なんでこーなる⁉︎
それで、なんでこーなるのだ。
私は今、宮殿の中庭で、しっぽをつけている。
しっぽ、だと⁉︎
しかも⁉︎ マッフーの弟、8人だと⁉︎
上から、弟を筆頭に、双子・弟・双子・弟ときて、さらにもう一人の弟君。これでわかりますかねえ?
小さい男の子がわらわら、ギャンギャンと……と思ったら。
それが、全然お行儀良くてですね。
まったく、わらわら、ギャンギャンしないんですよ、これがまったく。
『けやきのき』の、小憎ったらしいお子さまたちとは正反対の様子に、私の言葉もお上品になる。
「では、今からしっぽ取りという遊びをいたします。このヒモを腰につけてくださーい……」
マッフーに通訳してもらいながら、ヒモをベルト通しにつけようとする。
……が、ないっっ‼︎ ベルト通しがないっっ‼︎ うそでしょ『カンドゥーラ』あああ。
「ええっとお、……じゃあですねえ」
少し長めの布をじいやさんに用意してもらい、子どもたちの腰に巻いていく。そして、その腰布にヒモをとおして、しっぽの出来上がり。
「それで、こうして、こう持ったら、こうやってヒモを……取るっっっ」
私がマッフーのシッポをすいっと引き抜くと、子どもらはうんうんと頷いた。じいやさんが手伝ってくれて、準備は完了。そして、私は赤いハチマキをして、手を挙げた。
「じゃあ、チーム制じゃなくて、鬼にしっぽを取られたら、鬼を交代ってことで」
マッフーやじいやさんが通訳してくれる。
それにも、うんうんと頷くだけで、なんという可愛げのある大人しさ。うちの『けやきのき』の子どもらと、天と地の差だな、おい。
いったい今からなにをやらされるのか、不安そうにしている。大丈夫大丈夫。取って食おうってわけじゃないから、遊ぶだけだからと、私は苦笑い。
ねえ、しっぽ取りやろうって言ったの、じいやさんなんだから、ね⁉︎
「じゃあ、私が鬼だからねー。逃げてよー」
そう言って近づいていくのだけど、弟同士で顔を見合わせて、どうしていいかわかんない、このお姉ちゃんなにしてんの⁇ ってなご様子で、ぜんっぜん逃げないの。
そうか。あれだ。鬼ごっこ。やったことないんだった。よし。
「……まずはルール説明からだな」
そう呟いてマッフーを見ると、マッフーは私の方をぼけええっと見ていて、おい⁉︎
最近のマッフーはいつもこうだ。私ばっかり見ているし、スマホで写真ばっかり撮っている。ぽわぽわってなってるけど、大丈夫‼︎ 私も好きだからっっ‼︎
「マッフー、通訳してよっ」
「お、おお、了解だ」
ルール説明。マッフーが通訳してくれて、ようやく意図しようとすることが通じたようだ。
「じゃあ、いっくよー。レディー=ゴー‼︎」
今度はうまいこと、バラバラっと走っていく。その後ろを追いかけた。
そして、シロウトさん(まだ幼く無垢な子どもたち)に対して最初から、大人の非情さを見せてはいけない、感情むき出しでしっぽを取りに行ってはいけない、そう自分に言い聞かせながら、シズカちゃん走りで近づいていく。
そして、ルマティの背後に近づいて……。
パッと、しっぽを取ったりー‼︎
「あはは、取った取ったー」
しっぽを握った手を天に突き上げ喜ぶと。
ルマティが途端に、むすっとなった。うん、そういう顔、やっぱりマッフーに似ているね。
私は自分の額に縛っていた赤いハチマキを取って、ルマティの頭に巻いてあげると、その頬を両手で覆って、笑った。
「ふふ、大丈夫大丈夫、そんなに怒んないで」
「(僕が鬼? 悔しいな)」
マッフーが、ルマティの言葉を伝えてくれる。
だから、私も。
「さあっルマティ、反撃だよ‼︎」
鬼役の交代。
今度は、ルマティが弟たちの後ろを追っかける。次第に楽しくなってきて、弟くんたちが自分のしっぽを取られまいと、腰をくねくねさせながら、ルマティの伸ばす手から逃げる。
「やめてくれよっ、にいちゃん」
「こっちくるなよっ」
あははは、きゃっきゃっ‼︎
こんな感じかなあ、なんて微笑ましく見ていると。
マッフーがそっと近寄ってきて、耳元で通訳してくれた。
それによると。
「(兄上、おやめください)」
「(こちらにいらっしゃらないでください)」
お貴族さまっ‼︎
けれど。
ものの十分しないうちに、弟くんたちからも、キャッキャと笑い声が上がってきた。そして、何度めかの鬼役を交代してから。
もう一度、私が鬼に‼︎
「カエデ、楽しくなってきたっ」
マッフーが私に向かって、投げキッスをしてくる。
「いいねいいねー、楽しもうっっ‼︎」
「捕まるかっっ」
私が、逃げ回るマッフーを、中庭の隅へと徐々に徐々にと追い詰めていく。
一騎打ちの様相。
左右に動きながら、私は両手を広げて追い詰めていく。
マッフーが、ぐらっと右へと身体を傾けた瞬間。
私が伸ばした手が、マッフーのしっぽを、捉えた。ぐっと握って、少しだけ強引に引き抜いた。
「やった‼︎ 取ったぞーーー‼︎」
私はマッフーのしっぽを握ったまま、空へとこぶしを突き上げた。
「わああああ」
「ははははっ」
「キャーーー」
どっと歓声が上がり、中庭に響いていった。




