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第37話 屯所にて3


 恐ろし気な鎧を着た怪人おれの剣の一振りで、二人の仲間の首が吹っ飛んだのを見た連中は、蜘蛛くもの子を散らすように逃げ散っていった。


 正面の出入り口はトルシェがふさいでいるし裏口はアズランが待っているので、どのみち誰も逃げることはできないはずだ。


 屯所の正面辺りからはもう悲鳴などは聞こえなくなってしまったので、トルシェによる処理が終わったのだろう。


 いろいろ聞こえてはいたが、屯所前の通りに人体の部品がばら撒かれるようなことはないだろう。とはいえ、相手はトルシェだ。どうなっているか目視確認は必要だな。ナイトストーカーをもう一度収納して、普段着姿になり屯所の外に出ると、出入り口前に三段ほどある石の階段にトルシェが座っていた。


「ダークンさん、活きのいいのがいませんでした」


 魚屋さんじゃないんだから活きが良かろうが悪かろうがどうでもいいだろうに。とはいうものの、仲間意識が生まれるわけではないが骨のあるヤツ(・・・・・・)相対あいたいしたいものではあるな。


 トルシェの足元や通りには砕けたすみが散らばっていた。炭の中に短剣やらベルトのバックルやらの金物が見える。トルシェの『黒光のムチ(注1)』で炭化してしまったかつての警邏の連中の成れの果てだ。炭の中に鼠色の()の入った骨がのぞいている。


「短剣は拾おうかなと思ってよくみたら安物だったので放っておきました」



 道行く人が、人の形をある程度残した炭の塊を遠目で見ている。


「炭に人の形が残っているから、ちょっと目立つな。二人で踏んづけて潰しておこう」


 全部で八体分ほどあった炭の塊を二人できれいに潰しておいた。これで完璧だ。


「これくらい潰しておけば、雨でも降ればどっかに流れるだろ」


 骨の成分は確かリン酸カルシウム。炭の成分は当然炭素だが、いろいろなものが混ざってミネラル豊富なはず。肥料に最適だろう。雨が降って流れていった先の木々や雑草が大繁殖するかもしれない。どうせなら畑に流れていってもらいたいものだ。



「中に入って、目ぼしいものを拾ってきまーす」


 トルシェが屯所の中に駆けて行った。俺も後から屯所の中に入りアズランのいそうな裏口をさがして奥の方に歩いて行った。


「アズラーン!」


「ここでーす」



 やってきた裏口前には首を切り飛ばされた死体が足の踏み場もないほど転がって、床は血の海だった。その死体の山の上に突っ立ているアズランは不思議と血で汚れていない。


「とりあえず、ここに逃げてきた連中で制服を着ていたのは全員始末しておきました。あと、牢屋に入っていた数人がここに来たので逃がしてやりました」


「ご苦労さん。

 血生臭いから、コロ、ここをきれいに片づけてくれ」


 腰に巻き付いているコロから触手が伸びて、死体やら血やらをすっかり吸収した。




「コロ、ありがと。きれいになった。そろそろ引き上げるか。

 おーい、トルシェ、そろそろ引き上げよう」


『はーい』


「アズラン、宿屋はとってくれたんだろ?」


「はい。マイルズ商会の近くの宿です」


「ふーん。どこでもいいけどな」


 屯所の中の目ぼしいものを拾い歩いていたトルシェがこっちにやってきた。あまり時間がかからなかったから大したものはなかったのだろう。


「見た目通りの警邏の屯所なので目ぼしいものはありませんでした」


「書類なんか役に立つかもだけど、一々調べたくはないからな」


「そうそう、マイルズ商会の会長?の部屋に、権利書みたいなものがあったんでいただいておきました」


「ほう」


「あそこの土地の権利書や、商会の免許といったものです」


「ほほう。いいじゃないか。あの土地は俺たちのものってことか」


「そうじゃないですか。適当な時に行って店の中に誰かいたら追い出してやりましょう。あそこの裏手は倉庫がたくさんあって相当広い土地だったから、大神殿は無理かもしれませんが、当面の布教拠点にいいかもしれませんね」


「俺たちみたいな素人じゃそういったところは難しそうだから、信者2号(リスト)にやらせよう」


「それがいいですね。そうしたら、またリスト商会に先にいきますか?」


「そうしよう。

 アズラン、ここからの道はわかるか?」


「問題ありません」



 アズランの道案内でリスト商会にたどり着いた。屯所から歩いて五分ほどの距離だった。



「おーい、信者2号(リスト)はいるかー?」


 俺が建物の前で信者に業を呼んだら、信者1号から3号までバタバタと店の前に走って出てきた。非常に気持ちのよい対応だ。


「話があるから、中に入らせてもらうとするか」



 またあの会議室だか応接室だかに入って、どっかり腰を下ろす。


 俺の右にはトルシェ、左にはアズラン、正面に信者2号だ。1号と3号は俺に会釈して奥に引っ込んだ。


「それでだ、マイルズ商会に行ってきて目ぼしいものをいただいてきた。

 トルシェ」


「はい。

 これが、あそこの土地の権利書、これが、営業免許かな、そしてこの紙の束が借金の証文みたい」


「おお、なんと。土地の権利書があればあの土地はわが主のものになります。営業免許がなければ建前上は営業できませんが、普通は誰も営業許可証を確認しませんから営業を続けることは可能です。しかし、役人がこのことを知れば営業停止させられます」


「つまり告発すればいいわけか?」


「そういうことですが、告発先は屯所などではなく直接商務部でなければ揉み消される可能性があります」


「そういえば、近くに屯所があるだろ?」


「はい。このあたり一帯が管轄の屯所があります」


「さっき潰してきた」


「潰したとは?」


「みんなどこか知らない世界に旅立った? みたいな」


「そ、そうでございますか」


 暑くもないのに、そこで、汗を拭くなよ。


「あと、証文の方はおまえの方で信者集めにでも使ってくれ」


「は、はい。かしこまりました」



「それでな、土地の件だが、俺のものになるよう、そこら辺の手続きをやってくれるか?」


「お任せください。手続きには一週間ほどかかると思います」


「それじゃあ頼んだ。よろしくな。それと、俺たちに用があれば、マイルズ商会の隣の宿屋に部屋をとってるから。

 トルシェのなまえで取ったのか?」


「はい、わたしの名前で四人部屋をとっておきました」


「ありがと。

 そういうわけだ。それじゃあな」


 そういって、俺たちはリスト商会を後にした。





注1:黒光のムチ

トルシェの魔法。二次元に見える黒い鞭状のなにか。鞭が触れた対象の水分を蒸発させ炭化させる。最初は『光のムチ』といって白い光の塊だったが、闇の眷属たるもの「黒」をベースにしないとマズいので黒く見えるようひと手間加えて『黒光のムチ』とした。


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