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第120話 殲滅。そしてヤルサの知事公館にて


 俺の発動した『神の怒り、電撃版、拡散波動モード』。稲妻と落雷の数がどんどん増えていく。


 とうとう空は稲妻で埋め尽くされ、それが無数の落雷になって敵兵ごと戦場を破壊していく。


 もう、逃げまどう兵士たちの悲鳴も泣き声も聞こえなくなった。


 最後の落雷の音が止み、辺りが静寂に包まれた。


 終わったようだ。耳の奥がジーンとしてしばらく音が聞こえにくくなってしまった。当たりの静寂もこのせいかもしれない。次回はイヤーマフ型の耳栓を用意した方が良さそうだ。



 闇が徐々に薄れ、頭上にはまた青空が戻ってきた。ただ地面には無数の黒い塊が転がっている。炭化してくすぶる敵兵の死体だ。形が残っているもの、粉々に砕けたものいろいろだ。戦場だったそこには嫌な臭いが立ち込めている。ここで生きて立っているのは、俺とタートル号だけだ。


 タートル号が一人立つ俺の近くまでやってきたので、甲羅に飛び乗りハッチバックを開けて中に入った。不思議なことにタートル号の中は外の嫌な臭いはしなかった。トルシェが通気にも気を配っているのだろう。



「ダークンさん、今のは派手でよかったですねー」


「カッコよかったー」


 二人にも大好評だったようで何より。


「それじゃあ、街の方に行ってみるか」


「はーい」



 タートル号がヤルサの城壁の真ん中にある城門の前まで進んだ。鉄の鋲で補強された木製の巨大な城門は開けるも閉めるも簡単にできそうにないほど、ボロボロかつガタガタに壊れていた。


「トルシェ、どうせ半壊した城門だ。完全に壊してかまわないから、タートル号で城塞の中まで入ってしまおう」


「はーい」


 バキバキとエラい音を立てタートル号が斜めになったヤルサの街の城門を踏みつぶして街の中に入っていった。


 門の中に入るとそこはちょっとした広場で、タートル号をクロスボウを構えた兵隊たちが遠巻きに取り囲んだ。


 ここの連中も、先ほどまでのタートル号の動きは見ていたはずで、敵ではないと分かっていると思うが、やはり容赦なく敵兵を踏みつぶした首なしの巨大カメは怖いのだろう。よく考えたら、タートル号は巨大カメだが、機能はメカそのもの。巨大メカカメだ。


「とりあえず、外に出てみるか」


「はーい」「はい」



 ハッチバックから巨大メカカメの甲羅の上に登って物理的に上から目線でクロスボウを構えた兵隊たちを見下ろす。俺の左右にはトルシェとアズランが立っている。


 目の前のクロスボウ隊は分かるが、思った以上に城塞内に兵隊の数が少ないようだ。振り返って城壁を眺めてみても数えるほどの兵隊しかいない。城塞というくらいだからせめて千人は兵隊がいるだろうと思っていたが、敵に面していた城門近くでさえ、百人もいない。


 ちょっと、考えさせられるな。


 俺がメカカメタートル号の甲羅の上で辺りを見回していたら、クロスボウを構えた兵隊たちの中で、一人だけ剣を構えていたおっさんが、


「構えを解け!」


 おっさんのその言葉で、兵隊たちが俺たちに向けていたクロスボウを下ろした。


 いい判断だ。まかり間違えれば、後ろに控えるトルシェが切れるからな。


 おっさんが続けて俺たちに向かって、


「私は守備隊長のマイヤーと申します。よろしければ、そこから降りてきていただけませんか?」


 下手に出られると、根が優しい性格なので、華麗におっさんの前に跳び下りてやった。ナイトストーカーを着けていたのでスカートが開かなくてよかったよ。


 俺に続いて、アズラン、トルシェも跳び下りて俺の後ろの左右に立っている。二人はいつもスラックスを履いているので、そういうことは起こらない。ただスカートを履いていたとしても、野人トルシェがそんなことを気にすることはないだろう。



「あのう、お三方は?」


「俺たちが外にいたハイデン軍を皆殺しにしてやったところは見てたんだろ?」


「はい」


「だったら、ただものじゃないくらいはわかるだろ?」


「それはもちろんです。さぞ高名な皆さまと存じますが、よろしければお名前をお聞かせいただけませんでしょうか?」


 やけに下手に出るな。良かろう。


「一度しか言わぬから良く聞けよ。我の名は『常闇の女神』。後ろに控えているのはわが眷属、トルシェとアズランだ」


 おっと、後光スイッチを入れるのを忘れてしまった。さっきの『神の怒り』を見てたはずだし、まあいいか。


「女神さま。私は女神さまの前で立っていてよろしいのでしょうか?」


「許す」


「ははー」


 こいつ、女神の扱いに慣れてるな。不快ではないぞ。


「俺たちは、お前たちだけではハイデン軍にかなわないだろうと思ってわざわざ都から出張でばってきてやったのだ。ありがたく思え」


「それはもう」


「だったら、このヤルサの街で一男偉いヤツのところに案内してもらおうか? お前がこの街で一番偉いわけじゃないんだろ?」


「申し訳ありません。私は守備隊長をいたしておりますマイヤーと申します。この街の責任者として知事が公館におります」


「わかった。本当はその知事とやらが俺たちを真っ先に迎えるのが当然だと思うが、俺は心が広いから大目に見てやろう」


「ありがとうございます。それでは公館までご案内しますので、私の後についていらして下さい。

 守備隊員は、避難している街の者に危機は去ったと知らせてこい。急げ」


 守備隊長の命令で、そこらにいた兵隊たちが四方に駆けだしていった。兵隊たちに士気はちゃんとあるようだ。


 守備隊長のおっさんの後について門の先の通りを進んでいく。タートル号は広場にそのままだ。




 門の先の広場はまっすぐ大通りにつながっていて、大通りをそのまままっすくいけばこの街の東門に続いているのだろう。


 しばらく通りを歩いていたら、通りに面して他の建物と比べ明らかに重厚な三階建ての建物があった。どうやらそこがこの城塞の街ヤルサの公館らしい。


「この建物が公館です」


 立派な入り口に守備隊長のおっさんが入っていったので、その後について俺たちもその建物の中に入っていく。


 出入り口の先はいつものようにホールになっていて、ホールの正面に階段があった。


 どこかに避難しているのか公館の中にはあまり人はいなかった。一般職員は避難するわな。


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