まき編
まりなはとある屋上にいた。
不協和音を止められなかった責任、そして後悔。
消せない記憶ばかりが、彼女の頭を埋め尽くしていた。
彼女はまさゆきに通話をかける。
死ぬ前に一度、彼の声を聞いておきたかったのだ。
「ねえ、ちんぽ見せてよ」
かける言葉も見つからず、思わずそう言ってしまう。
本当はもう一度、笑顔が見たかった。
しかし、それは音声通話だった。
帰ってくるのは、笑い声だけ。
彼女は黙って通話を切ると、フェンスを乗り越える。
そして、彼女を支えていた足はその役目を終えた。
「ご苦労さん」
その言葉で、目が覚めた。
私は屋上にいた。
声がした方向に顔を向けると、フードをした何者かが立っている。
気のせいだ。
そう思いながら、私はまた飛び降りる。
それでも、目を開くと屋上にいた。
「お前はもう死んでんだよ」
また背後から声がした。
格好は男のように見えたが、声で女だと分かる。
いつからそこにいたの…?
「誰だよお前!ちんぽ見せろ!」
彼女は、私の問いかけを無視するように、再び口を開く。
「お前、みんなと出会った時の事は覚えてるん?」
みんなと出会った時…?
言われてみれば、皆と出会った経緯をあまり覚えていない。
気が付いた頃には、いつも一緒だった。
「偶然にしちゃあ、都合が良すぎるんだよなぁ」
謎の女は続けて言う。
「お前らの悲劇を作ったのはワシだよ」
衝撃の一言。
思わず言葉を失ってしまう。
「私のrequiemはね、死者の魂を操り、その苦しみを糧とする事ができるのさ」
こいつも、演奏記号を…?
「そんな驚いた顔すんな。既に使っとるわ」
彼女はいつの間にか後ろにいて、私はいつの間にか屋上にいた。
死者の魂…まさか!?
彼女の背後から、見慣れた二人が姿を現した。
「ななみ!?ゆきの!?」
二人の目は死んでいた。
無意識のうちに記憶を覗こうとするが、何故か覗けない。
「さっき言ったんだけどな~。お前も操り人形だって事を」
待って、どういう事…?
全く理解出来ないまま話が進んでいく。
「お前らはとっくに死んでたって訳」
そう言う彼女の後ろから、まあいも現れた。
私達は蘇らされたと言うの…?
「あぁ…ぁ…」
何も考えられない。意識が遠退いていく。
「まりなーーーッ!!!」
まさゆきが勢いよく扉を開けて、屋上に上がってきた。
「役者は揃ったみたいだね」
彼女は微笑む。
「ま、まき!?」
彼は、彼女を見てそう口にしていた。
それが彼女の名前なんだろうか。
そんな事すら考えられない。
やがて、私の意識は苦しみの中へと消えて行った。
「これは、どういう事だ?」
僕は問い掛ける。
目の前にはまきと、無表情の音操達がいた。
「こいつらの役目は終わったのさ」
彼女は冷たく言い放つ。
あの時、僕は彼女に救われた。
孤独だった僕に、手を差し伸べてくれた。
そんな彼女が何故ここに?この状況は何だ?
「記憶、戻してやるよ」
いきなり目の前が真っ白になった。
そして、見えてきたのはまりな、ゆきの、ななみ、まあい、そして僕だ。
みんな、笑顔だった。
「私は孤独のお前に、彼女達を与えたんよ」
…そうだった。
まきと出会ったあと、彼女達を紹介されたんだ。
僕達はみんな、友達だったんだ…!
不意に彼女達を殺した光景がフラッシュバックする。
僕はなんて事をしてしまったんだ…。
でも、僕には使命があったはずだ。
「お前も、音操なのか?」
彼女は笑い出した。
「ヌハハハ!そういやそんな使命与えてましたわ~」
そん…な…。
「お前の演奏記号はまだ完璧じゃない。だからあそこで死なれちゃ困るのさ」
ふざけるな…。
「演奏記号が集えば必ず悲劇を引き起こす。そして、お前を追い詰める」
うるさい…。
「そんなお前らの苦しみが、私の糧となるんだよ!」
彼女から闇のオーラが発せられた。
リミッターが外れたように、音操達が涙を流し始める。
そして、彼女はフードを脱ぎ捨て、指を鳴らした。
「ちんこの鎮魂歌!」
未完成
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。