69.第8章最終話「始動 生徒会新体制」
無記名投票で行われた生徒会長を決める役員選挙。
結果は現職、叶美香の圧勝。
せっかく無記名で行われるはずの投票前に、現職叶美香に反旗をひるがえす事を宣言した俺。
天下分け目の関ヶ原の合戦に見事に敗戦。
3年生の先輩たちに捕縛され、落ち武者となって生徒会室に連行される。
早く帰って全国模試の予習をしないといけないのに、なんでこうも毎日事件が発生する?
あの名探偵より殺人事件の発生頻度が明らかに多すぎる。
これも未来ノートの呪いなのか?
いや、違う。
その証拠にいま俺の隣にいる第2所持者の楓先輩。
ニコニコしながら俺を捕縛して腕をがっしり掴んでおられる。
親友、叶美香当選確実にご満悦の様子。
俺だけ呪われるのは絶対におかしい。
落ち武者の俺は3年生の入る校舎の3階最上階一番奥。
「作新高校生徒会」の漆塗りテカテカの表札が掲げられた生徒会室に一度入り、広い広間の隣にある個室に閉じ込められる。
「じゃあ高木君、時間になったら呼ぶから出てきて下さい」
(ガチャ!)
生徒会のメンバーと思われる腕章を付けた男に別室に閉じ込められた。
なんだこの部屋?執務室?
いや、拷問部屋か?
うわ!?ムチ飾ってあんじゃん!?
マジもの?
これ絶対叶美香の私物だろ。
「やあ君、高木君だよね」
「あっ、俺の投票した結城数馬だ」
「はは、それは光栄だね。あえなく惨敗しちゃってすまない」
「あんな部活派閥の組織票固められたら絶対勝てませんよ。俺みたいな浮動票は全部結城さんに投票してますよ」
「それはありがたい。それにしてもその傷……随分痛そうだね」
「はは、気にしないで」
生徒会室の大広間の隣にある一室。
ムチの飾り物が嫌でも目に付くソファ席に、生徒会長候補の1人だった1年生S1クラスの結城数馬が座っていた。
「君もここに呼ばれたんだね」
「無理矢理ですよ。こないとお前の過去を全部バラすって脅されたんですって」
「はは、それは怖い先輩たちに捕まっちゃったね」
「本当ですよ」
俺の天敵、成瀬真弓。
親友に俺を売り飛ばしておいて、あんなにニコニコ笑っていた。
許されざる非人道的行為。
それにしてもこの結城数馬。
成瀬や神宮司と同じS1クラスの男子生徒。
まじかで見るとルックス最高。
超イケメン男子。
演説も理路整然、なにより滑舌が俺と違って最高に良い。
「僕は生徒会長になれなかったら、生徒会には入らないつもりだよ」
「えっ!?嘘でしょそれ。結城みたいなココロざしの高い人間こそ生徒会で活躍すべきだって」
「ははは、本当に世辞が上手い。でもね高木君。今の生徒会は叶先輩の方針にイコールで活動するしかない、それじゃあツマらないと思わないかい?」
「偉い、俺も長期独裁政権は腐敗の温床だと思ってたんですよ」
「はははは、頭の良い君がそう言うんだ。それが本当らしい」
なんだ。
この結城ってやつ。
性格も爽やかだし、考え方が凄い共感できる。
メチャメチャいいヤツじゃないか。
「高木君。ここに呼ばれたって事は、君も生徒会に勧誘されたんじゃないかな?」
「あ、された。でも断った」
「君も?」
「結城も?」
「ふ」
「ふふ」
「あははは」
なんか俺たち……気が合いそう。
(トン!トン!)
