表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/40

マフか?マフマフか?


「いやもうほんとにごめんなさい」

「もういい、何度も謝るな」


サークル室の中。滝先輩が着替えを一式貸したら、王子さまは素直に濡れた服を脱ぎ始めた。もちろん人払いをしてからだ。けれど、私はそれに含まれないようだ。とても潔く服を脱いでいくので、私はちょっと焦って、慌てて後ろを向いた。


「ずぶ濡れになっちゃったね」

「本当だ。まったく、どうしてくれるんだ、これ」


着替えたぞ、というので振り向いたら、ヒゲ面にス◯ーピーのTシャツがミスマッチで、思わず吹きそうになった。そんでまた滝先輩のこの残念なセンス。どうにかならんかのう。


はい、と手渡した乾いたタオルで、王子さまは頭をガシガシと拭く。白い被り物の布『クゥトラ』を取った王子さま。


黒髪のくるくる、天然パーマだっとはねえ。毛先があちこちに、ぴょんぴょん跳ねており、男の人にしては長髪だ。そうは言っても、髪の先が肩に届くか届かないかくらいだけれど。


23歳かあ。やっぱ見えん。


「問題は、ヒゲだよね」

「なんの話だ」

「老けて見えるんだよ、そのヒゲ」

「これは、代々受け継がれているユイショあるヒゲで……」


私は、ぷっと小さく吹き出した。


「先祖代々のヒゲって⁉︎」

「なんだ、なにがおかしい」

「ううん、おかしくない」

「いや、おかしいのだろう。日本人は、あまりヒゲを生やさないのだな。あのサークルの男たちも、ヒゲがなかった」

「ああ、今井部長や滝先輩ね。確かに、日本人はヒゲに馴染みがないかも」

「俺の国の男はみな、ヒゲが男の威厳のショウチョウだ」

「そうなんだ」


拭いたタオルをそのまま頭に巻きつける。今度はインド人みたくなる。なにをしてもミスマッチで、さらに笑いそうになった。

濡れた王子さまの洋服を、ビニール袋に入れてあげると、その袋を受け取るやいなや、彼は問うた。


「あれは、なんという遊びなのだ?」

「あーーあれはねえ、水風船戦争って言って、まあびしょ濡れになる遊びだよ」

「いつもあんなことをしているのか? 他には? 他の遊びはあるのか?」

「いつもじゃないよ。あれは春から夏に向けての遊びね。びしょ濡れになるからそれで風邪引いちゃうと困るから、今日みたく暖かい日じゃないとね。あとはまあ、鬼ごっことか色オニ、氷オニ、大縄とかしっぽとりとかかなあ」

「なんだそれは。どういう遊びだ」


王子さまがえらい真面目な顔して覗き込んでくる。あれれ、瞳は、濃いグレーなんだなあ。その瞳が、なぜか見たことのない宝石のように思えて、私は少しだけ気後れして、目を逸らした。


「しっぽとりっていうのはねえ、2チームに分かれてやるんだけども、背中っていうかお尻ね、ズボンのベルト通しにハチマキをくっつけて、しっぽに見立てて、そんでそれを相手チームの人が奪い取るの。まあ一本でも多くしっぽを取ったチームが勝ちっていうね。単純明快な遊び」

「ふうん、当たり前といえば当たり前だが、それはより足が速い者が勝つんじゃないか?」

「実はそうでもないんだなあ。足が速いっていうより、動きが俊敏な人が勝つかな。それでも戦略を練れば、格下のチームでも格上に勝つことができるよ」

「ジャイアントキリングだな。遊びに頭を使うのか?」

「うちの子どもたちはそういうの、得意だからねえ」


私が自慢げに言うと、王子さまはずいっと近づいてきて、私の顔をじっと見つめてきた。


うわあうわあ、……濃い。


「それやりたい」

「えっっ⁉︎ しっぽとり⁇」


うむ、と頷く。その真剣な眼差し。うーん。濃い。


「女、やらせてくれ」


うわあ、この絵面っっ⁉︎


「わ、わかったわかったわかったから、ちょっ……と離れて」

「お、おお」


ようやく離れてくれた。


なんだか胸が、ドキドキする。これはあまりに王子さまの顔が濃いから、くど過ぎて胸焼けしてしまったかな。私は右手で、心臓の辺りをぎゅっと押さえた。


「王子さま、私は楓。殿倉楓っていうの」

「カエデ。俺はナーシルッディーン・マフムードだ」

「待て待て待て待って‼︎ えっと、ナルシー……フムド」

「ナーシルッディーン・マフムード」

「ナル、……マフ……まあいいや、マフ王子で」

「マフ、だと⁉︎」

「マフマフ王子とどっちがいい?」

「⁉︎」

「どっちがいい?」

「マフ……」

「オッケー。マフ王子、じゃあ今度の土曜日の午前、ここに集合ね」


私はありったけの笑顔で言った。すると、マフ王子も顔を真っ赤にして胸の辺りを押さえている。


あああ、それはもう、完全に私と一緒。いわゆる、胸焼けってやつなんだなあ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