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陽炎  作者: 音音
一章 バーレンウォート
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2.転移

エドとミラの二人は火災の混乱に乗じ、燃え盛る屋敷を離れ狭い路地裏まで来ていた。


「殿下、お怪我はございませんか?」


「ええ、大丈夫よ。あなたは?」


エドは首を振り、否定を示すと更に続ける。


「ここら辺はスラム街のようです、一先ず身を隠せそうなところを探しましょう。あまり綺麗ではないですがご勘弁を。」


「ええ、どんなところもあなたがいれば安全でしょうから。」


ミラの絶大な信頼を感じてエドは少し照れたが、

悟られないように空き家を探し始めた。


程なくして、お世辞にもきれいとは呼べないながらも、腰を落ち着けられそうな場所を見つけ二人は一息ついた。



「さて、まずは状況を整理しましょう。」


エドは【気配遮断】と【探知】の結界を張ったあと自分たちの置かれた状況について話し始めた。


「殿下はこの街に見覚えはございますか?」


ミラは困惑した表情で答える。


「いえ、さっぱりです。ここまでの道にいくつか皇国の旗がありましたから、皇国領内であることは間違いないでしょうけど。」


ミラはこれまでの道中で見つけた、たった一つの手がかりを述べたが、これが何よりもまずい状況であった。


なぜなら今現在、イングリス王国とエオス皇国は”戦争”の真っ只中なのだから。


「あの奇術師が皇国の手先であったと考えて間違いないでしょう。まさか国宝級の魔導具を使ってくるとは。」


ーーー


さて、ここでなぜこの二人が、しかも一人は王国の要人でありながら、敵国のど真ん中に来ることになったかをお話しよう。



遡ること3時間程前、二人は国立の孤児院に慰問に訪れていた。


ミラ発案の行事で定期的に行われており、有名な歌手や噺家、芸術家などが同時に招かれ、ミラも子どもたちと楽しんでいた。


そして、今回招かれたのが件の奇術師であり、最近王都で人気が出ている人物だった。


彼は様々な奇術を披露していたが、事は最後の演目で起きた。奇術師は透明な玉を取り出し、何か種や仕掛けがないかチェックしてくれとミラに手渡した。それまでの演目でも子どもたちや二人がチェックしていた為、特に警戒することもなくミラは玉を受け取った。


その時だった。突然に魔法陣が展開し、ミラが玉に引き込まれそうになった。瞬時に異変を察知したエドは玉を引き離そうと手を触れたが、結局は二人ともども、皇国の罠にはまり先の屋敷に転移してしまったのである。


転移した先は屋敷の広間であり、言うまでもなく皇国の兵士に囲まれていた。

しかし、エドの行動は早かった。そもそも、王女一人しか来ないと思い油断していた兵士に対し、エドは問答無用で燃焼系の爆弾である【火炎玉】と煙幕を生み出す【煙幕玉】をそれぞれ4つも放っていた。同時に、【陽炎】を用いて二人の幻影を生み出し、移動術である【瞬歩】を用いて部屋から脱出していた。


その後は、屋敷中に【火炎玉】と【煙幕玉】をばら撒きながら出口を目指し、今に至る。


ーーー


「王都から皇国内ほどの距離の転移を可能とする魔導具などまさに国宝級の物でしょう。そこまでのカードを切っているのですから相手も死に物狂いで探しに来るでしょう。」


エドは眉間にシワを寄せながら呟いた。


時空系の魔法は、この世界では最高峰の技術が必要とされ扱える人間は殆どいないとされる。また、出来たとしても短距離の転移が限界で先の転移を実現させるには、魔導技術が非常に優れていたとされる先時代文明の遺産しかありえなかった。もちろん、そんな遺産も出土数は殆ど無く、皇国にも一つしかない大切な国宝であっただろうと伺える。


さて、余談だが実はこの転移魔法をエドは使うことができる。王国の魔法騎士団長に珍しいからと教わっていたのである。

しかし、別にそんなにチートな話でもない。

転移をさせるにしても距離は10m先が限界。

生物、非生物を問わず手に触れている対象を転移させられるが50kgまでという制限付き。

大抵の兵士なら50kgなんて超えてしまうため、敵を10m上空にふっ飛ばすなんてことはできない。

また、転移によって対象と転移先の物質で座標の交換が行われるが、エドは空気以外の場所へは転移させられない。

つまり、敵の体内に凶器を転移させるなどの使い方もできない。

消費魔力も尋常ではなく3発も使ったらすっからかんである。

極めつけに自分を対象にすることもできない。


はっきり言って使えない魔法だが、エドは意外と気に入っている。



ーーーー話を戻そう


「あまり皇国側での星座について深くは知りませんが、どうやらかなりの南方、皇都にちかいのかもしれません。」


「そうですか、帝都付近となると歩いて帰るにはかなり時間がいりそうですね。さて、状況はあらかた整理できました。いくつかこれからのことについて決めないといけないと思いますが、まずは…」


そこでミラはいたずらっぽく笑みを浮かべて呟いた。


「とりあえず、今日から私は”ソールお姉ちゃん”ですよ弟くん!」

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