第85話 パラパラ屋
パラパラ屋は迫真の演技から、今度は『僕』なる者を呼び出し始めた。同じ演目をずーっとやられていて飽きてきたところだったから、ちょうどいい。
十分おっさんの一人芝居を堪能したので、そろそろ片を付けようかと、最近出番のなかったダガーナイフ『スティンガー(注1)』を脇腹辺りに差した鞘から引き抜いた。
おっさんも、俺の動きに気づいたのか、子分を呼ぶのはいったんやめて、何やら口の中でもごもご始めた。呪文か何かを唱え始めたのだろう。どんな攻撃が来るのか興味があるが、こっちの攻撃を待ってやるつもりはない。
わずかばかり放物線を描いたスティンガーがまだ呪文を詠唱中のおっさんの喉元に突き刺さった。
そういえば、こいつはエクスキューショナーで頭をカチ割っても大丈夫なヤツだったからスティンガーがいわゆる急所に刺さったとしても痛くも痒くもないだろう。
その証拠におっさんは喉元に鍔まで突き刺さったスティンガーを自分で引き抜いて床に投げ捨ててしまった。大事に扱ってくれよ。
その後やっと呪文が完成したのか、俺の方に向かっておっさんの体から紫電がほとばしり、俺のナイトストーカーに直撃した。
飛び散る火花が眩しい。以前俺がオブシディアン・スケルトンだったころは、こういった電撃を受けると絶縁体でできた体の表面に刺激がわずかに走ってずいぶん健康的だった。いまは形式上受肉してしまっているので絶縁体の体ではない。そのため、体の表層部のいたるところがピクピク震えて、俺の大事で微妙な部位まで振動してしまう。
こいつの狙いはこれだったのか!
そういったおっさんおっさんした煩悩がいまだに残っているようでは、いい怪物にはなれんぞ! 怪物はな、煩悩ではなく本能で生きなければいけないのだ。こいつの本能がまさか煩悩ってことはないよな?
数回俺に紫電が直撃したが、見た目だけは何ともない俺を見て、おっさんは紫電攻撃を止めてしまった。
次におっさんは懐から手鏡を取り出した。
髪の毛が乱れたのか? こんなところで手鏡を取り出して自分の顔に何かついていないか確認したいのか? 確かに頭頂部から顎を突き抜けて首のあたりまでまっすぐな赤線が入っているが、なかなかのアクセントできまっていると俺は思うがな。
バトル中自分の顔が気になるようなナルシストなのかと思ったが、そうではなく、その手鏡を俺に向けてきた。
何?
俺に鏡を見て髪の乱れでも直せというのか? それとも、自分の顔を見ろとでも言ってるのか? いずれにせよ人のことなどどうでもいいだろ!
一度鏡を俺に向けたおっさんは、ニヤリと笑い、
「これでお前の魂をこの縛魂鏡ソウルバインダーに縛り付けた。おまえの魂を吸収することなく破壊してしまうのは惜しいが止むを得ん。ソウルバインダーとともに砕け散れ!」
そう言っておっさんは手にした手鏡を床にたたきつけた。
パリーン。
鏡の割れる音が部屋の中に響いた。
うん?
何が起こるか期待していたのだが何も起こらない。もったいないなー。まだ使える鏡を自分から壊すなよ。
おっさん自身、当惑したような顔をして俺の方を見ている。俺は後ろにいる二人が気になって振り返ったら、また二人並んで体育座りして、木の実の入った袋を片手に持って食べ始めていた。
『おかしい。あいつはまだ生きている。大枚はたいてオークションで購入したアイテムが不良品だったのか? 許せん!』
などと、おっさんがブツブツ言っている。
「えーと、鏡は割れたがその後が続かないぞ? 何が起こる予定だったんだ?」
「うるさい! 少し黙ってろ!」
逆切れしたおっさんに怒られてしまった。
カリッ。ポリッ。
後ろの二人が木の実をかじっている音が聞こえる。広い部屋なのに良く音が響く。フェアもアズランの肩の上で寛いでいる。
そんな中で、
『我は求める、悪魔サティアス・レーヴァ出でよ!』
おっさんがパラパラとは違うポーズを決めた。見た目は変身ヒーローの変身ポーズだ。
何か召喚したのか?
この前の魔術師ギルドにいた召喚術師はグレーターデーモンを召喚したが、そいつに固有名は無かった。トルシェの召喚した鳥神にも、スケルトンちゃんにも固有名は無かった。
今度は悪魔で名前付きか。
これは面白そうだ。字面から言えばただの悪魔よりグレーターデーモンの方が強そうだが、名前付きの悪魔となると一味違うのかもしれない。グレーターデーモンはタダのモンスター枠のやられ役だったが、今度の名前付きはきっとセリフ付きのNPCに違いない。派手なパフォーマンスを期待してもいいんだよな?
注1:スティンガー
ダガーナイフ。刺すことで、防御力を無視して貫通する。命を奪うことにより強化される。同時に、命を奪うことにより使用者の気力・体力を回復させるヴァンピックウェポン。自己修復する。




