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出会い

「気を付けろ!そっちに行ったぞ!」

地面が割れてしまうような鈍い音と、男の張り上げるような声が聞こえてくる。何かに立ち向かっている、いや、何とか怯えを隠そうとしているような声だ。

「何かあったの...痛っ....」

身体を起こそうとすると、身体中に痛みが襲った。俺は身体を何とか起こして、周りを見渡した。

「え...何これ...」

周囲は草木でいっぱいだったのだ。俺がさっきまで見ていたあの夜景は?ビルは?車は?

「俺は....死んでない...のか?」

これは夢なのか?いや、だとしたらリアルすぎる。少なくとも俺の経験上では、夢の中で夢かどうかなどと疑問を持ったことはなかった。

「なんなんだよ...これ」

怖い。これは普通じゃない。いや、なんで俺は怖がっているんだ?俺は自殺したんだ。何も恐れる必要なんてない。気を確かに持てーーー

「おいっ、やめろっっ」

俺はその声に背筋が凍るようだった。今の声には聞き覚えがある。よく、いや毎日聞いていた声。

「あき...ら?」

目の前の草木が、急に色を失ったようだった。彰。俺はアイツに虐めを受けてきたのだ。

「い...嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ...俺は.....逃げてきたんだ...アイツから......逃げて...き...」

頭が真っ白になって、とにかく逃げようとフラフラの足を奮い立たせた。逃げよう。ここから逃げなくては。走ろうと左足を前に出したその時だった。

「うわっ!?」

俺は何かに躓いてバランスを崩し、そのまま前に倒れた。

「なっ、何だよこれ....って、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

目の前にあったのは、人だった。背中がパックリと割れ、血が流しながらうつ伏せに横たわっていた。俺と同じ制服を着ているから、同じ学校の...え、これって...

「隼人だ...」

隼人は彰と共に俺を虐めていた奴らの一人だ。こんな風になってしまうなんて...

「あ...れ......?」

何で俺はこんなにも怯えているんだ?俺は、死ぬはずだったじゃないか。何で今更怖がる必要がある?しかもコイツは死んだ。俺が生きてる。俺が勝ったんだ....

「おい隼人!」

奥の方から彰の声が聞こえた。

「って、悠じゃねーかよ...んなとこで何してんだ」

俺を見て馬鹿にするような彰の態度も、今なら怖くない。

「何って...見て分かんない?隼人が死んだんだ。何に襲われてるのか知らないけど、彰は何で死んでないんだ?」

「...ちっ、お前なぁ......」

こいつは死んだ友人を見ても動じなかった。本当最低だな。

「まぁいい。逃げんぞ。」

「は?ここまで来て俺に命令かよ。一人じゃ不安なのか?」

「お前...調子に乗ってんじゃねぇ」

彰は俺の制服の襟を掴んで引き寄せ、殴ろうとした。

「どうした?やってみろよ。その調子じゃ他の奴らも死んだんだろ?今お前には俺しかいない。俺はいいんだぞ?死んだって。お前が死のうが俺が死のうが俺の知ったことじゃないんだ」

「くそっ」

彰は俺から手を離した。最初からこの調子で行っていれば、普段から虐められることはなかったのか...いや、俺がこうなってしまったのには理由がある。彰とも、昔は......

「「ガァァァァァァ」」

突然の唸り声に、俺は驚いて後ろを振り向く。

「くそがっ...来たか.....」

彰が深刻そうな声で言ったので彰の方へと目をやると.......

「ワ...二...?」

大きなギョロッとした目、前に突き出た大きな口....いや、ワニはこんなサイズじゃないし、こんな赤くもない......

「何ぼさっとしてんだ馬鹿っ」

「うわっ!?」

彰に手を引かれ、俺は引かれるままに焦った。

「ドラ...ゴン?」

ちらっと後ろを見ると、大きな羽と、口から火が出てくるのが見えた。

「伏せろ!」

彰の声に俺はハッとして伏せた。すると俺の頭上をドラゴンの方から発せられた火が勢いよく飛び出してきた。

「なん...でこんなことに......」

「君たちが勇者様だからだよ!」

「は......?」

聞きなれない女の子の声。誰だと思い前を向くと、そこにはきめ細かい真っ白な肌、キラキラと光った、胸の辺りまであるサラサラの髪...

「金髪の...美少女......」

「び、少女?」

「何言ってんだテメェ」

目の前の女の子は照れたように笑った。

「へへへっ、褒められちゃった!」

あまりにもあどけない笑顔に吸い込まれそうになっていると、ドラゴンの唸り声が響いた。

「おいっ、馬鹿なこと喋ってる暇があったら逃げるぞっ」

なんだこいつ。一人で逃げればいいのに。そんなに一人が嫌なのか?今まで散々虐めておいて、さっきも俺のことを助けた。

「...分かったよ。女の子も危ないし。」

いや、待てよ?金髪の美少女?もしかしてこれって、俺が飛び降りる時に願ったことじゃ...あの時は確か流れ星が...

「君っ、逃げ遅れるよ!」

女の子は俺の手を取った。柔らかい。彰の時とは大違いだ。

「うっ、うううん!」

ドキドキし過ぎて噛んでしまった。恥ずかしくはあったが、このドラゴンに襲われるというハプニングのお陰でスルーさせてもらったみたいだ。



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