67.「生徒会役員選挙(前編)」
月曜日。
作新高校に登校する4人の生徒の姿。
太陽と成瀬。
岬と俺。
昨日の野球部の試合。
作新高校は8-0の大勝。
先発の太陽は9回を1人で投げ切り、3年生エースピッチャーを出すまでもなく試合を完全にコントロール。
ベンチで記録員の楓先輩が見守っていたのが余程効果があったようだ。
試合後は各自解散となり、成瀬や神宮司とも挨拶してその場を別れた。
今朝は5時からバイトを始め、いつも通り8時前の登校時間に終了。
試合があった翌日、朝練が休みだった野球部。
太陽と成瀬が俺と岬をバイト先のコンビニまで迎えに来てくれた。
作新高校の正門に到着する。
白い石畳が校舎までまっすぐに伸びる。
桜の木は緑色に生い茂り、昨晩降った雨で葉や枝から雨の雫が地面へポツポツと落ちていく。
なにやら騒がしい声が聞こえる。
校舎の方で生徒たちが騒いでいる。
中間テストはとっくの昔に終わっているはず。
なんか大きなテストの結果発表なのか?
全国模試までもう少しというこの時期。
そんな大きなテストあったかな?
「なあ太陽。最近張り出されるようなテストあったっけ?」
「違うぞシュドウ、選挙だよ選挙」
「選挙?」
「そうよ高木君。ほら、この前教えてあげたのもう忘れてる」
「そんな事言ってたっけ成瀬?」
「もう~わたしの話、右から左にすぐ忘れていくんだから」
「生徒会の選挙。馬鹿じゃん」
生徒会の選挙?
そういえばそんな事、言ってたような、言ってなかったような……。
「シュドウ、お前もう生徒会選挙のサイト見たか?」
「サイト?なにそれ?」
「スマホで立候補してる生徒会長候補が見られるサイトだよ。ほら、これIDとパス」
「サンキュー、スマホ無かったら見られなかったよ。最近何でもスマホだな……で、なにが分かるんだこれ?」
「今日が選挙日だよ高木君。生徒会長に立候補した各候補者が公約に掲げてる内容をスマホで見て、自分が一番投票したい人に今日の授業が終わったら一斉に投票するの」
生徒会長は1人全校生徒投票を実施して選出。
副生徒会長以下は立候補制による任意加入が作新高校生徒会のルールらしい。
故に成瀬の話では、唯一1人選ばれる生徒会長のイスは、全校生徒から選ばれたという絶対的存在と言えるらしい。
「あの掲示板ダサ過ぎ」
「掲示板?うわ!?」
「キャー」
「す、すげえな」
スマホの画面で生徒会サイトの初期登録をしていると成瀬の悲鳴が聞こえる。
目を掲示板に移し、校舎の前に張り出された立候補者の掲示板を確認する。
ビックリ仰天とはこの事。
立候補者実に12名。
1年生から3年生まで多種多様な人材が立候補している。
ド派手な選挙ポスターの数々。
うわ、出た、叶美香。
空を飛んでいた虫が叶美香のポスターを避けて、隣のポスターの男の顔に取りついた。
「凄いたくさんいるな候補者」
「消費税廃止とかホリエモン新党とか全然関係ないの混ざってんじゃん」
「名前が売れれば良いって人も多いんじゃない?」
「自由過ぎるだろこの学校」
中には公約を公言するポスターも目立つ。
「校則廃止とかあるな。おい岬、お前あいつに投票しろよ」
「どういう意味?」
「校則廃止すれば大出を振って茶髪で校内歩けるだろ?」
「死ね」
自動販売機増設とか、食堂の日替わり定食・ランチタイムサービス導入とか魅力的な公約がたくさん並ぶ。
「こうしてみると結構迷うな」
「ちょっと高木君。変な公約ばかり見てないで、ちゃんと人を見て下さい」
「はは、言われてるぞシュドウ」
「うるさいな成瀬は。ちゃんと人で選ぶって」
