78.第10章<わらの中の七面鳥>「母校」
日曜日。
昨日は生徒会のお仕事に数馬と参加。
『作新祭』に向けた準備が明日から本格化する。
「おはよう高木君」
「おはようさん成瀬」
「高木おはよう」
「真弓姉さん、うっーす」
「そのヤクザみたいな呼び方やめんか」
「おっす」
「ふふっ」
野球部の挨拶が最近俺の身近な流行り。
今日は成瀬姉妹と待ち合わせ。
太陽は甲子園直前で日曜日も練習。
成瀬姉妹と待ち合わせたのには理由がある。
「紫穂ちゃん元気かな~」
「2人とも野球部大丈夫なんですか?」
「今日は楓と葵ちゃんに任せてます。太陽君は残念だね~」
太陽たち野球部球児たちのお手伝い。
マネージャー業務は今日神宮寺姉妹に託された。
太陽は楓先輩の参加で練習にも身が入るはず。
夜には、太陽と会う約束を交わしている。
今日の目的は母校の中学校への訪問。
美術部に入る俺の妹、紫穂の文化祭に行くのが目的だ。
「本当久しぶりだね~」
「そうだな成瀬。ずっといたのに、卒業したらもう行かないしな」
卒業。
あれだけ時を過ごした中学校も、卒業してしまえば縁は無くなる。
ついこの間まで通っていた母校。
成瀬姉妹と3人で到着する。
白く古い校舎。
とても懐かしく感じる。
「成瀬、美術部ってどこあったっけ?」
「理科室の隣です。大葉先生が顧問だよ」
「ああ、GTOね」
「なにそれ?」
「はは、な、なんでもないよ成瀬。早く行こうぜ」
この話は太陽にしか通じない。
校舎1階の美術部へ向かう。
「あっお兄ちゃん」
「よう紫穂、おはようさん」
「成瀬先輩に真弓先輩も一緒~嬉しい~」
「も~紫穂ちゃん可愛い~お兄ちゃんに似なくて本当良かったわね」
「ちょっと姉さん、それヒドいですって」
「ふふっ」
俺の妹、高木紫穂。
中学2年生。
美術部。
成瀬結衣は3年間美術部。
成瀬が3年生の時、紫穂は1年生。
紫穂にとって成瀬は、頭の良い頼れる先輩。
「お兄ちゃん、こっちこっち~」
「引っ張っるなよ紫穂」
紫穂に腕を引かれて美術部に入る。
遅れて成瀬姉妹も入る。
「成瀬先輩だ~」
「キャー」
俺の登場には悲鳴上がらず。
成瀬姉妹の登場にだけ悲鳴は上がる。
紫穂は成瀬にとって中学美術部の後輩。
作新高校特別進学部に進学した成瀬は、才色兼備の憧れの先輩に違いない。
紫穂の同級生とは当然顔馴染み。
楽しそうに話を始めた。
「結衣ちゃん楽しそうだね」
「そうですね姉さん。作新高校でも美術部入れば良かったですよね?」
「まあ結衣ちゃんはね~あんたもそんな感じだし」
「なんですそれ?」
「うるさい、黙れ小僧」
「痛たたたた!?なんでそこでツネるんすか」
真弓姉さんからの攻撃。
俺のほっぺた痛い痛いになる。
なに言ってるんだこの人?
しばらくキャッキャと女の子たちが騒いでいたが、次第に落ち着く。
中学生女子たちが、俺の存在にようやく気付く。
「あの人、もしかして成瀬先輩の恋人ですか?」
「違います」
「即答すんなよ成瀬」
「え~」
あっさり知り合いで片付けられる。
俺って一体。
「わたしのお兄様だよ~」
「え~」
「似てない~」
「アホヅラで悪かったな!」
「ふふふ」
うるさいなこいつら。
余計なお世話だって。
「お兄様も、成瀬先輩と同じ作新高校の特別進学部なのです」
「キャー」
「凄~い」
アホヅラお兄様の人気復活。
作新高校の看板はダテじゃない。
「成瀬先輩がS1クラスで、うちのお兄様はS2クラスなのです」
推薦入試組と普通受験組。
中学校時代努力した成瀬と俺の違いだ。
ひととおりの話が終わり、さっそく紫穂の作品を拝見。
凄い。
美しい桜満開の風景画。
なんかこれ、見たことある風景だな。
「おい紫穂。これ作新高校の正門から見た風景だろ」
「さ・す・がお兄様。するどい~」
「凄いな紫穂。成瀬の絵と全然違うな」
「ちょっと高木君、後で体育館の裏に来なさい」
「さぁせーん」
「ふふふ」
悪いが。
本当に申し訳ないが。
成瀬の絵は宇宙。
俺には深すぎてまったく理解出来ない。
それが彼女の魅力の一つ。
俺は勝手にそう思ってる。
その後、紫穂も一緒に成瀬姉妹と4人で中学校の文化祭を回る。
校舎の至るところに、俺たちの思い出が詰まっている。
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「ようシュドウ」
「太陽、今日も練習お疲れさん」
「今日は紫穂ちゃんとこ行ったんだろ?」
「ああ、懐かしかった。お前も来られたら良かったな」
「まあな」
夜。
太陽といつもの公園で待ち合わせ。
甲子園の地区予選が迫る。
泣いても笑っても一発勝負の厳しい世界。
俺が頑張っている以上に、太陽は太陽の世界で頑張っている。
「楓先輩、今日もいたか?」
「ああ、マジ綺麗だった」
「だな、分かる」
楓先輩。
話せば話すほど、その女性の魅力が俺にも大分分かってきた。
ただ太陽と俺。
楓先輩の魅力の感じ方には大きな違いがあるだろう。
「楓先輩、凄い良い人だよ」
「シュドウ、お前もそう思うか?」
「ああ。頑張れよ太陽」
「おう」
甲子園。
太陽の熱い挑戦がまもなく始まる。
そして期末テスト。
太陽の挑戦と同時に、俺の挑戦もまた始まる。




