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68.「生徒会役員選挙(後編)」

 引き続き生徒会役員選挙の激しい戦いがネット上で繰り広げられている。

 たった1つ。

 生徒会長のイスを賭けた激しい選挙戦。


 生徒会長に選ばれれば学校を支配したも同然。

 副生徒会長以下は任意の立候補制。

 生徒会長自身の考える学校作りを目指す人たちも自然と集まってくるだろう。


 現職で2期目を目指す叶美香にとっては、去年から1年間の生徒会長としての成績簿といった戦い。


 最初こそ好調だったスクール水着義務化公約を打ち出した「我が青春の日々」。

 次第に冷静になった生徒たちの票が離れていき、支持率は急低下。

 スマホに表示される支持率のグラフが大暴落。



「あっ、俺の青春が消えていく」

「こら高木君、そんな青春いりません」

「マジ?」

「それよりこっちの候補者は凄く真面目な考えで共感できます」

「誰だよ成瀬?」

「このレディーファーストの方です」

「いかにも怪しい名前だろそれ?」



 レディーファーストの党。

 立候補者が女性なんだな……。

 そもそも1人で立候補しといてナゼ党を結成してる?


 おピンクのサイト。

 成瀬のような女子生徒をターゲットにしているのは明らか。


 えっと公約公約……。

 なにやってんのこの人?



「……おい成瀬、この人おかしいって」

「そんな事無い、凄く考えがしっかりしてる」

「どこがだよ」






―――『帰りの遅い旦那の帰宅時間、申告を義務化します』―――







「いやいやいや、意味分かんないって」

「どうして?ほら、続き読んでみてよ」

「え~……とりあえず読む」






『晩御飯を作って帰りを待ってたのに、「今日外で食べてきたから」と連絡も無いなんてヒド過ぎます』





「ね?共感できるでしょ?」

「いや、そりゃ共感はできるけど……どうだ太陽?」

「俺に聞くなってシュドウ。ただ次の公約はちょっと俺もどうかと思うぞ」

「どれ?」





 ―――『門限は19時。遅れる際は15時までにラインにて嫁に報告の一報を』―――





「いやいやいや、無理だってこれ」

「どうして?」

「19時までに家に帰れる旦那って日本人の何パーセントだよ?」

「検索したぞシュドウ、20パーセントだってよ。パリが80パーで先進国で最悪の水準らしい」

「だろ?」

「晩御飯の準備って大変なの。毎日献立考えないとだし。しかも連絡無しに食べて帰るって最低です」

「それ生徒会選挙と全然関係ないじゃん。専業主婦かよ成瀬?」

「共働きでも当然です。岬さんはどう思う?」

「事前に連絡とか普通っしょ」

「マジか。俺結婚とか絶対無理」

「ちゃんと連絡しろし」

「ははは」



 平和過ぎる作新高校。

 生徒会役員選挙の熱戦がネット上で続く。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 今日の授業が間もなく終了する。

 この後全校生徒は講堂に集まり、生徒会長に立候補した12名の生徒の所信表明演説を聞くらしい。


 ただ12名立候補はしたが、実際に演説するのはたったの3人との事。

 残り9名はすでに選挙戦から離脱し、他の候補の応援に回っている。


 無駄な時間演説すると生徒たちから嫌われてしまうとか、元々名前だけ売りたかった生徒が目的を達成したのが要因らしい。


 全国模試前とは思えない白熱したイベントも後少しで終了する。

 まあ……結果はすでに誰の目にも明らか。

 十中八九、叶美香で決まりだろう、残念ながら。


 講堂に移動する。

 全校生徒が入れる講堂はとても広い。

 何段も横一列の弓型の席が講堂内一杯に連なる。


 特別進学部、S2クラスの俺と岬は並んで座る。

 演説の持ち時間は1人5分。

 生徒会長候補に残る3人が順番に演説を始める。


 俺の一押し、「我が青春の日々」はすでに選挙戦から離脱。

 今年度中のスクール水着復活の芽は閉ざされた。


 成瀬の一押し、「レディーファーストの党」もすでに消滅。

 世間に自分の主張が出来たとツイッターに候補者の投稿。

 未来の旦那に文句を言って、十分満足できたらしい。


 さらには自身の支持者に「叶美香へ投票せよ」と恐ろしいコメントを載せている。

 これで成瀬のような真面目な女子生徒たちの票はすべて叶美香へ流れてしまう。

 この人、元々叶美香の支持者だろ?

