表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/92

73.「倫理観の境界線」

「ぐはぁ」

「優等生様、試験のデキは?」

「ぜっっっんぜん自信ない」

「また嘘ばっか」

「本当だって岬」



 ついに迎えた全国模試当日。

 全国模試終了と共に机に倒れ込む俺。

 

 このたった1日で駆け抜けた全国模試のテスト、テスト、テストの嵐。


 朝から始まり、終了したのは夕方近く。


 俺の脳みそは完全にパンク。

 ギリギリまで記憶していたはずの解答が出てこず焦りまくった。


 ここ数日、俺は自分の未来ノートの力を信じて、できる事はなんでもやった。

 自分と楓先輩の2人の力でたどり着いた模範解答を、ひたすら解法・解答の暗記に力を費やした。


 夜眠くなり、ふとスマホの写メをのぞく。

 神宮司の十二ひとえ。

 神宮司の寝顔。

 俺の脳みそのシナプスが刺激されまくり、眠気はすぐに解消。


 眠くなっては写メを見て目を覚ます悪行を重ね今に至る。

 可愛い彼女の顔は、メントス以上の効果を発揮。

 すーちゃんの画像も試したが、これが一番効果があった。



 その葵のお姉さん。

 楓先輩との禁忌の答え合わせにまで手を染めた。

 これで高得点を取ったところで、俺の心が幸せを感じる事はないのだろう。


 だが背に腹は代えられない。

 S2から総合普通科への転落、それすなわちゲームオーバー。


 俺の最終学歴は作新高校中退。

 そんな履歴書恥ずかし過ぎて、誰も俺を雇う会社は無いだろう。


 長丁場の戦いが終わり、全国模試の緊張から解放されたS2のクラスメイトたち。

 試験終了と共に、みんなやり遂げた笑みを浮かべながら解散を始める。



「優等生様。お客様がお見えです」

「誰が来たって岬?」

「シュドウ君、うっす」

「なんだ神宮司か、脅かすなって。その面白いうっす何?」

「野球部の挨拶っしょ?てかマネージャーはその挨拶やんないし」

「なるほどな。面白いなお前」

「うっす」



 可愛い子は何を言っても可愛い。

 女の子に笑顔で「うっす」とか言われたら秒で死ぬ、マジ死ぬ。


 野球部の男子球児たちのモノマネをしている神宮司葵。

 全国模試も大事だが、来月甲子園出場をかけた球児たちの練習は今日も予定されている。


 楓先輩に連れられて野球部の手伝いを続ける葵。

 神宮司姉妹は基本いつも一緒に行動している。

 理由は分からないが成瀬と違い、葵は正式に野球部には所属していないらしい。


 そんな子を受け入れ続ける監督は、一体何を監督しているのか俺には理解不能。

 男に厳しく、女子に甘い。


 グラウンドで練習とかしてて、制服女子が監督の周りに秘書のようにたむろする。

 監督はウハウハのはず。

 俺には分かる。


 監督者としてあるまじき失態。

 生徒会監査人として野球部には必ず襟を正してもらう。

 改革の一丁目一番地は野球部で決定だ。



「守道君」

「げっ!?楓先輩」

「げっじゃねーし。ちゃんと先輩に挨拶しろや」

「おっす」



 楓先輩は野球部のマネージャーかつ影のボス。

 野球部の改革に手を付ければ俺が真っ先に消される。

 やっぱり改革中止。



「シュドウ君それ違うよ、うっすだようっす」

「うっーす」

「ふふっ、楽しいわね2人とも」

「私帰るわ」

「ちょっと待て岬。俺を1人にしないでくれ」

「死ね」



 楓先輩が現れるなり、岬が先に教室を出て行ってしまった。

 つきまといをしていた元彼は、岬の兄ちゃんがこの前ボコって以降姿を見せないと話していた。


 全国模試が終了して生徒は一斉に下校中。

 岬も生徒たちに紛れて、明るいうちに家には帰れるだろう。 


 それよりなにより。

 最大の問題は俺の目の前に現れた神宮司姉妹。

 

