表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/40

キュキュッと足でブレーキをかけ、くいっと曲がるのは、得意中の得意です。


そんなわけで、どんなわけだ、マッフーと私はこうして一緒に、いつも通り『活動』をやっている。


「なあ、楓」


隣で同学年男子の松下が、そっと近寄ってきた。

工学部なのに文系脳。いつも言葉のチョイスがウザいくらい文学だ。


「おまえ、思い切ったなあ。異国の殿方とアバンチュールってやつか?」


うん、それな。

松下、あんたの書いた数理情報工学の論文、どんなことになってんのか、いっぺん読んでみたいわ。


翻って今。


私たちは「けやきのき」の活動『色オニ』の真っ最中だ。


鬼が、大声で『色』を叫ぶ。

鬼以外の人間は、鬼の言った『色』の物体に触ったらセーフ。鬼はその前に追いかけてタッチしなければいけない。


いかにこの自然界や人間界(⁉︎)にない『色』を探し出し、選ぶのか。子どもたちは、そこんところを試行錯誤するのが、面白い。


これ笑えるんだけど、ちいさい子は最初、必ず『黒』って叫ぶのよ。すると。みんな同時に、頭に手を当てる。

髪の毛が黒いということに、この『色オニ』で気づくという顛末に、ぶはっっ‼︎


それからは、考え方も巧妙になり、灰色とか渋めの色にいくのだが、意外とピンクや黄色なども見当たらない。みんなが着ている洋服の模様やデザインに色を求めていくのだが、なかなかに見つからず、そうしているうちに鬼に捕まる子も増えていく。鬼に捕まれば、今度は自分が鬼の番となる。


現在、鬼は高学年のキミヒロ。


「『赤』っっ」


一斉に子どもたちや学生たちが走り出す。


「舞衣子ちゃんが赤のタオルしてるっ」


リンが声を上げると、わあああっと一斉に、赤いタオルをクビにかけた舞衣子先輩に突進していく。タオルを引っ張られ、ぢょっどおお、首がしまるうううっと悶絶している舞衣子先輩を横目に、私は松下が手首につけていた赤いリストバンドを握った。


「楓、おまえマジでアラブの殿方と付き合うの?」


松下が自分のリストバンドを触りつつ、さらに身体を寄せてきた。


「んーんーんー、不本意ながら……」

「不本意ならなんで了承したんだよ」

「だって、マッフーってばヒゲまで剃ったんだよ」

「それがどうした⁉︎」

「ヒゲってさ、ザイードでは男の威厳の象徴なんだってさ」

「え、そうなの⁉︎」

「それをだよ? バッサリ……ってか、王さまになる人がだよ、そんなことしていいのかってことなんだよっっ」


意味なく半ギレ。


「どうして、私なんだろう……」

「って、思うよなあ」

「松下っ、あんたねえ」

「ウソウソ、おまえは善き人だ」

「あーあウソくさあ」

「ってか、やばし。俺、めっちゃマッフーに睨まれてる」


確かに、松下の『赤』のリストバンドを、二人して触っているから、肩と肩が触れ合っている距離だけれど。


「うお、本当だ」

「マッフーの歯ぎしりがギリギリ聞こえてきそうだな。キミヒロ、早う、次の色を告げてくれろ」

「…………」


『赤』で一人も捕まえられなかったキミヒロが、次は大きな声で「『白』っっ‼︎」と叫ぶ。


『白』。


わああっと声を上げて、子どもたちや学生が、『白』目指して、散っていく。


私は、辺りを見渡した。いつもは白いTシャツを着ている松下が、今日はなぜか真っ黄色のド派手なTシャツだ。


「こんな時に限って、黄色っ」

「痛って」


バシンと松下の背中を叩くと、キミヒロがそんな私たち二人を狙って、突進してくる。


「ぎゃあ、逃げろっ、楓っ」

「おうっ」


二人はハイタッチをしてから別れて、走り回る。楡の大木の周りをぐるりと一周すると、視界が開け、そこに『白』、すなわち『ホワイト』が、目に飛び込んできた。


「あっっ」


それは、マフ王子の白のアラブ民族衣装。

おおお、やったあと思い、私が近づいていくと。


「こい、カエデっっ」


両手を広げて、待ち構えている、その様といったら。これはまさに、恋人同士の抱擁⁉︎


このまま、マッフーの両腕の中に飛び込んでいった日にゃ、末代まで語られる、いや、永遠に語り継がれる伝説と化すほどの、功績(黒歴史)を残してしまうことになる‼︎


私はキュキュッと足でブレーキをかけ、くいっと右へ曲がった。


「あっ、おいっっ、カエデっ」


追いかけてきた鬼役のキミヒロに抱きつくと、私はぐわっと言った。


「あんたに捕まるくらいなら、自らオニに捕まるわっっ」


すると、私の下で潰れているキミヒロが、小さく言う。


「楓……おまえ、ぜんっぜん、胸がねえな」


キーーー‼︎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