 選挙戦の深い闇を感じる。



 1人目の候補者が講堂の演説席に登壇する。

 全校生徒出席義務だから結構真面目な時間。

 

 そして真面目そうな男子生徒が登壇。

 静まり返る講堂。



「この度、生徒会長に立候補しました、特別進学部 S1クラス 1年生、結城数馬(ゆうきかずま)です」



 随分とフレッシュな生徒会長候補の登場。

 講堂に集まる全校生徒から歓声が上がる。

 特に女子のかん高い声がひときわ大きく行動に響く。


 超イケメン。

 超真面目そう。

 誠実かつ爽やか。


 何言ってるか内容は全然分からないけど、なんだか学校をより良くしたい~的な事言ってる。

 なにより滑舌が良い。

 俺と正反対の絶対モテそうなタイプの男子。


 5分間の演説スピーチが終了し、講堂内から拍手が沸き起こる。




「あんたとは月とすっぽんじゃん」

「だな、俺もそう思う」

「すぐ認めるなし」



 2人目の生徒会長候補も男子。

 2年生の特別進学部在籍者。

 主張はとても立派なもの。


 正直1人目に登場したフレッシュな1年生の結城数馬の登場が新鮮過ぎて、どうせ任せるなら若い力に託したいと俺は思う。




(ザッザッザッザッザッザ)



 なんだなんだ?

 いきなり講堂の前面ステージに現職の生徒会メンバーと思われる集団が一斉に隊列を組んで現れる。

 一糸乱れぬ軍隊行動。


 その中には先日出会った3人。

 北条郁人、一ノ瀬美雪、桐生沙羅の1年生S1クラスの3人の姿もあった。


 隊列が整う。



(カツカツカツカツ)



 出た。

 最後に。


 出たよ出た。

 ユーアーザ・クイーン。



「おーほっほっほ」



 衝撃的登場に講堂の全校生徒が静まり返る。

 何もしゃべらなくて良いから、もういいじゃんこの人で。



「わたくしの掲げる目標はただ1つ。作新高校の生徒たるものの品位と自覚を持って――」



 はい俺もう失格。

 先日もお抹茶の作法がなってないって、生徒会長から直接指導という名の愛のムチをビシビシ振るわれたばかり。


 理路整然、気品あふれる演説に全校生徒が見守る。

 品位がまったくない俺は叶美香の演説にグの字も出ない。


 叶美香に付き従う現職の生徒会メンバーたち鉄壁の布陣。

 作新高校の未来は君たちに任せた。


 3候補に絞られた生徒会長候補者たちの演説が終了する。

 1人5分で計15分。

 開始は14時、投票は14時30分。

 これから投票まで15分の休憩タイム。

 

 今年の選挙戦。

 現職の叶美香率いる生徒会メンバー対改革派の1年生、2年生の新人で争うと言った感じ。


 S1クラスの成瀬と神宮司、SAクラスの太陽たちと5人で通路の脇で合流して立ち話。



「神宮司、お前誰に投票するんだ?」

「えっとね、お姉ちゃんから叶先輩に投票しなさいって言われてるの」

「野球部は全員叶先輩に投票するぞシュドウ。昨日のミーティングで徹底されてる」

「マジか」



 この15分の休憩タイム中に、現職の生徒会メンバーたちの動きも慌ただしい。

 太陽や成瀬の話では、各部活の部長クラスに話をしているらしい。


 現職の叶派は部活単位の組織票を固める様相。

 


「シュドウ、野球部だけで票は50を超えるぞ」

「マジかそれ。よく改革派に票が流れないな……これも楓先輩の力なのか」

「楓先輩が叶先輩応援してるでしょ?うちのお姉ちゃんも他の部活で仲の良い部長さんたち多いし」

「成瀬の姉さんも裏で糸を引いていたのか……」

「うちのお姉ちゃんが悪い事してるみたいに言わないの」



 楓先輩が現職の叶美香を応援した時点で、野球部の選手たち全員が楓先輩に付き従う構造。

 太陽もその1人。

 誰1人として例外なく。


 3年生の女子マネージャーが何故か監督よりも強大な権力を握る謎野球部。

 楓先輩の一言ですべてが決まる。

 球児たちに「逆らう」という選択肢は存在しない。


 状況は圧倒的に叶美香に傾いているが、唯一対抗できそうなのがあのフレッシュな1年生男子。

 現職の叶会長と、改革派の1年生フレッシュ、S1クラスの結城数馬の一騎討ちは誰の目にも明らかだ。

 

