あああああああああ。 檻の中で絶叫です。
「……って、危うくダマされるとこだった」
「ん? なんの話だ?」
ここは、簡易的に作った檻の中。とは言っても、足で引いた線の中ってだけだけど。そこにちょこんと座っているのは。
そういつもの、マッフーアンドカエデでーす。パフパフパフー。
「それより、おまえを逃がしてやったというのに、なぜここにいるのだ?」
「だって、管理棟を抜けたら、タマとユイに挟みうちにあっちゃって」
「あんなちっこい子どもに捕まるなんて、なんという残念な運動神経の持ち主なんだ」
「そういう自分だって、捕まったくせに」
言い合いをしていると、檻の門番を頼まれた高学年のタカシが、呆れたように言った。
「ドロケイの泥棒役で捕まったの、マフと楓だけだからな。ほんと、弱っちいな」
「タカシ、俺は弱くない。カエデを守ろうとオトリになったのだ」
「よかったな楓。これでようやく念願の、彼氏ゲットだな」
ませたことを言うんだ、最近の子どもらは。タカシが真剣な顔でグーを突き出してくるので、私もつられてグーにして、トンッと合わせる。
が⁉︎
「ちがーう‼︎ ってか、彼氏とかじゃないってばっっっっってか、そう言えばあれ、どういうことよっっ。忘れてたーーー‼︎」
「なんだ?」
「なんだじゃないっ、あの写真、流出したやつ、どうしてくれんの⁇」
「ああ、あれな。あれはもちろん俺のイチオシ……」
「画像のクオリティ聞いてるんじゃないっっ。ねねねね熱愛とかになってるんだよ。なんでよっ」
私は、マフ王子の胸ぐらを掴んだ。
「ねええ、どうしてこんなことになってんの⁉︎ って、聞いてんのっ」
「もちろん、キュウコンだ」
「きゅ、球根?」
「バカだな、楓は。求婚だろ? プロポーズだよ。そうだよな、マッフー」
タカシが横槍を入れてくる。
「そうだ。それだ。プロポーズだ」
いやいやいや、そこ、こぶしを突き合わせるんじゃないっ、ちょっと待てー‼︎
「なななななに言っちゃってんの。やだやだやだっ」
「嫌なのか⁉︎」
「あーあ、これで泣く女、続出だな」
「タカシっ、泣く女ってなに⁉︎」
「んーーー、マッフー王子だし、金持ちだろ? 地味にモテんだよ。タメちゃんとかリンとか、マッフーのこと好きーーって言ってたぞ」
うっそ、タメちゃん先輩が⁉︎ しかもリンも⁉︎ こんなヒゲ面っっ‼︎ モテるだとっ‼︎
私は愕然として、檻の中で座り込んだ。
けれど。
マッフーを改めて見ると、白い服が泥だらけになっている。最近、こうしてサークルの子ども会に遊びに来ては、全身が泥んこになるまで、遊んでいるんだなあ。一国の王子のくせに。って、その姿を見ていたら。怒りを忘れて、ふふっと笑みが自然と零れた。
初対面の印象は、確かにカレー屋のおじさんだったけれど、その印象はじわじわと覆され、そしてあの時よりは二十歳ほど、私の中で若返っている。
(まあ、よく見れば。彫りが深くて、まあイケメン? ……ってことはある。うむ)
この民族衣装の正装姿も、泥や砂で汚れてはいるけれど、びしっと決まっていて、もちろん王子としての威厳もある。
けれど。
そこで気がついて、さあーっと背筋の凍る思いがする。
「ねえ、まさかとは思うけど、まさかその正装……き、記者会見って言ってたっけ? ……まさかまさかとは思うけど、なんの?」
「⁇ ああ、もちろん俺とカエデの婚約発表だ」
あああああああああ。
檻の中で絶叫した。




