41.「守りたい関係」
駅前で偶然出会ったクラスメイトの岬れな。
スマホについて右も左も分からない俺。
格安スマホではあるが、彼女のおかげで念願だったスマホを手に入れた。
マックの2階でスマホアプリのレクチャーを受けていると、突然岬が不自然な行動に走る。
しばらくして岬が席を立つ。
見られていると言っていた人物がいなくなったのかも知れない。
最初は断る岬だったが、家まで送ると話すと昼間であったがそれを受け入れた。
岬の住んでるマンションまで送る事にする。
顔を見ても元気がない。
「何かあったか岬?」
「……」
「クラスメイトだろ?昨日も今日もお前には助けられてる、俺で良ければ何でも言ってくれ」
「……付きまとわれてる」
「岬……ずっとか?」
「最近……」
付きまとい……女の子にはあり得る話。
そういえばバイト帰りも周りを気にする仕草をしていた。
単に夜道を恐れているだけかと思ったが、付きまといなら話は別だ。
「心当たりあるのか?」
「……」
「お前兄ちゃんいるだろ?親とか相談してるか?」
「……」
「そうか……何かあったら連絡くれよ。ちょうどラインも使えるし」
「本当?でも……」
岬が弱音を吐くのは珍しい。
相当参っているに違いない。
岬は中間テストの初日に俺の味方をしてくれた。
今日はスマホの操作まで教えてくれたし、口ではキツイ事言う奴だけど、絶対いいヤツだって俺には分かってる。
「バイトのシフト合わせるか?帰り送って帰れるし」
「それ良い、そうする」
「そうまでしてバイトするか?高校生で海外旅行とか凄い思い切るよな」
「中学校の友達。もう別の高校だし、会う機会少ないし」
「そう……か」
5月の大型連休。
バイトを休んで岬はフランス行ってたな。
嘘かと思った海外旅行。
誰か引率者でもいたのだろうか?本当に友達と行ってきたようだ。
岬はS2クラスでは一匹狼みたいに毎日一人で過ごしている。
元々仲の良かった中学時代の友達と何か約束でもしているのだろう。
中学時代の友達と離れ離れ……境遇が成瀬と似ている。
特別進学部で行われる連日のテストの嵐。
他のクラスメイトも、そのほとんどが塾通い。
部活もこなしながら勉強を続ける太陽や成瀬は特異な秀才だと今も思う。
「いい話だなそれ。そういう事ならお前のバイト、ますます応援するぞ」
「なんで?」
「毎日俺が昼飯食べてる2人いるだろ?」
「ああ、あんたの彼女」
「彼女じゃねえよ」
中学時代からの友達を大切にする。
今の俺とどこか境遇が似ている。
「あの2人と同じ高校に?」
「そう、入りたかったから」
「だから作新に」
「そう」
「馬鹿じゃん」
「違うだろそこ」
俺は馬鹿だから、この高校に入りたかったのは太陽と成瀬と同じ高校に通いたかったから。
それを告げると岬は馬鹿にするが、彼女の顔から笑みがこぼれる。
「学年イチの秀才がまさかこんなお子様とはね」
「うるせえな。どうせ俺はお子様だよ」
本当の俺の学力はとても低い。
岬の方が実力は間違い無く上だ。
未来ノートの力で無理して作新高校に進学してしまった。
太陽と成瀬を追って。
「あんたに家まで送られてもちょっとね」
「最高のボディーガードだろ?俺が刺されてる間にお前だけ逃げろ」
「じゃあそうする」
「そうするのかよ」
くだらない話をしていると、岬の家のマンションまでたどり着く。
「サンキュー岬。今日スマホ、助かった」
「うん……えっと」
「どうした?」
「いや、やっぱイイや」
「いいのかよ。じゃあな」
「じゃあね」
マンション1階エントランス。
オートロックのドアが開き、岬はエレベーターに向かって歩いていく。
オートロックのドアが閉まる。
俺も家に帰る事にする。
ふいに俺のスマホが振動する。
電話?
いや、ラインらしい。
当然岬から。
なんだろあいつ。
―――『ありがと、送ってくれて』―――
もう姿が見えない岬からのライン。
普段のあいつが絶対に言いそうにない言葉。
相手の気持ちをいとも簡単に表示するスマートフォン。
なんでこんなにドキドキする?
俺は未来ノートに続いて、身に余る物を手に入れてしまったのかも知れない。
マンションの外に出る。
陽も高く、中央通りを行き交う車、歩道には歩いている人も見える。
特に不審な人影はない。
岬が嘘を付くとも思えない。
しばらくあいつの事は気にかけてやりたい。
そう感じながら、家へと歩を進める。