選挙戦は今日1日で終わるらしい。
以前は1週間とか告示期間があったらしいが、加熱する選挙戦で買収やお菓子の配布が横行した事で1日限りの短期決戦に変わったと真弓姉さん情報を教えてくれる成瀬。
「全校生徒にうまい棒配ってた人がいたらしいわよ」
「すげえなそれ」
「高木君、お菓子もらったら投票しちゃうでしょ?」
「もち」
「最低」
1日限りの熱い選挙戦がスタートした。
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「生徒会長への投票は、河野太郎、河野太郎に清き1票を~」
昼休憩。
校舎の廊下ではひっきりなしに生徒会長候補者を広報する人が行き来する。
校舎1階、パン研部室。
南部長は今日もパソコンに向かってシャンシャンの観察を続けている。
「お疲れ様で~す」
「あ~今忙しいから適当にしてって~」
「う~っす」
「失礼しま~す」
「お邪魔しま~す」
自由過ぎるパン研。
ここだけ校内の熱い選挙戦から隔離された異世界。
太陽と成瀬。
俺と岬の4人で旧図書館の1室にある席を囲む。
神宮司姉妹や真弓姉さんはいつもの校庭中庭で優雅に時を過ごしているに違いない。
楓先輩の頭の中で、妹の葵はすでにガンの末期に差し掛かっている。
余命いくばくも無い愛する妹との大切な時間を、噴水前でお茶を囲みながら優雅に過ごしている。
その先輩の爆発する妄想に巻き込まれた俺って一体……。
そしてその様子を見ながら笑っているであろう成瀬真弓。
あそこには絶対に近づきたくない。
食事をしながらスマホに4人で目をやる。
話題はもちろん生徒会選挙。
スマホの生徒会選挙サイトにログイン。
誰なんだこんな凝ったサイト作ってるの?
メチャメチャ画面キラキラする……謎の超電磁サイト。
「なにこのサイト?」
「投票は講堂で今日の14時半からでしょ?このサイトで自由に支持したい候補者を応援できるの」
「このボタンは?」
「シュドウ、それ押したらその候補者に仮想だが1票入るぞ。選び直しも自由」
「へ~実際の投票前に人気が分かるって事か……予備選挙みたいなやつだなこれ」
「おいシュドウ、新しい公約出したやついるぞ」
「新着?」
生徒会長候補者からの新着情報?
謎の党名「我が青春の日々」を掲げている。
この新着公約ってなんだ?
―――『スクール水着復活。本年より全校生徒義務化』―――
「いやーー」
「死ねし」
成瀬と岬が悲鳴を上げている。
さすがの俺も過敏に反応。
スクール水着……気になってしょうがない。
もう他の候補者が目に入ってこない。
「すげえ、支持率一気にトップになったなこいつ……あっ、ついに暫定1位の叶美香抜いたぞ」
「いやいや、絶対ダメだよこれ~」
「岬、お前こいつの支持ボタン押しただろ?」
「死ねし」
謎の政党「わが青春の日々」。
現職の生徒会長、叶美香を抜いて暫定トップに躍り出る。
支持率はうなぎのぼり。
グラフがバイ~ンしてる、昇竜拳だよ昇竜拳。
スマホが面白すぎてもう画面から目が離せない。
「これリアルタイムで支持してる生徒の数が分かるんだな……スクール水着を主張するあたり、あえて女性票を捨てる作戦かこいつ?」
「いや待てシュドウ、よく見て見ろ。支持者の男女比のタブ開いてみろって」
「えっ?どこ」
「これこれ」
「ああ、これね……男女比6対4!?嘘だろこれ、俺絶対9・1くらいだと思ってた」
「2人とも変な話しないでよ」
「意外にも4割女子が混ざってるあたり、あの子のスク水見たいって隠れファンが結構いる証拠だな」
「冷静に分析するなし」
熱い選挙戦は続く。




