ななみ編
私は、静かな空間が大好きだった。
いつの間にか、身近な音を自由に消せるようになっていた。
けれども、まあい達といる時間は違った。
彼女はその賑やかさを、次第に好きになっていた。
そして、あの事件から数週間後に突然、まあいに呼び出される。
「まさゆきを殺して」
まあいは衝撃的な言葉を口にする。
一緒に呼ばれていたまりなとゆきのが異論を唱えている。
しかし、既に私達が知っているまあいではなかった。
彼女から発せられる殺気が、二人を黙らせる。
逆らえば、殺される。そんな気がした。
「分かった」
私はそう言うと、困惑する二人を後にしてその場を立ち去った。
そして今、私はまさゆきと対峙している。
彼が、私に関する記憶を失っているのが幸いだった。
私の事を思い出していたら、殺せない気がしたからだ。
そして、私は引き金を引いた。
これで全て、終わるはずだった。
なのに、彼は立ち上がった。
彼の演奏記号が目を醒ましていた。
全部、思い出したんだ…。
実際はななみの事を全て思い出していた訳ではない。
走馬灯で見た笑顔だけが、今の彼に残っている記憶だ。
勝ち目が無いと分かっていながら、彼女は銃を撃ち続ける。
記憶を取り戻した彼に、何か言われるのが怖かったのだ。
そして、ついにその時が来た。
何も知らない彼が止めの一撃を繰り出してくる。
自らの声を消した彼女の慟哭は、最期まで静寂に包まれていた。