まさゆき編
彼は、孤独だった。
家族にすら、人として扱われることは無かった。
ただ、現実から逃げ出したかった。
何もかも、終わらせたかった。
そして彼は、『fine』の演奏記号を手にする。
演奏記号とは、その人の強い気持ちがそのまま形になったもの。
その力を創り上げたのは神でも奇跡でもなく、彼自身なのだ。
でも、彼がその演奏記号を使う必要は無かった。
彼を孤独から救ったのは、まあい達だった。
人との接し方はあまり分からなかったが、彼はなんとなく笑顔でいられた。
彼の走馬灯に映ったななみの笑顔は、その時の記憶だ。
昔は皆、かけがえのない友達だったのだ。
悲劇は、彼がまあいの下着を盗み見た事から始まる。
ほんの出来心だった。それが、彼女の逆鱗に触れた。
そして彼は、大切な思い出を失った。
最上階でまあいの容姿に驚いたのは、彼がその記憶を消されていたからだ。
まあいは罪滅ぼしのため、まりなに頼んで彼から自分に関する記憶を消させていた。
しかし、記憶が無い彼が生き続けている事が、まあいの弱い心に限界を迎えさせた。
纏わり付く苦しみが、彼女を支配する。
挙句の果てに、音操として彼を殺すよう、皆に命じたのだ。
その強大な力に、逆らえる者はいなかった。