0428
「年末年始には寒波が国内を襲います。なるべく外出は控えていただくよう...。」
人工的な暖かさに包まれる空間の中、仕事着から着替えながら、テレビの音だけを感じ取っていた。
もうすぐ今年が終わる。一年なんてあっという間に過ぎるな、と改めて実感する。振り返った時、いくつ思い出が溢れてくるだろう。
今日の朝、仕事に行く前に飲もうと思って注いだコーヒーはもう冷め切っている。それはそうだ。12時間もの間、この空間で独りぼっちにされていたのだ。コーヒーだって寂しくなったり、泣きたくなったりするに違いない。なんだか今の自分に似ている気がして、その寂しさに寄り添うかのように、冷たいコーヒーを流し込んだ。
街はもうお休みモード一色だった。買い物に行けば新春セールの予告。テレビをつければ特番や人気ドラマの再放送。年末年始だって、お盆だって、シフト制の仕事には関係ない。固定されたサイクルの中で、淡々と仕事をして、淡々と休む日々だ。勿論、初めから分かっていたことだから、特段、気が滅入ることはない。
でも時々、視界がズレて酷い虚しさに襲われる瞬間がある。
大学卒業後、就職を機に、地元を離れた。正直、余裕だと思っていた。新しい環境にワクワク感すら覚えていた。でも、22年も同じ場所に居て、成長をともにしてきたのだ。地元のありがたさを痛感して止まない。当たり前だったことができないことが、こんなにもやるせないものなのかと、毎晩、ベランダで煙草を吸いながら考える。空は繋がっているというけれど、この想いは届いているだろうか。
同時に、僕は誰かの想いを受け止められているのだろうか。
やるせないものへの消化対策の一つとして、最近よく転職サイトを閲覧している。自分のやりたいこととその背後にある大勢の世間体の集団を天秤にかけながら、悩む。給料は良いけど、残業が多かったり、仕事に魅力を感じなかったり、あーだこーだと、悩む。結局、前進はしない。想いだけが一人歩きして、戻ってくる。現実なんてそんなもんだ。
シャワーを浴びて、煙草を吸う。煙草は弱い自分に寄り添ってくれる気がして、増税で値上がりが続こうと止められずにいる。
溜まっている連絡を返そうと携帯を開く。それと同時に、会社の同期からパチンコで大負けしたという学生のようなくだらない連絡が入った。
「あほやなぁ。」
思わず、画面越しで笑ってしまう。高専卒で入社してきたから年は僕より二年年下で、生意気な奴だけど、年上の割に子供っぽい自分と仲良くしてくれる。可愛い奴だ。
ふと、別の選択をしたらどうなっていただろうと考える。もっと楽しい暮らし、虚しさを感じることのない生活が待っていたかもしれない。それはそれで凄く素敵だと思う。でも、彼と出会うことはなかっただろうし、こうやって彼からくだらない連絡が来ることもなかったはずだ。
全部が全部、無駄な日々になんてない。
ううん、全部が全部、無駄になんてしない。
先のことなんて分からない。年明けに寒波がくるかどうかすら僕らは分からないでいる。
だから、分かっていること、分かりたいと思うことを少しずつ、紡いで、育てていくしかないのだ。
「ご飯食べに行かん?」
そう彼に返信をして、車の鍵と厚手のコートを手に取った。