 うっすなんて言ってる場合じゃない。

 この後何を言われても、全国模試が終了したばかり。

 勉強があるんで帰りますが通用しないシチュエーション。


 嫌な予感がする。



「シュドウ君、今日うち泊まってく?」



 まだ帰宅していないS2のクラスメイトたちに戦慄が走る。

 

 小耳を立てるクラスメイトたち。

 帰宅を中止し、俺の発言を注視する。

 

 神宮司が話すだけで破壊力抜群。

 じゃあ泊まるわなんて言うわけないだろ。

 答えはノーだ、絶対にノー。

 

 そもそもなんでこんな事言い出した?


 そういえば……。

 

 思い当たる伏線があった。

 

 全国模試が始まる前のここ数日。


 俺の焦りを知らない神宮司が、俺の事をやたらダークサイドに誘ってくる毎日。






『ねえシュドウ君』

『なんだよ神宮司?』

『源氏物語の続き、一緒に読まない?』

『全国模試直前にそんな長編小説読んでられないだろ』

『う~ん……そっか』






 さらにこの前。






『ねえねえシュドウ君』

『なんだよ神宮司。今日も来たのかよお前』

『あのね、この前の』

『なんだよこの前のって?』

『京都』

『行くわけないだろこの全国模試直前に!お前1人で行ってこい』

『う~ん……じゃあいい』

『いいのかよ』





 全国模試の直前になればなるほど、計ったように俺の邪魔をしてくる神宮司。

 ついに色々ぶっ飛んでお泊り発言まで飛び出した。

 暇なのかこの子?

 


「……神宮司、ちょっと良いか?」

「なになに?」

「ぐ……」



 無邪気な笑顔が俺を地獄へおとしめようとしている。

 この子に他意はない。

 

 俺には分かっているが、世間はそうは思わない。



「お、お姉さん」

「なに?」

「なにじゃないっすよ、ちょっとはこの子止めて下さいよ!」

「やった!お姉ちゃん、シュドウ君泊めて下さいって言ってくれたよ」

「お前はちょっと黙ってろ光源氏!」

「ふふふっ」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







「ごめんなさいね守道君。無理矢理誘ったりして」

「本当ですよ楓先輩」

「ふふ~シュドウ君と一緒~」



 神宮司家の正門に到着。

 神宮司が閉じている自分の家の門に手をかざす。



「シュドウ君、見て見て。はぁ~」

「ハンドパワーか?」

「違うよ、魔法」

「そういえばお前グリフィンドール出身だったな」

「えへへ」

「ふふっ」



 俺がホグワーツへ行けば間違いなくスリザリンでいじめられる運命。

 ヨーロッパでも日本でも、俺の居場所は過酷だ。



「楓先輩、この門どうやって開いてるんです?」

「警備会社さんの契約で」

「吉田沙保里が守ってるなら万全ですね」

「さおり?」



 ホームセキュリティーはアルソック。

 よく見たら門にそれらしいシールが貼ってある。


 警備会社の力でオートロックの門が勝手に開く。

 門が本来受け入れるのは神宮司姉妹だけ。



「シュドウ君、閉じちゃうから早く入って」

「分かった、分かったから」



 俺の排除に失敗した門が閉じられる。


 全国模試が終了。

 未来ノートの所有者だと楓先輩にバレている俺。


 ノートを出すように要求され、1ページ目に小テストの問題すら無い白紙である事を確認される。

 それすなわち暇。


 あっけなく神宮司家に連行される。


 俺が暇かどうか確認の仕方が汚い。

 この世界で楓先輩しか知らない、俺が暇かどうかの確認方法。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








