ゆきの編
彼女は欲張りだった。
親が裕福だったので、欲しい物はいくらでも手に入った。
だが、時間だけはお金で買うことができなかった。
それ故に、退屈な時間だけが積み重なっていく。
楽しい時間を何度もやり直せたら…。
彼女は何時しか、そう願うようになっていた。
そうして、彼女の演奏記号は生まれた。
しばらくして、彼女はまあい達と出会う。
退屈な時間は、みんなと過ごすうちに無くなっていった。
彼女はとても、幸せだった。
そう、あの日までは…。
彼女はまあいに呼び出され、まさゆきを殺すよう命じられる。
すぐに答えを出したななみに驚きつつも、後に続いた。続くしかなかった。
それしか、生き残る道が無かったのだ。
あたしは今、彼を殺している。
何度も、何度も、殺している。
目の前で彼が倒れている。
いつでも止めを刺す事はできた。
でも、演奏記号があたしの言う事を聞かない!
こいつはまりなを殺した。
だから許せない!
そう思っても、彼女が放つ弾丸が彼を仕留めることは無かった。
彼女は分かっていた。
悪いのは彼ではない、この不協和音のせいだと。
焦りから、とても残酷な言葉を言い放ってしまった。
本当はこんな事、したくないのに。
彼女はその当ても無い苦しみを弾丸に変え、彼を撃ち続ける。
そして気が付けば、足を掴まれていた。
彼の生きようとする意志が、彼の手からひしひしと伝わってくる。
そしてそれは、彼女に残る僅かな殺意を奪い取った。
思わず倒れ込んでしまう。
手に力が入らない。銃はもう、彼の手にあった。
「待って、あたしは・・・」
あたしは敵じゃない…!
そして、銃声が聞こえた。