獄。

 今日は真夏日。

 気温28度、体感温度は30度を遥かに超えている。

 汗が噴き出る。



「ママ~パンダいるよ~」

「あら本当」

「ママ~これ欲しい~」

「まあまあ、1つ下さる?」

「あ、はい。1000円なんですがこれ……」

「いいのよ、はい」



 桐生沙羅の声がする。

 青春のすべてをかけたパンダスーツの効果によって売上1点発生。



「おい、パンダいるぞ」

「ははは」



 笑われている。

 見知らぬ誰かに笑われてる。


 俺が通りがかりの生徒でも笑うわこれ。


 だが俺の青春のすべてをかけただけの事はある。

 販売ブースに何かのアトラクションと勘違いした小さな子供たちにつられて、ファミリー層が段々と集まってくる。


 その人だかりに目が集まる。

 向かいの野球部が運営するお食事ブースで食事をしている家族連れの子供たちが、パンダがいるパンダがいると大はしゃぎ。



 段々とパンダである事に慣れてくる。

 あちこち体中を子供たちに触られる。


 俺の周りにジュニアたちが集まる。

 キャッキャ騒いでおる。

 

 おい。

 そこ触るな。

 あっ。

 そこダメ。



「後輩君」

「えっ?南先輩ですか?」



 諸悪の根源、南夕子の声がする。


 それにしても。

 しばらくパンダでいると、不思議と自分自身がパンダのような気がしてきた。


 これはネズミーマウス症候群か?

 ネズミーランドにいるネズミーの中の人、きっとこんな感覚でキレッキレで踊っているに違いない。

 今の俺には分かる。



「先輩、このパンダ先輩のサイズなんで、前がよく見えないんですよ」

「大丈夫、君ならやれる。ほらこれ、急いで作ってきたよ」

「はい?」



 南部長の即席ボード。

 パンダストラップ販売用の手持ちボードを作ってきたと豪語する。


 まるで路上販売の客引きパンダと化した俺。

 パンダの顔の大きさを遥かに上回る、重たい手持ちボードにはこう書かれていた。




『祝!赤ちゃんパンダ誕生!!パンダストラップ 1000円ぽっきり』




「南先輩、よく見えないんですけど、これ何て書いてあるんですか?」

「気にしない気にしない」

「パパあれ欲しい~」

「僕も~」

「はいはい。すいません、2つ下さい」

「ほら美雪、お客様」

「は、はい。お2つで2000円になりますが……」

「はいこれ」

「あ、ありがとうございます!」



 パンダの着ぐるみが意外な効果を発揮。

 南先輩の用意した赤ちゃんパンダネーム募集ブースにも、たくさんの家族連れが押しかけてくる。


 そう言えばこの作新高校の周辺は高級住宅街。

 徒歩0分には金持ちの神宮司の家もあったな。


 共働きとか、所得の高い世帯が多いのかも知れない。



「後輩くん、列が伸びてるから、そのまま正門に向かって最後尾伸ばして行って~」

「ら、ラジャー……」



 南先輩の言う通り、家族連れで1つだけ購入するつもりであろう家族でも、ゆうに4・5人全員で並んでいるので列が思いのほか伸びている様子。


 正門の方角は大体分かる。


 えっと……あっちの方だったな……。



(ガンッ!!)



 ヤベ。


 やっぱりパンダのサイズが合わなくて前よく見えないわ。


 なんかのブースの角にボードが当たったな。


 まあいいや。



(ガンッ!ガンッ!)



 ヤベヤベ。


 ボードぶつけまくり、なにかハガれる音。


 何にも見えないからまあいいや。


 ブースに当たらないように、さっさと広い場所に向かわないと……。



「おいあれ見ろよ」

「列できてる、並ぼうぜ」

「絶対嘘だってあれ」

「分かってるって。じゃあお前先行ってろよ」

「そんなわけいくかよ。俺も並ぶって」



 道行く高校生風の男子たちの話しがおかしい。

 ちょっとだけ見えたり見えなかったりするパンダスーツ。


 学ラン着てる?

 隣町の高校の生徒かな?



 それにしてもおかしいな。


 人の流れ……。


 正門から校舎側にやってくる若い男子たちが、吸い込まれるように列に次々と並んでいく。


 なんでだ?



「すいません!これ売ってる列、ここに並んだら良いですか?」

「え?あ、ええそうです。最後尾こちらで~す!」

「おいこっちこっち」

「絶対嘘だってこれ~」



 一体どうなってる?


