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30.「結果がすべて」

「じゃあね高木、さっきは悪かったわね」

「その常に俺が成瀬をイジメてる先入観やめてもらえませんか姉さん?」

「帰ってきたら結衣ちゃん泣いてるからビックリするでしょ普通。それとお前、今度来る時はもう少しマシな格好で家に来なさい」

「それは大変失礼しました先輩」



 食事を終え、成瀬の家の玄関の扉を開ける。

 日は暮れ、空には夜空の星が輝き始める。

 高校生男子必殺の手作りカレーをご馳走になり、俺は心も体も充実感に浸っていた。



「今日はご馳走様でした姉さん」

「結衣ちゃんも手伝ったんだよ」

「ありがとうな成瀬」

「うん」

「じゃあ後はお2人でごゆっくり」

「ちょっとお姉ちゃん」



 一度玄関の扉が閉まる。

 扉の外で成瀬と2人。


 さっきもリビングで2人きりになり、言いたい事を言い合ってしまった。

 落ち着いてから自分の言った事の恥ずかしさを感じ始める。


 成瀬も恥ずかしさを隠すような、どこかぎこちない笑顔を見せる。



「ねえ高木君」

「おう」

「……さっきは本当に嬉しかったの。S1目指して、私と遊んでくれるって言ってくれた事」

「お、おう」

「私も高木君がS1上がれるように応援したいから……」



 視線を逸らして話していた成瀬が、俺と視線を合わせる。



「お弁当、やっぱり作る」

「昨日のあの話?良いってそれ本当」

「体の事も心配だし、私の分も作ってるから2人分作るの大変じゃないよ」

「マジか……」


 いつもここぞという時に成瀬が作ってきてくれたクッキーを思い出す。

 あのクッキーが、今度はお弁当になって俺の心と空腹を満たしてくれるかも知れない。

 断りたくない気持ちが勝る。

 正直嬉しかった。


 言いたい事を言ってスッキリしたのか、今の成瀬は自己主張する。

 これは断っても押し問答が続きそうな予感がする。



「もう決めたから」

「分かった、頼むよ。俺がS1上がれるまで成瀬も勉強頑張れよ」

「うん。じゃあまた明日ね」

「おう、じゃあな成瀬。今日はサンキュー」



 俺と成瀬の関係はこれからも続いていく。

 今日はここに来て良かったと感じる。


 未来ノートの使い方。

 俺の新しい目標も出来た。


 目的が不純なのは百も承知だが、俺は成瀬のいるS1クラスを目指したい。

 目の前に笑顔でそれを応援してくれる成瀬を見て、その気持ちを強く持つ事が出来た。


 俺は結局まだ心がお子様なのだろう。

 それでも俺は満足していた。


 お腹一杯になれた満腹感と共に、彼女の笑顔で俺の心はとても満たされた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 日曜日、バイト先のコンビニ。

 今日も早朝からバイトのシフトに入る。

 8時になると2つあるレジの隣に、俺のクラスメイトが入ってくる。



(ピコピコ~)



「いらっしゃいませ~」

「笑顔が素敵だな岬」

「死ね」



 今日も平常運転の岬れな。

 ハリネズミのトゲが今日もザクザクと俺の心につき刺さる。



「昨日は彼女と楽しめた?」

「まあな」

「何それキモ」

 


 岬の嫌味のような話も俺は爽やかに返す。

 俺と成瀬はそんな関係ではない。

 じゃあ何なのかと言われれば答えに困るが、ちょっと泣き虫の幼馴染である事は間違いない。


 なんだか昨日から新しい目標を得て、少しだけど気持ちが吹っ切れたような気がする。

 未来ノートを使用する罪悪感は常にある。

 それ自体が吹っ切れる事は、このノートを使い続ける限り永遠に訪れる事は無いだろう。


 俺が吹っ切れたのは俺自身が何をやりたいか見えた事。

 昨日の成瀬の別れ際の笑顔に、俺はその答えを見つけた気がする。


 未来ノートの5ページ目以降。

 印字された来月5月で実際に出ると思われる中間テストの問題。


 明日月曜日から俺は学校の図書館へ行って、この大量の問題の模範解答作りに着手する。

 方向性と調べ方、これまでのやり方だけでは答えに辿り着けないものもいくつか見られた。


 それでも挑戦する価値はある。

 さらに先には6月にある期末テストだって控えている。

 そこをさらに高得点でクリアできれば、晴れてS1クラスへの切符を手にする事だってできる。



「なあ岬。来月中間テストだな」

「知ってる」

「俺は次S1目指す」

「はっ?出たビックマウス」

「悪いけど9月には別々のクラスになるかも知れない」

「降格の間違いでしょ?どっからその自信出るのか意味不明」



 俺は何様だと自分自身に激しくツッコム。

 笑いたければ笑ってくれて構わない。



「彼女のいるクラスに上がりたいだけでしょ?」

「そうだぞ、よく分かったな」

「馬鹿じゃん」



 別に彼女でも何でもないが、本当にS1に上がれた時の彼女の笑顔を見てみたい。

 ガキの俺は本心でそう思う。


 人が目標を持つ時は、動機は意外に単純な事が多いのかも知れない。



(ぴこぴこ~)



「ありがとうございました~」

「ヤル気出しちゃって、ガキかよあんたは」

「そうだな」

「馬鹿じゃん」



 今日のハリネズミは大反抗期。

 トゲが終始立ちっぱなし。


 今日の昼2時からは太陽が野球の試合で投げる日。

 もうすぐバイトが終わる時間を迎える。


 今日は朝から快晴。

 1年生にして1軍に抜擢された太陽の晴れ舞台。


 甲子園がある夏に向けた大事な練習試合。

 俺のいるS2クラスの競争と同じで、太陽も1軍レギュラーというふるいにかけられる厳しい世界。


 バイトが終わり、お店を後にしようとする。

 バイト先のコンビニから直行して試合のある球場へバスで向かう事にする。


 こんなバス代までケチるつもりは無い。

 売れ残りのからあげ君を持って、中央通りを通るバス停でバスを待つのだが……。



「おい岬」

「キモイから話かけんな」

「なぜお前がここでバスを待つ?お前の家あっちだろ?」

「どうでも良いっしょ」



 球場行きのバスが到着する。

 岬も同じバスに乗るが、離れて別々の場所に座る。


 なんであいつがこのバスに乗る?

