43.「パン研へようこそ」
『シュドウ、部活は良いぞ』
『部活楽しいよ、高木君もどう?』
太陽と成瀬の言葉。
この2人の言う事は俺にとっての道しるべ。
部活……今の俺の頭の中に少しだけ芽生えている部活への憧れ。
正直テストに全力予習しないといけない身。
俺は勉強という名の予習を怠れば、すぐにS2クラスからも転落する危険な現在地にいる。
分かってる。
それは分かってるけど、部活への憧れも正直ある。
昨日スマホを手に入れたテンションが、俺を部活紹介をしている校舎1階の掲示板へといざなう。
今俺は3年間しかない、一生に一度しか通る事の無い高校生活の真っただ中にいる。
部活……やっぱり憧れる。
体育会系は選択肢に入らない。
野球部は論外、インドア派の俺に高校球児は無縁の存在。
今後も勉強に集中できて、ゆる~~い感じの文化系の部活。
そんなのあるのか?
とりあえず掲示板前に到着。
そう言えば3月末に行われた入学式。
講堂で偉い人の訓示の後に、部活紹介のオリエンテーションやってたな……。
もうほとんど忘れちゃってる。
何かいい部活あるかな……。
……書道部……無いな。
……宇宙研究部……宇宙……う~ん……。
……ん?なんだこれ?
……パン研?
……何だこの部活?
「そこの君」
「えっ?」
「入る部活探してるんでしょ?」
「ええ、まあ……」
とても小っちゃい女子生徒。
同級生?上級生か?
「うちの部どう?パン研、入らない?」
「パン研って食パンの研究でもしてるんですか?」
「そんなわけないでしょ!パンダ研究部!略してパン研」
俺の想像と大分違う部活。
勧誘だったのか……という事は、この小っちゃい女子は上級生?
「先輩はここの人ですか?」
「私はパン研の部長です。君、パンダ興味あるでしょ?」
「興味無くは無いですが……パンダ研究部って何するんです?」
「パンダの研究するに決まってるでしょ」
「……先輩は毎日パンダ観察してるんですか?」
「そうよ。先週発情の兆候が見られたの。今大事な時なの」
「それって毎日できたかできてないか観察してるって事ですか?」
「そんなやらしい風に言わないでもらえる?」
これはマズい人に捕まった。
テスト前にパンダの出産が始まれば予習どころでは無くなる。
急いでこの場を退避せねば。
「そういう事は先輩じゃ無くて飼育員の人に任せればいいじゃないですか」
「君、私がどれだけパンダ好きか知らないでしょ?」
「知りません」
「もう良いわ。とにかくパンダは興味あるんでしょ?パン研へようこそ」
「まだ入るなんて一言も言ってませんよ」
「あなたに入ってもらわないと困るの」
「僕、用事を思い出しましたので失礼します」
「ちょっと待ちなさいよ。私と用事とどっちが大事なわけ?」
「用事です」
意外にしぶとい。
先輩のペースに引きずり込まれそうになる。
それにしても危機迫る勧誘。
そんなに必死に勧誘する事情でもあるのだろうか?
気にはなるが、予習は大事。
先輩には悪いがこの話、無かった事にさせてもらう。
「あなたに入ってもらわないと部員が足りなくて廃部になっちゃうの」
「それは先輩の都合であって僕には関係の無い話です」
「お願い。掛け持ちでも良いから」
「……ちなみに廃部を逃れるにはあと何人部員が必要なんですか?」
「3人」
「僕が入っても入らなくてもこの部はいずれ消滅しますよ先輩」
「そうならないように今私が必死にこうして頑張ってるの」
パンダ、パンダ……段々思い出してきた。
入学式の後に行われたオリエンテーション。
檻から抜け出した1匹のパンダ、俺は一度この作新高校でパンダを目撃していた。
「あっ、思い出した。オリエンテーションで出てたパンダの着ぐるみ。あれもしかして先輩が入ってたんですか?」
「そうよ、なによ」
「青春のすべてをかけてまでやる事では無いと思います」
「ちょっとあなた。体を張った私を馬鹿にしないでもらえるかしら?」
「あれじゃ何も伝わりませんって。ただパンダの着ぐるみが出てきて消えただけでしたよ」
「リアルのパンダを表現したの」
「あんな着ぐるみどこで売ってたんですか?」
「作ったのよ。あの日のために私が」
緊急退避決定。
この人絶対、ヤバい先輩だ。
「すいません。ちょっと用事を思い出しましたので失礼します」
「ちょっと待ちなさいよ。だからうちのパン研さ。3人以上部員入らないと廃部になっちゃうの」
「引っ張らないで下さいって先輩。別に部として存続しなくても、先輩が個人的にパンダの観察を続ければ良いじゃないですか」
「君ね、私がどれだけパンダ好きか知らないでしょ?」
「知りません」
「君、名前は?」
「……高木です」
「高木君、お菓子食べる?」
「僕はパンダじゃありません」
押し問答が続く。