 俺のまわりだけ大騒ぎ。


 とりあえず正門の方へボードを持って向かう。


 重いよこのボード。


 パンダスーツ暑いし……数馬も頑張ってる。


 俺も頑張る。





 ……パンダストラップ販売用ブース。

 レジ前に並ぶ客。

 レジに奮闘する一ノ瀬美雪。




「1つ1000円です」

「え!?これですか売ってたのって!?」

「ええ、そうですが?」

「……可愛い」

「はい?」

「1つ下さい!」

「は、はい!ありがとうございます」




 販売用ブースから正門まで200メートル。

 今その列に、たくさんの男子たちの姿。





 ……正門からやってきた、隣町の公立高校、男子学生たち。



「おい原田。作新高校、激マブ女子で溢れてるって本当か?」

「間違いねえよ。俺たちより頭も良いし、今日はその女神たちを拝みにきたんだろ俺たち?」

「あわよくば作新の彼女ゲットか?」

「そんなに上手くいくかよ。いいから早く行こうぜ……おい待て、あれ見ろよ」

「えっ?ギャハハハハ!なんだよあのパンダ、だっせ~」

「なんか持ってるぜあのパンダ……おい待て、嘘だろ……」

「お前らちょっと先行ってろ。俺、ちょっと用事あるから」

「嘘付け。お前絶対あの列並ぶつもりだろ?」

「うるせえよ。作新高校でそんなもん売ってるわけないだろ」

「俺ちょっと並んでくるわ」

「おい盛橋!俺も並ぶから待てって」







 ……パンダストラップ販売用ブース。


 

「桐生さん大変。200個入ってた段ボール、もう無くなりそう」

「ちょっとレジ頑張ってて美雪。すぐ会長に連絡する」

「うん」

「すいませ~ん」

「あ、はい」

「ええ!?売ってるのこれです!?」

「は、はぁ……お嫌いですか?」

「……下さい!ぜひお願いします」

「は、はい。ありがとうございます!」




(プルプルプル……ピコン~)



『美香よ』

『桐生です。会長、200個まもなく完売します。在庫が残りわずかです』

『あらあら……妙ね』

『パンダの着ぐるみ着たタッキーが来て、突然売れ始めました。男ばっかり並んでます!』

『あらあら~そう~ちょっと待ってて。すぐに手配するわ。わたしもそっち行くからもう少し頑張って』

『了解しました』



(プチン)



「美雪、会長すぐ来てくれるって」

「ありがとうございました~」

「ちょっとミッキー売り過ぎ!あんたにこんな才能あったなんて知らなかったわたし~」

「誰がミッキーですか!余計な事は良いから、あなたも早く手伝いなさい!」

「オッケ~。はい、1つ1000円です」

「ええ!?パンダ!?」

「嫌なの?」

「……1つお願いします!」

「は~い」




 ……最後尾のパンダ。



 どうなってる?

 なんか凄い列ができてる。


 もう正門まで長い列到達しちゃった。

 


「ここ最後尾ですか?」

「あ、ええ、はい。こちら最後尾で~す」

「おい、こっちだって。早く並ぼうぜ」

「俺が先だって」

「うるせえ俺だよ俺」



 なんなんだよこれ?

 どうしてこんなに行列できる?


 先輩のボードの効果なのか?

 それとも俺のパンダとしての魅力に惹かれるのか?

 もうなにがどうなってるのか全然分からないよ。


 正門まで行列到達。

 もういいや。

 学校の外、出ちゃえ。




 ……ふたたび販売ブース。



「あら~あらあら~」

「叶会長~」

「沙羅。よく頑張ったわね」

「会長~もうわたし無理です~」

「美雪、弱音をはかない。さあ応援連れてきたわよ。あなたたち、レジを増設、窓口8まで増やして」

「はい!」

「あの……うちも手伝います」

「たしか……岬さんね。お願い、あなたの力を貸して頂戴。売り子は全員女の子、男子は机さっさと並べなさい!」

「おい、会長の指示だぞ急げ!」

「おおーー」




 ……最後尾パンダ。



 暑い~。

 列全然伸びてく一方だし。


 最後尾伸ばすのにずっと歩きっぱなし。

 もう何百メートル歩いてんだ俺?


 なんか中央通りの車道走ってる車がキキーって急停車する音聞こえるし。

 車から誰か降りて列並んでる音がするし。


 ドライブスルーじゃないってうちの高校。


 もう訳分かんない。

 今日は快晴。

 気温もグングン上がっている。

 それにしても暑すぎる。


 このパンダのスーツ。

 蒸し風呂で中、超暑い。

 死にそう。


 なにやってんだろ俺……。



(キキーッ!!)

(ダッダッダッダ)



「はぁはぁ、最後尾ここですか?」

「え、ええ。最後尾こちらで~す」

「お~い、こっちだ急げ!」



 きっと販売ブースまでこの列は伸びているはず。

 よく分かんないけど。


 暑くて死にそうだけど。

 俺に出来る事はこれしかない。


 数馬、岬、南部長……はどうでもいいや。

 ブースのレジ頑張ってる一ノ瀬たちを信じて、今は耐えて俺も頑張ろう……。




……隣町の公立高校、男子学生たち




「おい原田。ここまで順番待ちして並んだけど、やっぱり話が違うじゃないか」

「うるせえな、生のパンスト1000円ぽっきりなんてやっぱり嘘だったんだよ」

「今さら恥ずかしくて誰にも言えないだろそれ」

「大変お待たせしました。1000円ですが、いかがされますか?」

「か、可愛い……」

「はい?」

「2つ買います」

「お、俺も」

「ありがとうございま~す」












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