 このバスは終点が大学病院行きのバス。


 途中にはショッピングモールもあるし、別に球場へ行くとは限らない。


 バス停をいくつか過ぎる。


 ショッピングモールも過ぎて、次のバス停は球場前。



(ピンポ~ン次止まります)



 バスがバス停に停車すると、岬も席を立ちバスを降りようとする。


 結局岬が降りたのも、俺と同じ球場前のバス停だった。



「ちょっと待てお前。何でここで降りる?」

「あんたと同じ」

「同じ?選手の中に彼氏がいるのか?」

「死ねし」



 そう捨てセリフを吐いて、岬は1人球場の中へと消えて行った。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





(ウ~~~~~~~~~~)

(わーーー!!)



 良かった。

 何とか試合開始の時間に間に合った。

 ウ~~という試合開始のサイレンが鳴り響き、それと同時に球場から大歓声が上がる。


 時刻は昼の14時。

 マウンドにはピッチャーの太陽の姿があった。


 今日の相手は甲子園の地区予選でも当たる可能性がある強豪校。

 たしか去年の夏は地区予選で作新高校敗退したって言ってたな。

 今日の相手は去年負けてる因縁の高校。

 

 その大事な試合を任された1年生ルーキー、朝日太陽のデビュー戦。

 俺で無くても注目の1戦と言ったところか。


 スコアボードに目をやる。

 投げるピッチャーも当然打席に立つ。


 太陽の打順は一番後ろの9番。

 作新高校の4番に目がとまる……岬?クラスメイトと同じ苗字……偶然か。


 ホームベースのネット裏に上がった俺。

 マウンドに立つ太陽の顔がよく見える。


 左手、3塁側の内野席。

 作新高校のブラスバンド部、チアリーディング部、応援団が練習試合にも関わらず日曜の試合に大挙して駆けつける。

 さすが甲子園常連の名門校。


 その3塁側内野席に、試合に出られない下級生たちを中心とする選手の姿。

 その下級生たちに交じり、女子マネージャーたちの姿。


 制服姿で遠くからでも目立つ。

 姉の成瀬真弓と並んで座る成瀬の姿も見えた。


 今日は私服で来ている俺は、このままキャッチャー後ろのネット裏から試合を見守る事にした。



(カキーン!)

(わーーー!!)



 うわっ!?打たれた!

 セカンド正面、一塁に投げてアウト……ヤバい俺まで冷や冷やする。


 金曜日打たれてしまえと冗談では言ったが、緊迫した試合ともなれば話は別。

 1回の表、太陽のナイスピッチングで3者凡退。

 俺もホッと胸をなでおろし、1回裏の作新高校の攻撃に移る。


 スコアボードに表示される球速。

 太陽の投げる球は140キロを超えている。

 大学進学してスポーツ栄養学を学ぶとか言ってた太陽。

 プロ行けるんじゃないか?と期待をさせるエースの働き。


 1軍に抜擢された実力は本物。

 俺の親友がこんな舞台に立っている事を俺自身も誇らしく思う。

 


(カキーン!)

(わーーー!!)



 1回の裏、作新高校の攻撃。

 作新高校4番の岬という選手がタイムリーヒットで1点先制。

 3塁側のアルプススタンドも大歓声を上げている。


 俺の座る席から前方下に見える席で、ひと際高い声の歓声を上げる茶髪の女子に目が止まる。

 あれはさっきバイト先から同じ球場前のバス停で降りた岬れな。


 あいつ、あんなところに座ってたのか。


 試合は進み、点がお互いのチーム入らないまま一進一退の攻防が続く。





 このまま1点を守り切れば、作新高校が勝つ9回表。


 マウンドには9回表も投げ続ける太陽の姿があった。


 ここで作新高校の守備が乱れる。





 1塁を守る4番の岬選手がエラーをしたのをきっかけに、ノーアウト満塁のピンチを迎える。


 絶対絶命の大ピンチ。


 もう俺も気が気ではない。


 3塁側の作新高校の生徒たちも、全員がそう思っているはず。


 頼む太陽、抑えてくれ……。

 







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








 結局試合は5-1で作新高校が負けた。


 投手の太陽は9回表。


 0点に抑えれば勝てた試合で滅多打ちに合い大量失点。


 1年生の太陽が甲子園出場メンバーに向けてアピールできる最大の見せ場。


 スポーツは俺の専門外だが、太陽はよく投げたと俺は思う。


 ただテストと同じ、結果がすべての世界。


 結果が出なければ1軍を外されるかも知れない。


 太陽はまさに今、その恐怖に襲われているはず。


 点数で良い点を取れない恐怖を考え続けていた俺は、太陽の恐れているであろう恐怖を想い絶句する。


 勝つか負けるか。 


 その恐ろしい現実を目の前で目撃してしまった。




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