表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/40

タックルは得意なのです。


月曜日。


大学へ行こうとして、家を出る。正門まであと少しというところの交差点。見覚えのある黒塗りの車が横づけされている。

はああ? 月曜日からですか?

嫌な予感しかしなーーい。

車の窓が、すうっと開いて、予想通りのヒゲ面が横柄な態度で声をかけてきた。


「おい。おまえ。そこのチンクシャ」


無視だ。無視。ってか、チンクシャってなに⁉︎ 古うぅぅ。もうそれ、おじいちゃんの域じゃね。


「…………」


私が無視を決め込むと、バタンと車のドアを勢いよく開けて、中から飛び出してくる。


今日も今日とて白装束。服は『カンドゥーラ』、頭に被っている布は『クゥトラ』って言うんだもんね。あれから調べたんだもんね。これ覚えられるのに、王子さまのなっがーい名前が覚えられないって、どういうこと⁇

上から下まで白一色ね。その特徴的な服装は、アラブでは正装だということだ。


「おい、待て」


無視。

けれど、アラブの王子さまが食らいついてくる。


「待てって言ってるだろっ、このブスっっ」


ピキッ。

おっさんの癖に、言うことは子どもだな、おい。


「止まれ、止まれって!」


私は仕方なく足を止めた。なんでって? だって、こんな時に限って、交差点が赤っっ!

王子さまが横に並んでくる。


「こんなところで、ムカつくブサイクに会うなんてなあ。偶然にもほどがある」

「ブサイクって言う方が、ブサイクなんですうー」


は? 私も? 子どもて? そうですがなにか?


「はあ⁉︎ この俺がブサイクなわけないだろっっ。俺はザイードではなあ、モデル並みに人気のある王族イケメンナンバーワン……」


ここでやっと信号が青になり、私はさっさと横断歩道を歩き出した。我慢の限界がブチぎれる前で、良かった良かった。もうちょっとで信号を根元から引き抜いてやるところだった。


すると。

ヤツがついてくる。


私は引きちぎっては結び、結んでは引きちぎってを繰り返していた堪忍袋の緒を、キーーっとヒステリックに、ぶちいぃっと引きちぎった。龍虎の化身にでも化してしまいそうな自分を抑えきれなくなり、振り向きざまに噛みつくように言い放った。


「ねえっっ! どうしてついてくるんですかっっ!」

「どうしてって、別についていってるわけじゃない。俺の行き先もこっちだからだ」

「なに言ってんですか。私、今から学校に行くんです」

「俺もそうだ」

「ってか、日本語ペラッペラですね。なんでですか? 昔、日本に住んでたとか?」

「はあ⁉︎ そんなわけあるかっ。こんなどこもかしこもが狭い国なんかに、住めるわけないだろ。鷹狩りの鷹すらろくに放てんとはな」


鷹狩り? はあ⁇

私がなけなしの愛国心からギロッと睨みを効かせると、王子さまはちょっとだけ怯んで視線を逸らした。


「これはその、お、俺の乳母マリアとじいやが日本人だったから、自然と覚え……おいおまえ、ここから先は大学の敷地内だぞ」

「ふん知ってるよ、それぐらい。ここの大学に通ってんだから」


腕をぐいっと引っ張られ、その衝撃に私は足を止めた。


「いたっ、なになにっ⁉︎」

「おまえ、大学生なのか⁉︎」

「そうだよ、大学生だよっっ。ちょ腕、離してよっ」


腕は離され自由にされたが、引っ張られていた分、余韻があってすぐには動けなかった。だから、私は顔を突きつけて、言ってやったのだ。


「日本の頭脳、T大の大学生ですうぅー」

「う、ウソだろ? 中学生くらいかと思っていた……」

「はああ⁉︎ ちょっと待て、それは聞き捨てならんっ」

「とにかく、俺もここだ。T大の留学生だからな」

「え、そうなの?」

「ああ、おまえには想像もできんような金額の寄付もしているんだからな」


私はその事実に絶句してしまい、ポカンと口を開けるしかなかった。


「こんなおっさんでも、大学って入れるの⁉︎」


その一言で、王子さまの顔色が、さっと変わった。


「おっさんだと⁉︎ な、なんて失礼な女なんだ、おまえのような失礼な女、初めて見たぞ! この、クソ、……く、クソ、……」


「クソバカヤロウ?」

「そうそれ!」


指をビシッと差してくる。


「俺はまだ23歳だっっっっっ」


私は刺された指を、右手でそっとどけると、まじまじと王子さまの顔を見た。そして、ぷうっと吹き出してしまった。


「ふふふウソでしょ、冗談はやめてよう。あはははぁ」


笑いがこみ上げてきて止まらなくなり、腹を抱えて笑う。


「に、にじゅうさん? あはは笑わかすのもうヤメテ」


すると。真っ青だった王子さまの顔が、真っ赤に染まっていった。眉も目も釣り上がり、唇がふるふると微妙に震えている。


「おまえ! おまええええぇ!」


そして、右腕をばっと振り上げた。握りこぶしだ!

まじかっっ。


「ちょヤメテ」


こんなに太くて硬そうな腕を振り下ろされたら、頭がもげるっっ。

私は慌てて、王子の胸にラグビーばりのタックルをかました。


ぐほおっ、と王子の唸り声。


さらに胸に顔を埋めるようにして、私は手を伸ばした。両腕を背中に回して、回した腕を締め上げると、王子のさらなる唸り声が聞こえてきた。


「ううう、は、離せっっ! 離すのだっっ!」

「離すもんか、絶対離さないっっ。暴力反対! 反対なんだからねっっっ!」


腕をぐっと掴まれ引き離そうとする。私は離されてはなるまいと一層腕に力を込めた。


「イタイイタイ離せ。もうなにもしないから、離せえええ。このバカヂカラっっ!」


水の入った重いバケツを店内往復で運んだり、開店花を両脇に抱えたりする花屋の腕力ナメンナヨ! うちのおじいちゃんなんか、黒帯なんだからなっ。……関係ないけどっ!


「わかったわかった、わかったからもう勘弁してくれ」

「はあはあ、じゃあ今後一切、私に構わないでっ」


腕を離した瞬間、後ろへと飛び退いた。その勢いもあってか、毒の言葉を吐く。


「ふんだ、いい? 二度と私に近づかないでよっっ」

「クソっ」


王子さまが、胸を押さえて、痛みに顔をしかめている。


「じゃあねっ」


校舎に向かって全速力で走る。完全勝利とはいえ、私も苦く、顔をしかめていた。

なぜって?


「あああ、国際問題いぃぃぃあああああぁぁ」


走りながら叫んだ私の発狂する声が、構内に響いていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