「じゃあお姉ちゃん。先に入るね~」

「行ってらっしゃい葵ちゃん」

「俺が来てんのに普通に風呂入ろうとするなよ」

「シュドウ君も入る?」

「入るわけないだろ!」

「う~ん……そっか」



 帰宅そうそう、いきなりシャワーを浴びに向かう神宮司。



「ジメジメしてもう暑いでしょ?葵ちゃん、帰った時と寝る前に2回入るの」

「何シャンですかそれ?ちなみに朝は?」

「葵ちゃん……朝弱いの……」

「……俺朝シャン派なんで、あの子の行動はまったく理解できないです」

「そう?」

「そうです」



 自由過ぎる神宮司葵。

 遊びに連れて来ておいて、勝手に先にシャワーを浴びる。

 もはやトキめきも何も感じない。


 楓先輩と2人、神宮司姉妹の部屋で葵の夕シャンの帰りを待つ。

 この後、夜シャンもあるらしい。

 もう好きにしてくれ、俺は帰る。



「守道君」

「はい、何です先輩?」

「ふふっ。本当はね、私が守道君とお話したかったの」

「本当ですかそれ?」



 先輩があらたまって話を始める。

 なにかあったのだろうか?



「守道君はノートの力、どこまで知ってる?」



 未来ノートの話。

 先輩が話したい事……。

 当然ノートの話。



「ノートの力?未来のテスト問題が分かるようになりますよね?」

「……これを見せるのも、守道君が初めて」



 先輩が部屋の隅にある棚から、なにやらガクブチに入る賞状を取り出す。

 


「あなたには、見ておいてもらいたいと思ったの。私の罪を」

「罪?」

「わたしの罪……絶対やってはいけなかった……実験」

「実験って……」



 楓先輩が取り出した表彰状。

 そこには「気象予報士」の国家資格合格の表彰状が手に持たれていた。



「このノートを長く持ってるとね?あるの、たまに……魔が差す時」

「楓先輩……ノートの見せる未来の問題って……もしかしてある程度コントロールできるって事ですか?」

「そうよ……そう」



 楓先輩が話す未来ノートの恐ろしい力。

 未来ノートは所持者が達成したいと願った先にある問題を、何でも鏡のように写し出してくれる事。



「それって……それができるって事は……」

「そう……これは国家資格。英検に漢検、大学の入試、その先も願えば公務員試験や司法試験だってなんでも見せてくれるはずよ」

「国家資格まで……先輩がそれ隠してたって事は……そういう事ですよね」

「そうよ……試されてるの。ノートに私たちが。私たちの倫理観を」



 夕日に空が染まり始める。


 姉妹の部屋の中を西日が差し込む。


 先輩は寂しそうに資格試験の賞状をしまう。

 葵に見られないようにするためだろう。


 そして先輩は、意外な話を俺に続けた。



「実力で試した?」

「このお話……ちょっと恥ずかしいんだけど」

「いえ、偉いじゃないですか楓先輩。それグッドジョブですよグッドジョブ」

「そうかしら……」



 なんと俺より未来ノートの大先輩。

 楓先輩が本来の実力で最近小テストにチャレンジしたらしい。



「科目は?」

「……英語よ」

「結果は?」

「……53点」

「凄いじゃないですか先輩。実力だけでそれだけ取れたらオの字ですよオの字」

「恥ずかしいわこの話……」



 未来ノートを使わずに実力でテストに挑む。

 そんな事、今まで俺、考えた事無かった。


 新鮮な発想。

 結果は残念かも知れないが、楓先輩にとってもチャレンジだったに違いない。



「守道君。中間テストとか実力でやってはダメよ」

「やった事あるんですか先輩?」

「あれはダメ。絶対ダメ」

「ちょっとそれどういう意味ですか?」



 楓先輩の顔が赤くなる。

 どうやら相当マズい結果が出たようだ。


 未来ノートを卒業するヒントが、もしかしたら先輩の経験に隠されているかも知れない。

 どうしても聞きたい。

 この悪魔のノートを卒業するチャレンジの結果を。



「先輩しか経験者いないんですから、俺にそこのとこ、もっと詳しく教えて下さいよ」

「恥ずかしいわ……」

「お願いしますよ先輩。俺、どうしても先輩の事が知りたいんです」



 気になる。

 先輩のチャレンジの結果。



「ただいま~」

「あらあら葵ちゃん」

「ぐはぁ!?バカだろお前!?ちゃんと隠せよ!」

「なにが?」

「なにがじゃないよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