オー、コレハドウイウコトデスカ⁇
求婚って、相手の意向ガン無視で、こんなドタバタ劇のようにされるんだったっけ?
フラワーショップ『リンカ』にて。
「ねえ、マッフー」
「ん、なんだ? カエデ?」
落ち着いて。落ち着いて。そう、落ち着いて、問いたださねば。
けれど、そこで。私がようやく落ち着いてきたと思ったら、今度はパパママおじいちゃん。
「楓ええ、いつのまにこんなことになってるのよ。説明してよ」
ママがパンクしそうになっていて、これでもかというような悲壮な顔をうかべている。パパも、呆然としているけれど、ああ、パパ、それお茶じゃないから、それ、醤油だからっっ。
パパから醤油差しを奪い取ると、私はだんっとテーブルに置いた。
「まだ、付き合ってない……」
「楓、それは本当なの?」
「手もつないでないっ」
「なにを言う、手はつないだぞ」
「それは、だるまさんがころんだのときっっ‼︎」
「だが、俺はカエデのことが気に入ったのだ」
「気に入っただと⁉︎ まさか俺の娘がか⁉︎」
パパ、その驚き方、地味に傷つくわ。あー。もう。だからそれ、醤油だっつーの‼︎
「オー、パパさん、カエデを僕にくださーい」
「言い方っ」
私がマッフーの背中をスパンっと叩くと、今度はママが「ギャー、楓、暴力はやめてちょうだい‼︎ 一国の国王の石油王の息子さまに、なんてことするのっっ」と、アワアワしながら言う。
「オー、ママさん、僕はカエデをモーレツに愛していまーす」
⁉︎ おじいちゃんが反応する。
「モーレツ⁉︎」
……そこに食いつかんでいい。
「とにかく、私は結婚なんて考えてないから。お付き合いすっ飛ばして結婚だなんてあり得んからっっ」
私は振り返って、マッフーに言い放った。
「マッフー、悪いけど私あんたのこと何にもわかってないし、それに全然、ぜ、……全然タイプじゃないからあっっ‼︎」
言った言った‼︎ 言ってやった‼︎
そう言い放ってから立ち上がり、私は二階への階段を勢いよく駆け上がった。
ベッドの中に潜り込んでいると、玄関の門がガチャンと閉まり、そして車がブロロロロと走り去っていく音がして、私は心底ホッとした。
「もーほんと勘弁してよ。今までの私にだよ? マッフーが好きになるようなタイミングとかあったっけ? いや、ないっっ‼ 断言できる‼︎ しかもだよ? こんな私のどこに、マッフーが好きになる要素があるというのだ。そう、断固としてないっっ‼︎」
言い切ってしまうと少しだけ虚しくなったが、そんなことはどうでもいい。私は潜り込んだ布団の中で、こぶしにぐっと力を込めた。
けれど、次の日。
「……ウソデショ、ヤメテ」
あまりの驚きに、片言になってしまったが、この状況を見ていただければ、誰でも片言になるに違いないので、まあそれはいいとして。
「どうだ、これでいいだろ」
「よよよくないっ、どうしたのそれ⁉︎」
「ん、カエデはこれが気になっていたのだろう」
「いやいやチガーウ‼︎ ってか、違わないけどっっ」
「うむ、やはりな」
「どうしたのっ、どこへやっちゃったのよ、あんたの口ひげええぇ」
マッフーはツルピカになったアゴに手を当てて、スリスリと指を滑らせている。
「なんだかスッキリしたものだ。自分にヒゲがないなんて想像もできなかったが、これならまあイケル」
「い、イケル⁇」
「ああ。改めて、告白するぞ。カエデ、俺と付き合ってくれ」
「…………」
もうダメだ。逃げられない。




