人質の被害者
「動くな!!」
今日は2つほどのご紹介である。
といっても、通販番組ではなく。男が武器を持ち、か弱い(?)女性を人質にとっている状態。
「く、来るんじゃね!この子の首、刺すぞ!!」
「っ……」
「そんな首元に刃物を当てるな!」
「五月蝿い!!」
ご安心ください。事件じゃないです。
警官3名。人質をとった相手を取り押さえるという、実技研修を受けているところであった。
”特殊警察”、ホントに特例的な事件に限って出動するところに所属している、鯉川友紀の監修、指導を元にやっているのであるが……。
「きゃー、止めて!離して!」
「お前も動くんじゃねぇ!刺されてぇか!良いから!金持ってこい!」
マジの切れる刃物でやっている。
「銃を降ろせーー!言うとおりにしろ!」
身柄が大事なのは当然である。しかし、正義が悪に簡単に屈しては
「なんのための警察だーーー!」
「こ、鯉川さん!」
「まったく!!最近、事件が生温いからって!平和ボケしすぎ!!」
一時中断。
人質と犯人役はそのままの状態で、鯉川は男性警官3名にご指導する。
「まず!身柄が大事!人質にとられた人は落ち着かせなきゃ!暴れるから、首元なんか刃物がいっちゃうんだよ!相手に屈した形で銃を降ろしちゃ、人質は余計に錯乱しちゃうわ!」
「わ、分かりました!!」
「アドバイスして、犯人にも刃物を降ろさせること!はい、続き!!」
そういって再スタートをするのであるが、
「お、終わってます……」
「え?」
人質役の清金純が犯人役の人を伸してしまっていた。それほど短い間で立場が逆転しているほどの光景。倒れた犯人役の腰の上に座って、スマホを弄っている清金。
「あ、始める?長いからさ。勝手にやっつけちゃった」
「早いよ!!どーやったの!?清金!!」
「犯人役が隙だらけだったから、投げ飛ばして振り払った後、顎に蹴りを入れて倒した」
「これ練習なんだけど!指導なんだけど!!大人しく人質役やって!!」
意識するなってのも無理あるが、鯉川と清金。控える村木は同い年。20代になったばっかりの、イケてる女性達である。
「いや、やっぱり無理かな」
「えーーー!?」
「40過ぎのおっさんに背をとられるのって嫌。あたしは女優でもモデルでもないし。この人、犯人役だからってさ、ないでしょー」
「いやいやいや!!やってよ!捕まってるだけなんだから!!私の対武器における指導を、この警官さん達にしなきゃいけないから!実践的にしたいから!」
軽い気持ちでやった時、強い後悔というものも出てくる。
「もーっ!村木!変わってあげて!!」
「はいはい。やるわよ、鯉川。清金ー、あんたって役がなってないわ」
「猫かぶりは村木の方が上手いじゃない。嫌なものは嫌なの。パピィとか、姫子とかいるじゃん」
「あのメスゴリラを人質になんかできるか。姫子は用事でしょ。っていうか、あたしがその代理」
続いて、村木が人質役となり、意識を取り戻した犯人役も続行。
後ろから刃物を首元につきつけ
「動くなー!この子がどーなるか、分かってるかー!」
「きゃーーー!助けてーー!止めてーー」
猫かぶりしている。その自信は確かであって、まさに襲われている女性と言える声とポーズをとっていた。
「銃を向けんじゃねぇ!」
「…………」
「か、彼女の首元から刃物をどかすんだ!そーしなければ、こちらも降ろさない!」
「うるせぇっ!」
「お前にその気がなくても、彼女が暴れたら体を切ってしまう!!こちらも降ろす以上、首元から刃物を降ろせ!」
「っ……!」
なかなか良い感じ。しかし、人質役の村木に突如、
「おい、テメェ……」
「?」
殺意、沸き立つ。
「くせぇ口でぎゃーぎゃー騒ぐんじゃねぇ!!!」
鼻フック!その一撃だけで拘束が解ける。村木は、
「危っねぇの、首につけんじゃねぇよ!死ね!!クソカス!!」
顔面をぶっ叩き、地面に倒した後に一発踏み踏み。たまらず、鯉川が村木を止めにかかる。
「ストップストップ!!村木、ストップ!!」
「離れろ!こいつ!あたしの首に刃物当てやがった!!くせぇ口でぎゃーぎゃー騒いだ!」
「ごめーん!マスクさせるから!それと、人質役なの忘れない!!」
「離せ鯉川!!くんくんっと、犬みてぇに匂い嗅いでたぞ!視線が犯人じゃなく、あたし達の体に向いてやがった!!この汚いおっさんがよ!!」
「事実だけど暴言過ぎーーー!」
2人のやりとりに唖然としている研修中の警察官達。清金はそーなるだろうと、溜め息をだしていた。そこで提案、
「鯉川、村木」
「な、なに?」
「こーいうのはどう?」
◇ ◇
10分後。
「おい!どクズ警官!!こいつがどーなってもいいのか!?」
「た、助けてー!」
「私達の仲間を解放しないと、こいつの命。いえ、……手の爪をまずは剥いでいきます」
犯人役に清金と村木。
人質役に鯉川。
清金が鯉川の両手首を握って、背後をとり。横で村木が刃物をつきつける。物凄く様になった人質役と犯人役。半泣きで、その助けをこう様
「た、助けてーーー!殺されちゃうーー!」
「似合ってるよ、鯉川」
「ええ、ホントに」
本当に演技なしに助けて欲しいという顔。
乙女の顔を助けるのが男だろうと、訴えたいが。後ろの2人は鬼と言える雰囲気で、鯉川を半泣きさせている。まともに戦えば、殺されてもおかしくない。
我が身が第一。
「いや!無理です!」
「鯉川さんが無理なら助けられません!」
「逃げます!!」
警官3人は怒られるなら、かわいいを選択して逃げる。
「そ、そ、それでもお前等警察かーーーー!!」
鯉川の断末魔だけが響いた。