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走れー走れーオレーたーちー


「ゆーびんやさん、ゆーびんやさん。ハガキがじゅうまいおちましたーーー。ひろーってアゲマショ、いーちまーい、にーまーい」


パシッ…パシッ…と、縄が繰り返し地面を打つ。ジャリ、ジャリと砂の上をジャンプする、軽快な音が響く。

「タメちゃん、あと五回だよ。頑張って‼︎」

「タメちゃん先輩、ファイトー」

「はあい、はあふう、ろーくまーい、はあ、はあふう……」


こんにちは。楓です。


ご紹介が遅れましたが、今、大縄跳びを跳んでいるのは、ポッチャリ系女子、三年タメちゃん先輩です。タメちゃん先輩はポッチャリ系ではあるけれど、実のところはとっても機敏なんです。前後左右の動きは、なかなかに俊敏なんです。けれどその体重が邪魔をして、上下運動にはめっぽう弱い。


なので、この大縄跳び。タメちゃん先輩にとっては拷問に等しい遊び。


私はというと今、大縄を回す役を買って出ており、握った大縄をこれでもかというくらいに伸ばしに伸ばして、大きく回している。


これ、回す方もキツイんだけど。ふいいいぃ、あと一回‼︎


「タメちゃん、ラスト一枚だよっ」

「オッケー、じゅうまーいぃぃ、はああああ、おわっだぁ」


大縄から、フラフラと足をもつれさせながら、脱出。子どもたちが大声をあげて、ありがとおーと、お礼を言ってシメル。


ハガキを落とした郵便屋さんのために、親切丁寧にそのハガキを拾ってあげるというていの、大縄跳びの遊びだ。


「あははは、タメちゃん先輩、足が生まれたての仔馬みたいにヨボヨボになってる」


先輩はそのまま、花壇のフチに、ドッコラショと腰掛けた。


「ふうう、キッツー」


額の汗を拭う。


確かに、大縄を跳びながら、ハガキを一枚一枚、拾う格好で地面にいちいち手をつくのは、かなりの運動だ。この遊び、カロリー消費がハンパない、地獄の筋トレに他ならない。


「……はあふう、これで、一キロは、減った、はあはあ」


タメちゃん先輩の苦しそうなのか、嬉しそうなのかわからないつぶやきに笑いながら、私は次の順番を待つ。


「次、タカシっ」

「おうっ」

「じゃあ、回すよっっ」


そして、ゆーびんやさん、ゆーびんやさん……と歌い始めたところで。


「カエデーーー‼︎」と、どこからかマッフーの声。


私が大縄を回しながら振り返ると、上から下までいつもの『カンドゥーラ』姿で、マフ王子が手を上げて走ってくる。


「マッフー……う⁇」


だが、よく見ると、マッフーの後ろを誰かが追いかけている。


「ナーシルッディーン=マフムード王子ー、待ってくだされー」


え、あれ、誰?


「カエデーーー‼︎」


それにしても、すごい勢いで走ってくる。


「うわっ、マッフーこっちに向かってくるぞっ」


大縄を跳んでいたタカシが、慌てて回していた大縄をよけて、するっと脱出した。


「楓、手を止めるなっっ」


何がなんだかわかっていないけれど、大縄回し役の相方である今井部長がそう叫んだまま、まったくその動きをやめようとしないため、私はそのまま大縄を回し続けた。


すると、マッフーが回していた大縄の中へと、ガバッと入ってきて跳んだ。


「ぬっ⁉︎」


それは先週の『活動』に遡る。


マッフーは、そこで初めて大縄跳びに挑戦したのだったが、どうしても足に縄が引っかかり、一度も跳ぶことができなかったという。マッフーはそれをとても悔しがった。そして、子どもらに特訓され、ようやく跳べるようになったのだ。


そして、今‼︎ なんと‼︎ 回る大縄に軽々入り、なんなく跳べているではないかっ⁉︎


一回、二回、三回、……。


「すごいっ、マッフー‼︎」

「じょうずになったねえ」


マッフーに大縄跳びを教えた子どもたちも、手を叩いて喜んでいる。


が⁉︎

誰⁉︎


マフ王子の後ろから走ってきた謎の人物が、大縄へと滑り込んできて、一緒に跳んでいる。


え⁇

え⁉︎


「ナーシルッディーン=マフムードさまっっ、さあっ、もう観念なさいっ」

「じいやっ、これ以上、俺の後をついてくるなっ‼︎」


なんだと⁉︎ じいや⁇


「何を仰いますかっ、地の果てまでも追いかけていきますぞっ」

「うるさいっ、早くザイードに帰れ‼︎」

「カエデさまとのご結婚を解消してくださるまで、ワタシはここを動きませぬぞ」


うん、まあ、跳んでるけどな。いや、そこじゃない、今なんつった?


