ハマりませんぜ、ダンナ。
「なんでそーーーーーなった⁇」
私が、自室でうおおおおっと頭を抱えていると、トントンとノックがされて、わらわらと人が入ってきた。
ここ。自室。
ザイードの。
ザイードの‼
パスポート⁇
もちろん持ってます‼︎
メジャーを肩にかけた仕立て屋風のおじさんが入ってきて、私の身体をくまなく測定していく。
バストを測った時の、この憐れみの表情。
見とれよ、結婚式までにBカップまで育ててやるからなっ‼︎
あああ、また来てしまった。ザイードに。宮殿に。
「違うっっ、ファーストクラスに目が眩んだんじゃないってば‼︎ だって飛行場行ったら自家用ジェットだったんだよ⁉︎ これ、断れるやつ⁇ いや、断固として断れないやつっっ‼︎」
『楓ちゃん、無事に大学に休学届け出せたんだろ?』
「うん、マフムード家の財産でね」
『マジか。色々すげーな。楓ちゃん、日本に帰ってきたと思ったら、すぐザイードに行っちまったからなあ。いやあ、アラブの石油王と本当に結婚すんだな』
「滝先輩、それ‼︎」
『ああ、すまんすまん。とにかくこっちはもう楓ちゃんの話題で持ちきりだぞ』
「『けやきのき』の子どもたち、元気にしてる?」
『ああ、元気も元気。くっそ生意気に元気』
「よかった。結婚式終わったら、いったん帰るから」
『帰れるんかよ。今だって、がんじがらめなんだろ?』
「そうなんだよ、がんじがらめなんだよおおお」
私は、スマホをタップし通話を切ると、側にいた女性に手渡した。
すると、ぐいっとウエストを絞られる。
「ぐえっ」
「(ここ押さえててくれ)」
「(ここですか?)」
「(針を刺すぞ)」
「(ビーズの刺繍に気をつけてくださいよ)」
「(くそっ、なんでハマらないんだ。バストの割に、下半身はでかいな)」
「(腰は低いし、足も短いですよね)」
「(ああ、そうだな。日本人はみんなこんな体型なのか? くそ、どうやってもハマらない)」
「(作り直しましょうか。ドレス)」
「(ああ、そうだな)」
何の会話が交わされているのかはわからないが、 仕立て屋とその助手が、両手を上げて、こりゃマイッタの呆れた顔で顔を見合わせていることから、どうやらドレスを作り直すことだけはわかった。
キーーー‼︎




