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陽炎  作者: 音音
一章 バーレンウォート
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5.道化

「さてこれからの方針なのですが」


エドはいつまでもからかわれ続けているわけにも行かないので無理やりに話を戻した。

ソールは真面目な顔をして黙って続きを促した。


「まずは情報収集です。どこにいるかも分からないままでは動き様もありません。まずは私が可能な限り集めてまいりますので姉上はこちらでお待ちください。間者とコンタクトが取れればいいのですが。」


真剣な眼差しでソールは答えた。


「せめて、お姉様で妥協できません?」


「出来ません。」


エドはいつもの仏頂面で隠れ家をあとにした。


(やれやれ、可愛げのない弟だこと)


ソールは心の中でそう呟くと小さな笑みを浮かべた。それまで見せていた意地悪な笑顔ではなく、本当に優しそうな笑顔だった。


(いっそ死んでいたら彼に苦労をかけることはなかったのでしょうか)


別に彼女は生きるのを諦め、ふざけている訳ではなかった。彼女が考えていたのは彼のことである。そもそも彼女には、武才は元よりそれほどまでの知力があるわけでもない。様々な経験を持つエドより優れた意見など早々出せる確率は低い。だから道化に回ったのだ。


(どうせグチグチと後悔してるんでしょうけど)


エドは唯一の第二王女専属護衛である。今回の護衛における失敗の責任の多くは彼にあるということになる。無論、今回の慰問の発案者はミラであり、かなり強引に勧めた部分もある。良き理解者であるエドからも、護衛としては反対の意見が出ていた。つまるところ自分のまいた種であり、自業自得ではある。しかし、それはそれでありエドが糾弾を免れることはないだろう。無論ミラが全力で庇うつもりではある。だが、糾弾云々の前に、ミラを危険に晒したことに対して、エドは大きな後悔と責任を感じていることは言うまでもなかった。

少しでもその感情を忘れられるように道化を演じてみせたのだ。

これこそ、彼女が王国で人気を博す理由である。彼女は”慈愛の王女”という二つ名で親しまれていた。


ーーーー


(あのお方はもっと自分の価値を感じても良いのに)


エドは道化をあえて演じるソールのことを考えていた。別に自己評価が低く自信が無いなどといったことはない。ただ、必要であればどんな道化にでもなっていた。自身の誕生会でグズる貴族の赤子を見かけると、なんの躊躇いもなく全力でベロベロバーをしていた。流石に道化を超えて失笑という雰囲気になってしまい。彼女は非常に赤面していたが。


(あの人が望むのならば…)


「…おねぇちゃん」


ボソリとつぶやいた彼は流石に表情には出さなかったが内心悶絶していた。

そして、再び彼女の道化によって少し心が晴れたことに気づき、足取りを早めた。



ーーーー少しほころぶ仏頂面に気づかずに。


ーーーー


さて、町中を歩く中でいくつかの情報を得た。


"パブロ"


それがこの都市の名であり、皇都から30キロ程西にある中規模の都市だった。


そして、今なお燃え盛る屋敷はアドラーという高位魔法使いの屋敷であることがわかった。


(何故、ソールを?)


疑問は尽きないがそこら辺の情報を得るには骨が折れる。そもそも、情報収集で時間を食っていたら、当面の目標である帰還にも影響が出る。

今この瞬間も、敵は街中を探しているだろう。


エドは賑わう市場の中に入ると、雑多に紛れながら笛を吹いた。

"夜切笛(やぎりぶえ)"と名のついたその笛は、王国の隠密部隊が用いるものだ。

可聴領域から大きく外れた超高音を発するその笛の音は、普通耳にすることはできない。


しかし、その波長を受けた笛自身が小さく振動することで姿を隠した味方にメッセージを送ることができる。定期的に使用する波長も変えられるため安全性も高く非常に便利だ。



しかし、その聞こえない笛の音に対して、なんの反応もなかった。


(この都市にも間者は放たれていたはず。殺られたのか?)


王国の間者は他国でも類を見ないほどエキスパートである。それが殺されたとなると、こちらには相当不利である。情報が容易に得づらいというのもあるが、何よりも敵は間者を見破れるということである。自分のスキルだって破られかねない。


一抹の不安を抱えたエドは闇に紛れながら、主人の元を目指した。


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