 誰が投票したか分からない選挙なら、わざわざ俺の敵となる女に投票する必要は一切ない。

 結城数馬はデキる男。

 俺はフレッシュなその才能とルックスにすべてを託す。



「シュドウ君は誰に投票するの?」

「えっ?誰に投票したって別に良いだろ神宮司?」

「お姉ちゃんが叶先輩にしなさいって言ってたよ」

「楓先輩……」



 先輩には悪いが、あの叶美香は危険な女。

 この先、俺の作新高校ライフに牙をむく超危険人物。


 このまま2期目に突入すれば、ますます図に乗ってあの高笑いを聞き続けなければいけない。

 このまま簡単にアデューさせてなるものか。

 この再選、なんとしても阻止せねばならない。



「神宮司。お前なに姉ちゃんの言う事ばかり聞いてんだよ。もっと自分の考えを持った方が良いぞ」

「自分の?」

「そうだ」

「ちょっと高木君。神宮司さんを誘わないの」

「そうだぞシュドウ。後で先輩たちに何言われるか分かってるだろ?」



 巨大な権力は必ず弊害を生む。

 先日もパン研を危機的状況に陥れた現職の生徒会メンバー。


 パン研にそこまで思い入れがあるわけでは無いが、あの叶美香の自由にさせてなるものか。



「神宮司。俺は長期独裁政権は腐敗の温床だと思ってる。ここはフレッシュな改革派の先鋒、結城数馬で決まりだ」

「う~ん……じゃあわたしもそっちにする」

「ちょっと高木君」

「シュドウ、やめとけって」

「神宮司、黙って俺について来い」

「うん、そうする」

「馬鹿じゃん」



 俺たち5人も叶美香の支持者3名、改革派の結城数馬の支持者2名で割れる。

 ノーベル賞を取ったオジサンが言っていた。

 日本人は同調性が強すぎる。

 部活の方針で生徒会長を選ぶとか、俺には考えられない愚行。



「お前の部活はどうなんだシュドウ?」

「パン研なら昼間お前らも来てただろ?うちの南部長から何一つ選挙の話なんて無かったぞ」

「南先輩とうちのお姉ちゃんたち仲良いのに何でだろうね?」

「シャンシャンラブのうち部長が選挙に興味なんてあるわけ……」

「誰がパンダだって?」

「げっ!?南部長……ごきげんよう」

「なにか言ったかね後輩君」



 まさかの南部長の登場。

 しかも楓先輩と真弓姉さんを引き連れて。

 しかもしかも話題の先鋒、生徒会長候補筆頭、叶美香様と4人でご降臨。



「ちょっと南先輩、なんでその危険な3人連れて来るんですか!?」

「葵ちゃん、ここに居たのね」

「お姉ちゃん。わたしね、シュドウ君と一緒にあの結城って人に投票するの」

「あらあら……この子ったら……どうしましょう」

「ちょっと高木。葵ちゃんになに言った?」

「あのねあのね。シュドウ君が長期独裁政権は腐敗の温床だって言ってたの」

「こら高木!ちょっとあんたこっちに来なさい!」

「あら~宜しくてよ。このわたくしに牙をむこうなど、面白い男じゃありません?」

 


 14時30分、投票開始。


 14時50分、投開票が終了。


 作新高校、全校生徒総数1002名。


 有効投票総数998票。


 叶美香、得票数760票。


 有効投票数、全校生徒の7割以上の支持を得て圧勝。


 生徒会長役員選挙に圧倒的勝利、無事2期目に向けた再選を果たす。


 俺は自ら掘った墓穴にハマり。


 15時ちょうど。


 投票終了後。


 3年生の先輩たちに拘束され、生徒会室へ連行されてしまう。


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