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滝先輩は時々仏になります。


「ってなわけで、これがSPなどがついていない理由というわけです」

「そうなんかー。王族あるあるだなあ。マッフーもお家事情では、苦労してんな」

「ねー」


滝先輩が、うむうむと頷きながら、せっせと子どもと学生全員の名札を作っている。


夏。

夏休み。


ここ、子ども会『けやきのき』では、毎年恒例の夏キャンプを企画している。これはいつも土曜日の午後に行う活動の延長で、一泊二日で子どもたちを近くのキャンプ場に連れて行くというものだ。


もちろん責任者として、子どもの保護者二人が同伴する。家庭の事情も絡めて、だいたいは子どもの母親が参加するのだが、そこはまあ世の忙しいお母さんたち。なかなかに嫌がられて、毎年敬遠されがち。


なーのーだーがー。今回は争奪戦の様を呈している。


ザイードのイケメン王子が、キャンプに参加するという噂が流れたからだ。


「楓ちゃん、私ぜひ参加したいわあ。楓ちゃんの力で、なんとかならん?」


豆腐屋を営む、低学年生タマのお母さんが、真っ先に手を挙げた。


「なんとかって私、なんの権力もないですからあ」

「でも、楓ちゃん、彼と付き合ってるんでしょ。熱愛だって⁉︎ もう楓ちゃん、スミに置けないんだからあ‼︎ このこのお〜」

「ちょ、おばさんってば。私だって、なんでこんなことになってるのか、よくわかってないんだからっ」

「もうめっちゃ玉の輿よ‼︎ これ以上の玉の輿ないってくらい‼︎ セレブ決定ねえ。なんてったって、アラブの石油王の息子なんだから‼︎」


これ。

よく言われること。


私は苦笑いでかわしてはいるけれど、確かに『財力』について揶揄してくる人は多くて、まだタマのおばちゃんはこれでも良い方で。


えげつないことを、遠回しでも率直にでも、なんだかんだと言ってくる。


「それも、いい大人がですよ?」


私が呆れて言うと、名札作りを確認する名簿にチェックを入れながら滝先輩が真顔で言ってくる。


「そりゃ仕方がねえな。嫉妬や妬みは人間の性だからなあ」

「でも……」


私は押し黙った。

マッフーは、ザイードの王にはなれないのだから。


「どうした、楓ちゃん?」

「……んー、それがですね……」


この話の流れで、マッフーに正式なSPがつかない理由を説明したのだ。これについては、サークル活動をするにおいて、夏休みが終わったら一旦帰国の旨、大学側も承知しており、その詳細は今井部長も知っているとのこと。特にマッフーから口止めされたわけではないので、まあ滝先輩ならチャラいけど口も硬いし、ということで、話したのだ。


「絵に描いたような、お家騒動だなあ。楓ちゃんは知らないかもだけど、日本の皇室もずいぶんと揉めてるんだぞ」

「え、そうなの? 知らんかった」


私は手に持っているクイズラリーのカードを、半分に折り曲げた。子どもの参加人数分、折ってしまうと、次に使い捨ての小さな鉛筆を挟んでいく。


「夏休みが終わったら、あっちに帰っちまうんだろう?」

「そうなの、いったんね。家族会議みたいなのがあるんだって」

「なあ、このキャンプでさ、マッフーに日本での最高の思い出、作ってやろうぜ」

「滝先輩……」


チャラくて残念と思っていた先輩がこうも真面目な顔をして、真っ当なことを言うと、なんだか神さまか仏さまのように見えなくもない。


「いいねえ、それ、やろう‼︎」


そして、私と滝先輩は、ガッチリと握手を交わした。



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