「結城さん、高木さん、こちらへお越し下さい」
「じゃあ」
「そういう事で」
少しのやりとりで互いの考えが通じる。
太陽と同じ感覚に親しみを覚える。
結城数馬と2人で生徒会室の大広間に向かう。
部屋の一番奥。
大きな執務机に座る絶対的クイーン、新生徒会長、叶美香。
そしてその再選を確信して構成されている、現職の生徒会メンバーが勢ぞろいしている。
その中にはS1クラス、北条郁人、一ノ瀬美雪、桐生沙羅の姿もある。
1年生も多く参加するこの生徒会。
特別進学部に在籍する実力者揃いと言ったところ。
本当は実力が無い俺は場違い感ハンパ無い。
だがもう出るところまで出てしまっている。
ことこの場に至ってはもうオクする事もない。
言いたい事を言って、早く帰る。
俺の高校生活は、未来ノートを中心に回っている。
それはこの高校に居続けるための束縛。
生徒会に絡んでいる余裕と時間は、今の俺にはまったくない。
「ではこれより……」
「ありがとう郁人。ここはわたしが」
「会長……かしこまりました」
「いい子ね、ふふ。2人とも、呼び出したりして悪かったわね。単刀直入に言うわ。生徒会に入って、わたしの下で働いてもらいたいの」
生徒会室が静まり返る。
先ほど生徒会長選出の全校生徒投票で選出されたばかりの叶美香からの直接勧誘。
恐ろしいほどの間隔。
とてもこの人からの依頼、普通なら断れませんといった雰囲気。
生徒会メンバーからの視線もあり、緊張感が半端ない。
俺が普通にこの作新高校に入学していたのならば……この依頼は断る事は無かったかも知れない。
ただ今の俺は……未来ノートで実力を水増ししているだけの平均男子に過ぎない。
未来ノートで予習もしなければいけない事情がある。
この依頼は、必ず断るしかない依頼。
「高木君、どうかしら?」
「……叶先輩。まずは生徒会長就任おめでとうございます」
「あら、ありがとう。じゃあ依頼は受けるって事で良いかしら?」
「残念ですが、そのお話に関してはお受けできません」
「あら」
生徒会メンバーからどよめきが起こる。
新生徒会長からの直接依頼に対して、全面的に否定。
普通ならあり得ないだろう。
だが断る。
だって俺、本当余裕ないから。
「ははは、君本当に断ったね」
「結城?」
「さすがにちょっと迷ったけど、先に君が言ってくれて良かった」
「あら結城さん。あなたの返事は?」
「生徒会長、もちろん僕もノーです。彼と同じ考えです」
「あらあら」
ふたたび生徒会室にどよめき。
作新高校の生徒会に入れば社会的地位、ネームバリューを得られる。
大学への進学、推薦入試にも当然有利になる、得られる果実は多いと聞く。
結城が依頼を断る理由は先ほど聞いていた。
彼は生徒会長のイスにしか興味がないビックボーイ。
彼はちょっと迷った?
俺は全然迷わなかった。
だってお勉強しないとテスト超ヤバいから。
「あなたたち。ご自分の言ってる事が分かっているの?」
「おい一ノ瀬、会長の時間だ、口を挟むな」
「郁人は何も思わないの?」
「ふふ、一ノ瀬さんありがとう。こうなる事は分かってたの」
「会長?」
俺と結城が叶生徒会長の直接勧誘を断った事で怒り始めた一ノ瀬美雪。
それをたしなめる北条郁人。
この北条って男子は、叶会長に絶対服従のような立場を取っているように感じる。
「そ・こ・で、あなたたちには別のお願いがあるの。この話は必ず飲んでもらいます。郁人」
「はい会長。校則第24条、生徒会長は生徒会長付顧問1名、生徒会長付役員2名を規定役員とは別に設ける事ができる。なお顧問は教員より、役員は生徒より選任するものとする。以上です」
「ご苦労」
何を言い始めたこの人たち?
顧問?
役員?
「高木君。あなた、わたしが2期目の生徒会長になるの、長期独裁政権は腐敗の温床だと言ったわね」
「はい、その通りです」
「あなたね!」
「おい一ノ瀬」
「……失礼しました」
「ふふ、実はわたし自身そう思ってたの。今のメンバーはみんな良い子たちだから……外部の目も必要だなって思ってたの」
なにかとんでもない話になってきた。
叶美香。
普通の人間なら生徒会長2年連続当選して浮かれていても良い状況。
それどころか、自分を律して襟を正そうとしている。
考え方が大人過ぎる。
「あなたたちが直接生徒会に入ってくれる事を期待したんだけど……そうはいかないみたいね。郁人、プランBを」
「はい会長。高木守道、結城数馬。校則第24条権限に基づき、生徒会長づけ、生徒会監査人に任命する」
「えっ?」
生徒会監査人?
聞いた事もない肩書。
「2人とも良く聞いて頂戴。生徒会監査人は文字通り、生徒会の監査を行う大事な仕事」
「具体的には何をするんですか?」
結城数馬がこの話に食いついた。
なにかメリットでもあるのか?
「わたしの助言役と言ったところかしら?」
「定則の定例会への参加は?」
「免除します」
「来年の生徒会長選挙への立候補は?」
「もちろん許可します。どうせ出るつもりでしょあなた?」
「もちろんです」
あ、俺もうダメ。
なんか全然話についていけてない。
「生徒会のメンバーである事に変わりはないわ。メリットも十分享受出来るし、わたしの話に付き合ってもらえれば結構よ。おいしい話だと思わない?」
「もちろん。君もそう思うだろ高木君?」
「え?」
悪い結城。
俺、今の話で全然なに言ってるか分かんない。
「今いるメンバーにとってはあまり良い話じゃないわね。この話、理解してもらうには……そうね。高木君、ちょっと良いかしら?」
「へ?俺っすか?」
突然のご指名。
もう俺の頭パンク中。
なんすか会長?
「さっそくで悪いんだけど、副会長を1名決めないといけないの。当然……生徒会としても次の生徒会長の候補者となる大事なポスト。あなたの意見を聞きたいわ」
「ああ、それならもう1人しかいないじゃないですか」
「誰?わたしに教えて頂戴」
次の生徒会長だろ?