私は慌てて、「マッフーぅ、お話し中ぅ、ほんとにぃ、申し訳ないんだけどぅ……」


大縄を回している腕に疲労感を感じてくる。もうそろそろ、勘弁して欲しいのだが。けれど、マッフーとじいや(⁉)︎は、まだまだ息は上がらない。


このままだと、1000回くらいは、軽く飛べちゃうぞ。


「っっっ、俺は、カエデと結婚するのだ」

「っっっ、じいやは反対ですっっ」


え⁉︎ 反対されてるっっ⁉︎

途端に、手に力が入る。


「おい、楓っ、回すの速すぎるぞ」


部長が叫ぶが、私の耳にはどうやら入ってこないようだ。


「っっっっ、じいやがっ、反対したとしてもっ、俺はっ、カエデを愛しているっっ」

「っっっっ、ナーシルッディーンっっ、マフムードさまっっ、嘆かわしいっっ、国に置いてきた婚約者っっ、幼馴染サリーヌさまをっっ、お捨てになるつもりですかっっ」


なんでこんな時も、フルネーム⁇


じゃないっっ、出たあああ、女性問題だとお⁉︎ つい最近までは、国際問題だったのにい⁉︎ どゆこと⁉︎


「ちょっと、マフっっ、どういうことなのっっ」


私は、おもいっくそ大縄をぶんぶん回しながら、ありったけの大声で叫んだ。


「ちょ、楓っっ、速すぎだっつーの」


部長の腕が、ぐるぐるぐるぐる回っているが、気にしない。たぶん私の腕も、同じようにぐるぐるぐるぐる回っているのだろうがな‼︎


スパンスパンっと、大縄が地面を打つ。その度に、マッフーとじいや(⁉︎)が狂ったようにジャンプしては、話し合いを持つ。


「サリーヌとの婚約はっっ、日本へ来る前にっっ、解消したはずだぞっっ」

「なにを仰いますかっ、そんなお話っ、サリーヌさまは信じておられませんぞっっ」

「だがしかしっっ、 俺はもう婚約者を見つけたのだっっ」


ここで、すいっとマッフーが大縄から飛び退いた。じいやももちろん、後に続く。


「そんな勝手なことは、許されませんぞっっ」


マッフーが私の後ろを通って、そして、再度大縄の中へと入る。一度ジャンプをして、すうっと大縄から抜ける。それを追いかけて、じいやも入り、ジャンプしてから、抜ける。


あ、これ。大縄の八の字って遊びだ。進化した。まじか、すごい。


それにしても、じいやさんの華麗なる足運び。すでに、ダブルダッチ並みに高速回転しているけれど、それに怯まず、王子もじいやも入っては跳び、跳んでは抜けるを繰り返している。


「ちょ、待てって。おい、楓、やめさせろっっ」


さすがに部長の肩が外れそうだわ。


ただ。

ただ、な。


今、私はとてもムカムカしている。なんでかわかんないけど、ムカついているのだああ‼︎


「マッフー……この浮気者があああっっ‼︎」


私は、大声で叫んでから、バシッと大縄を地面に放り投げて、手を止めた。


ぎゃっと、誰かの悲鳴が聞こえたが、今は気にしている時ではない。


「婚約者だとおお‼︎」


その剣幕に、一瞬、場が凍る。


けれど、そんなことは関係ない。怒りもあるのだが、胸が苦しいのだ。ぎゅうっと掴まれているように、痛みがあるのだ。


「……ようやく、……ようやく、ちょっとだけ好きになりかけてたのにいうわあああ」


私は、走り出した。

雄叫びをあげながら。


「なによおおお、幼馴染ってなんなのよおおおっっ、サリーヌだかテリーヌだか知らんけど、なんかムカつくううえああ」


どこに向かって走っているのかわからなくなっていたが、とにかく私は息が続くまで、走り続けた。



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