7.【バーンバレット】
1つの黒い風がパブロの街を駆け抜けた。
エドは姉を残してきたスラムの空き家に向かって街の中を駆け抜けていた。
ひどく胸騒ぎがする。第六感が告げる警告を振り払いながら彼は目的地にたどり着いた。
(遅かったのか?)
冷や汗が伝う。
彼のかけた【気配遮断】と【探知】の結界は破かれ、元々ボロボロだった廃屋の扉も壊されていた。
彼ははやる気持ちを抑え、中へと踏み込んだ。
そこには、ソールと3人の兵士、そして60代と思われる老人が立っていた。
直ぐ様、老人に切り込む。
【陽炎】
しかし、探検の届くその瞬間に切り込んだ彼は消え失せ、ソールと兵士の間に立ち右手の短剣を構えた。
ドサリ
向かって左にいた兵士は老人に切り込んだ瞬間に投擲していた短剣が首に刺さり絶命していた。
「貴様がアドラーか」
「いかにも、この若造が」
今尚燃えている屋敷の持ち主である魔法使いの老人は、元々嗄れ細くなっていた目を更に細めて憎々しげにエドを睨みつけていた。
「何故、殿下を狙う」
「それを言うほど、お人好しではないわ。そもそも言ったところで分かるはずもない。やれっ」
2人の兵士が肉迫する。
よく見れば片方は先の屋敷で遭遇した手練の衛兵であった。
【刺突】
2人の兵士は槍の威力を引き上げるスキルを放ってきた。単純なスキルであるが由縁に厄介だ。王国屈指のアサシンであるエドである。技術では分があるだろう。しかし、パワー系の職ではないため受けきるのは難しい。しかも明らかに皇国の兵士の中でも上位の兵士だ。
(片方は5つ持ちだな)
兵士の能力を表現する際、スキルの個数を用いるのが一般的である。もちろんスキルの数だけですべてが決まるわけではない。鍛錬の仕方や経験の差が物を言うこともある。だが一般的なバロメーターとしてはよく使われる表現である。
そして、エドは何とかスキルを凌ぎながら経験から相手が自分と同じ英雄レベルの人物だと推測した。
【かげ…】
【バーンバレット】
エドが体制を立て直しスキルを放ちかけたその刹那、6つもの火の球がエドに襲いかかった。
皇国は魔導大国である。これは魔法職の方が少なからず優遇され出世しやすいところからも窺い知れる。また、魔法職の場合スキル数、ステータスでの能力とは別に研究職として地位を高めることもできる。実際そうやって成り上がった要職の人物も多い。
では、王女の拉致を企て国宝級の魔導具にまで手を出したゲレン・アドラーという人物はどうだろう。
ーーーー普通、魔法系のスキルで放つことのできる火の玉の数はスキル数と同数だ。
つまり、同じ【バーンバレット】であっても1つ持ちと5つ持ちでは放たれる火の玉の数が異なる。
もちろん、スキル数の上昇でステータスも上がっているため1つ1つの火の玉の威力も高まっていく
ーーーーしかも指数関数的にだ。
さてこの、事実が意味することは明白である。今、火の玉を放った60才を過ぎた老人は何を隠そう6つ持ちである。
もはや、英雄クラスを超え、化物の領域に踏み込んだ人物の攻撃である。流石に屋内かつ、近くに彼が国宝を使ってまで求めた王女様がいるため、出力はそれなりには抑えたと言えども、人一人を消し炭にすることなど造作もないことである。
爆煙が晴れたそこには
ーーーー無傷のエドが立っていた。
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次は初ブクマ目指して頑張ります!
稚拙な文章ではありますが、何卒宜しくお願い致します。