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81.「大きなミス」

 成瀬真弓に誤解され、深夜に死にかけた翌日。

 S2クラスでボっーとしていると、俺の名前を呼び声がする。



「高木君」

「はぁ~」

「おい、姫に挨拶しろや」

「姫?成瀬か」



 岬に言われて成瀬に気づく。

 教室から廊下に出る。


 昨日の今日。

 成瀬に会うのはちょっと気が引けると思っていた。



「昨日はごめんなさい。せっかくプレゼント持って来てくれたのに、あんな事になっちゃって」

「本当俺も悪いし」

「わたしも」



 昨日は雑誌を2つ運びに行っただけのつもりだった。

 当然成瀬の部屋に招かれるとは、思ってもいなかった。


 真弓姉さんに半殺しにされたところで、成瀬が落ち着きを取り戻しようやく誤解が解ける。



「それでね、これ」

「え?サンドイッチ……」

「お姉ちゃんとわたしから。昨日のおわび」

「あ、ありがとう」



 俺の事をよく分かっている真弓姉さんと成瀬。

 ありがたくお昼にいただく事にする。



「あ~」

「え?」

「おい光源氏」



 成瀬と同じS1クラスの神宮司葵。

 俺と成瀬の行動に気づいたのか、クラスを飛び出してきたようだ。



「シュドウ君なにそれ?」

「いいか神宮司。この中にはたくさんの愛が詰まっている」

「愛?」

「ちょっと変な事言わないでよ」



 昨日最後に成瀬の母さんと挨拶して帰った時には11時になっていた。

 深夜のトラブル。

 

 24時間眠らない愛のコンビニ準社員。

 開いてます、笑顔のローソン。

 俺の青春はこんな日常の毎日。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






(ザワザワザワ)




 ん?

 なんか図書館の外が騒がしいな。


 昼休憩。

 いつものように太陽と成瀬。

 岬と数馬。

 ついでに俺の5人が食事中。


 最後に双子のパンダのライブ映像を満喫している南部長のいる旧図書館。


 

「成瀬、お前のサンドイッチ最高」

「そう?ありがとう」



 昨日真弓姉さんに半殺しにされた。

 お詫びのタマゴサンドには、マヨネーズをあえたタマゴがギッシリと詰まっていた。

 

 

(ザッザッザッザ)



 なにやら外からざわつきが聞こえる。



「なんだろ?」

「避難訓練か?」

「そんなわけないっしょ」



(ザッザッザッザ)



 旧図書館の中にたくさんの人が入ってくる足音。



(ザッザッザッザ)



「南夕子部長」



 出た。

 叶美香。

 パン研に会長自ら出陣。


 ついに来たのか?

 このパン研が消滅する日が。




「ふみ~ん。生徒会長様、なんの御用でしょうか~」



 普段はお友達の南夕子先輩と叶美香会長。

 取り巻きの生徒会メンバーを引き連れてわざわざうちのパン研にやってきた。



 たくさんの足音の正体は生徒会。

 岬のまゆげがくの字に曲がる。

 岬姫は目に見えてご機嫌悪化。


 ガサ入れ。

 突然の訪問。


 俺たちの座る机の上には、南夕子が部費を浪費して購入したポッキーなどのお菓子が錯乱している。

 証拠多数。

 もはや言い逃れできない状況。


 日頃の不用心がタタったようだ。



「少しお話が」

「ふみ~ん」



 南先輩も観念したようだ。

 生徒会メンバー全員が『作新祭』成功に向けて必死の努力を続ける中。

 うちの部はまったり部室でお菓子ポリポリ。


 おまけに部長は双子パンダのライブ配信に夢中。

 完全に終わったな。



「生徒会長、ここはわたしが」

「あなたは良いの。わたしが話を」

「しかし」



 ん?

 なんか様子がおかしい。


 副生徒会長になった一ノ瀬美雪。

 泣いてる?






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 生徒会メンバー全員が部室に入ってきたので、個室から外に出て旧図書館の大広間で臨時の会議が開かれる。

 旧図書館の大きな机に対峙して座る生徒会メンバーとパン研メンバー。

 幽霊部員はここにはいない。


 生徒会メンバーの悲壮な表情。

 何かあったに違いない。


 叶美香が口を開く。



「南部長。この度開かれる『作新祭』。パンダストラップを1つ1000円で生徒会に発注依頼されたのは間違いありませんか?」

「ふみ~ん、そうです~」



 パンダストラップを1つだけ1000円で購入?

 横浜の山下公園にあった『恵比寿』と呼ばれる卸売の会社で発注してた話だな。


 さすがにうちのパン研が何を発注したのかまでは知らなかった。

 ストラップをわざわざ1つだけ?

 しかも1000円……。



「『作新祭』の展示ブースでの販売とありますが」

「そうです、嘘じゃありません、本当なんです」



 絶対ウソ。

 1000円のパンダストラップなんか、誰が買うんだよ?


 唯一この作新高校の生徒の中でユーザーがいるとしたら南夕子ただ1人。

 岬も多少怪しいが、1000円出してまで購入する生徒は部長くらいなものだ。


 分かったぞ。

 『作新祭』で売れ残った事にして、自分で最後に買い取るつもりだったな。



「なぜこれを?」

「限定だったんです、そこでしか手に入らないやつなんです」



 はい黒。

 それはそうとして、なんでこんな悲壮な雰囲気になってる?



「申し訳ありません!」

「一ノ瀬さん、あなたはいいから」

「だって、だって……」



 やはり一ノ瀬が泣き止まない。

 絶対なにかあったに違いない。


 そう言えば一ノ瀬。

 先週の土曜日、横浜で発注の商談ブースに入って交渉してたよな。

 なにかあったのか?



「――誤発注?」

「そう」

「いくつ?」

「……1000個」

「1000個!?えっと、えっと……1つ1000円でしょ……嘘!?100万円も!?」



 旧図書館に戦慄が走る。

 100万円?

 あまりの額にあっけに取られる。



「嘘でしょ美香ちゃん。そんなの絶対無理、返品しようよ」

「それが……一括購入の契約だから、返品できないの」

「そうなんだ……」

「申し訳ありません、ごめんなさい」

「一ノ瀬、落ち着け」

「でも、でも」



 北条郁人が経緯を説明した。

 土曜日。

 横浜の『恵比寿』に商品を発注する際、一ノ瀬は直前に野球部のブースで販売するフランクフルト1000本の発注を行った。


 その1000という数字が脳裏に残り、誤解を生じさせた。


 ここで悪いのが南夕子。

 1個だけ、価格1000円などと紛らわしい発注を紛れ込ませていた。


 1000という数字に先入観のあった一ノ瀬。

 発注票の再確認を怠ったミスも重なり、1個1000円のパンダストラップが1000個、本日作新高校に届いて事態が発覚した。



「代金はどうするの?」

「『作新祭』が行われる土曜日は銀行がお休みなの。週明けの月曜日が支払いの期限」

「そんな……無理だよ」



 一ノ瀬美雪が泣いていた理由。

 それは自身の発注ミスからくる自責の念から泣いていたと分かる。


 生徒会、新体制の発足。

 その直後。

 年に一度の一大イベントに、大きな試練が待ち受けていた。

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