これが恋。。。これが恋⁉︎
「ちょっと、マッフー、マジで似合いす、ぎ、くくく」
舞衣子先輩が笑いを堪えながら、マッフーの頭に耳付きのカチューシャをぶっ刺した。
「これはいったい……」
難しい顔をしながらも、マッフーは舞衣子先輩の言いなりになっている。
私が顔を向けると、マッフーは顔を真っ赤にしながら、憤懣やるかたなしを絵に描いたように表現していた。
腰に手を当て、ぶつぶつと文句を言う。
「なぜ、俺がこんな格好をしなきゃいけないのだ」
「仮装で寸劇はみんながやるんだからね」
「キャンプとは、カエデと一緒に泊まれる会だと聞いたのだが……」
「うんそれ滝だねあいつはちょっとバカだから」
普段からほわわーっとしている舞衣子先輩が、ひと息に毒を吐く。
最近、滝先輩に今井部長との仲を邪魔されてばかりなのか、非常に刺々しい。
「はいマッフー、これつけて」
舞衣子先輩から渡された手袋を、マッフーは両手にはめた。すると、どうだ。完璧ではないか。
「わわわ、マッフー、すごい似合ってる」
「そ、そうか?」
「完璧だよ、どこからどう見ても……み、ミッ◯ー……」
「カエデ、おまえ、笑ってるだろう」
「わ、笑ってない、ワラテナイヨー」
マッフーのくるくる天パの頭に、皿のように丸くて黒い耳が生えている。白い丸みを帯びた手袋、赤のズボン、黄色の靴下。
くくく。
「いや、笑ってる」
「笑ってないってば」
マッフーが手を伸ばして、私の頬を包む。
「笑ってるな、こいつめ」
マッフーの目尻にシワができ、唇も緩んでいる。薄っすらと微笑むその顔。目も鼻も口も頬も、全てのパーツが喜びに満ちている。
(うわ、)
私はマッフーの幸せそうな顔を見て、胸がいっぱいになった。
(私が、幸せにしているの、かな?)
そう思うと、いっぱいだった胸が、今度は熱くなって苦しくなった。
「カエデ……」
瞳は濃いグレー。その高い鼻梁に、自分の鼻をすり寄せたい気持ちになった。
これが恋。
「んっんんんー、げふげふ。楓ちゃん、いい加減にしてね。『これが恋』とか言ってんじゃないよ」
「あ、あれ⁉︎ 口に出てた⁉︎」
「イチャイチャすんのやめろ」
舞衣子先輩がこんな口調でも、ほわわんっていう笑顔を崩さないのは、怖っ。
滝先輩に散々邪魔されて、どうやらかなりのストレスになっているようだ。
「……はい。すみません」
私は、かぶったままだった、ゆるいアライグマの着ぐるみのまま、そこで土下座した。




