第23話 キノコ栽培
扉を蹴破ったら、金属製の扉の片割れが外れて吹っ飛んでいき、近くまで来ていた『闇の使徒』の構成員に激突してしまったようだ。
血を流して伸びてしまっていたこの二人が何しに来たのか分からないが、通行人のエクストラ役のくせに、通りがかることもできずに退場してしまった。まさにモブ以下の存在である。
そのモブ以下の二人の前には俺の蹴り飛ばした扉の片割れ。モブたちの後ろには荷車が一台。
伸びてしまっているモブ二人が邪魔なので、通路の脇の方に蹴っ飛ばしてやった。その先の荷車をみると、荷台の上には厚手の布がかぶせてあった。その布をはがすと、下から布袋が六袋ほど現れた。
六袋の袋の内一番上に積んであった一袋を持ち上げたところやけに軽い。袋を閉じていた紐をほどいて中をみたところ、袋の中には白っぽいキノコがぎっしり入っていた。ほんのり甘い匂いはこのきのこから出ていたようだ。
「アズラン、この奥でキノコを栽培しているみたいだな」
「そうみたいですね。暗くてじめじめしたところがキノコには良さそうだから、ここみたいな地面の下はちょうどいいのかな?」
「だろうな。どうもこのキノコは『パルマの白い粉』の原料みたいだから、根こそぎにしてやるぞ」
「ダークンさん、せっかくだから、根こそぎにするんじゃなくて、こいつらの『パルマの白い粉』の利権を乗っ取れないかな?」
「乗っ取ってどうする? それにどうやって乗っ取る?」
「売れば相当なお金になりそうでしょ? 乗っ取るのは、ここの上の連中の目ぼしいところを殺して残りは殺さずに手なずけて働かせればいいだけでしょ」
「確かにトルシェのいう通りそれで何とかなりそうではあるな。だが人の不幸を金に換えるわけにはいかんだろ。それに俺たちには大神殿を建てる目標がある。そんな汚れた金は使えないだろうが」
「お金には色なんてついてないのに。ダークンさんはスケルトンじゃなくなったのにほんとに硬いな」
自分じゃそうとう柔らかくなったって思っているんだけどな。
「この先を確認するぞ」
いつものようにアズラン先頭の三角隊形で通路を進んでいったら、正面にまた扉があった。今回は忘れず、
「蹴破るぞー」
ちゃんと周りに聞こえるように大きな声で教えてやってから、扉を蹴っ飛ばしてやった。
ガーン! ガシャ、ガシャン。
吹っ飛んだ扉がえらい音を立てて何かにぶつかったようだ。
扉のなくなった先に進むとそこもかなり広い部屋で、薄明りの中、長さが20メートルほどの棚が部屋中に何列も並んでいた。棚の幅は1メートルくらいでその真ん中50センチのところで前後が板で仕切られ、20メートルある横方向は2メートルおきぐらいで仕切られている。その棚が上下4段あるので、2×4×10で一つの棚には80個のほどのスペースがあることになる。その棚の一つに俺の蹴っ飛ばした扉がぶつかったようで足が折れていていた。
棚の上の仕切りで区切られたスペースには白いキノコがびっしりと生えた横長の塊り置いてある。
「ずいぶんたくさんキノコが生えてるな。これだけあると胞子が飛んでこっちまでキノコが生えてきそうだ」
「ダークンさん。これを見てください」
アズランが俺を呼ぶので何事かと思って行ってみると、棚の上の塊を指さしている。
そこには、キノコを削ぎ落した、菌床が見えていた。予想はしていたが、そこには黒く変色した体からキノコの柄の下の辺り、石づき部分だけがびっしりくっついた人の死体の上半身がのぞいていた。
「ここの棚に死体を並べて菌床にしているってことか。ここに連れ込まれた廃人たちは殺されて、菌床にされるってことだな」
「ダークンさん、この死体には、心臓がありません」
よく見るとアズランが言うように黒くなった死体の胸の辺りに大穴が空いて空洞になっていた。相手はいわゆるカルトだ。ありがちな展開だが、心臓を儀式か何かに使っていそうだ。
棚はどこも満杯で、空の棚はほとんど見当たらなかったから、この部屋には数百の菌床があるのだろう。
不思議なのは、これだけ死体があるにもかかわらず、部屋の中には死臭が漂っているわけではなく、ただ、わずかに甘い香りが漂っているだけだった。
ここで焼き払ってやりたかったが、地下で火災を起こしてしまうと、酸素不足で、俺はともかくトルシェやアズランがタダで済むとは思えないので、控えることにした。地上に出てから、『神の怒り』で一切合切焼き払おう。
「ここはもういいから引き返そう」
「はーい」「はい」
ここは、連中の工場のような気がする。原材料の廃人を街中から仕入れてきて、キノコを栽培。そのキノコを乾燥するのか何かして、製品の『パルマの白い粉』を作る。この世界では機械なんてないので人力で加工するのだろうから、かなりの人間がここにいる可能性がある。