それなら簡単。
俺の目には1人しか見えていない。
叶美香の後継者。
頭が良くて、美人で。
最もムチが似合いそうな女子。
「その子です。一ノ瀬美雪」
「ええ!?なに言ってるのあなた!」
「あらあら~どうしてそう思うの?」
「彼女この中で一番優秀です。会計担当としてうちのパン研の不正会計を見事に見抜きましたし。あ、あとルックス最高で超美人でしょ?この子選挙出たら俺絶対投票しますよ」
「ぷっふふふ」
「桐生さん笑わない。なに言ってるのあなたは!」
「賛成」
「わたしも賛成」
「異議なし」
「ええ!?ちょっとみなさんまで」
生徒会のメンバーから拍手が沸き起こる。
一ノ瀬美雪のこの超が付くほどの真面目な性格。
生徒会のメンバーからも慕われているのだろうか?
「くくく、これは愉快。僕もぜひ賛成させてもらうよ」
「郁人まで何を言い出すのよ。副会長にはあなたこそ相応しいのに」
「君が生徒会長になったら、その時お願いしたい」
「なにを言ってるのも~」
(パチパチパチパチ)
赤面した一ノ瀬を見て、生徒会のメンバーたちからますます大きな拍手が起こる。
なんかこの生徒会……俺が思ってたような怖い組織じゃなさそうだ。
どっちかと言うと、アットホームで仲良くやってる印象。
これも叶美香の作り出した組織。
ただの仲良し集団では無かったようだ。
「はい、それじゃあこの話はおしまいね。選挙の投開票も大変だったし、みんな今日はお疲れ様。郁人、良いかしら?」
「打ち上げ始めるぞみんな。幸せになる準備は良いかーー!」
「おおーー!」
どこからともなくお菓子やジュースがたくさん出てきた。
机に並べられるポテチやチョコレートの甘い香り。
俺と結城数馬もその輪の中に放り込まれる。
「ははは。ハメられちゃったかな俺たち」
「ハメられた?ちょっと待て数馬。俺、いつ生徒会のメンバーになった?」
「ついさっきだろ?拘束も少ないし、断る理由ないだろ?」
「ちょっと待って。俺状況ぜっっっんぜん分かってないんだけど」
「冗談も上手いな高木君、ははは」
「冗談じゃないって数馬」
一ノ瀬美雪が生徒会メンバーの中心でもて遊ばれている。
みんな家族のような温かい関係に見える微笑ましい光景。
だがちょっと待て。
俺いまどうなってる?
幸せになる準備なんか、これっぽっちも用意なんて出来てないよ。
第8章<生徒会の長> ~完~
【登場人物】
《主人公 高木守道》
平均以下で生きる平凡な高校男子。あだ名はシュドウ。ある事がきっかけで未来に出題される問題が表示される不思議なノートを手に入れる。作新高校特別進学部S2クラス所属。謎の部活、パンダ研究部に入部。生徒会長付、生徒会監査人に就任。
《高木紫穂》
主人公の実の妹。現在は主人公と別れて暮らす。別居してからも兄を気遣う心優しき妹。中学2年生。
《朝日太陽》
主人公の大親友。小学校時代からの幼馴染。スポーツ万能、成績優秀。活発で明るい性格の好青年。作新高校1年生、特別進学部SAクラスに所属。甲子園常連の名門野球部に1年生として唯一1軍に抜擢される実力者。
《成瀬結衣》
主人公、朝日とは小学校時代からの幼馴染。秀才かつ学年でトップクラスの成績を誇る。作新高校1年生、特別進学部S1クラスに所属。野球部に所属、姉と共に女子マネージャーとなる。
《岬れな》
作新高校1年生、特別進学部S2クラスに所属。主人公のクラスメイトかつバイト先の同僚。パンダ研究部に入部。
《結城数馬》
作新高校1年生、特別進学部S1クラスに所属。生徒会長役員選挙に立候補するも落選。主人公と同じく生徒会長付、生徒会監査人に就任。
《成瀬真弓》
成瀬結衣の姉。作新高校3年生。野球部のマネージャー。幼い頃から主人公の天敵。神宮司楓の親友。
《神宮司葵》
主人公と図書館で偶然知り合う。作新高校1年生、S1クラスに所属。『源氏物語』をこよなく愛する謎の美少女。
《神宮司楓》
現代に現れた大和撫子。作新高校3年生。野球部のマネージャー。誰もが憧れる絶対的美少女。神宮司葵の姉。
《南夕子》
作新高校3年生。神宮司楓、成瀬真弓の親友。作新高校パンダ研究部部長。
《叶美香》
作新高校3年生。作新高校の生徒会長選挙に出馬。圧倒的得票数により再選された作新高校の女王。
《北条郁人》
作新高校1年生。特別進学部S1クラス所属。生徒会のメンバー。
《一ノ瀬美雪》
作新高校1年生。特別進学部S1クラス所属。新体制生徒会において、副会長に抜擢される。
《桐生沙羅》
作新高校1年生。特別進学部S1クラス所属。生徒会の会計担当。




