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さすらい猫と、残酷なあの子


さすらい猫は、さすらって、

さすらい猫は、泣いていた。



さすらい猫が朝陽に向かって、

希望に燃えてニャーニャー鳴いてた。


そんなきれいな青い時代も、

確かに昔、あるにはあったが、

さすらい猫は、緑の森の

奥の小さな山小屋で、

あの子に出会ってしまったんだ。


あの子と言ってもそれは見た目で、

本当の年は自分も忘れた、

あるいは忘れたことにしている、

もう世を捨てた、魔女だった。


魔女は確かに「魔」だったし、

いたずら大好きっ子でもあるので、

さすらい猫が餌食になって、

やりたい放題、弄ばれた。


いろんな楽しいいたずらも

さすらい猫には煩わしくて

もう出て行くよと腹を立てたら、

魔女が寂しく笑ったんだ。


その微笑みに猫は負け、

その瞬間からさすらい猫は、

魔女の下僕に成り下がり、

……………………………

魔女の希望の猫にもなった。


いつでもどこでも魔女に従い、

いつでもどこでも魔女と遊んで、

望まれた時はいっしょの布団で

いやらしくはなく横で寝た。


そのときすでに猫は魔法で

可憐な可愛い少女になってた。


別に魔女と寝たって言うのは

そんな意味ではない意味よ、

森の奥での冬は冷えるし

暖めあって寝たって意味よ。


さすらい猫は、魔女が好き。

魔女も、さすらい猫が好き。


そうして楽しい月日は流れ、

猫の寿命はやってくる。

楽しい楽しい夢の暮らしは、

いつかは終わりを告げるもの。


別に猫はそんなことって

当たり前だと思っていたし、

残る魔女の孤独を思うと、

確かに切なくなるけれど、

それこそ寿命と言うもので

猫にどうすることもできない。


そして猫が死にゆく日、

ありがとう

と魔女に告げ、

本当の感謝の気持ちを告げて、

最後の最後に魔女のことが、

ほんとにほんとに好きだったと知り、

あえなくなることただそれだけが、

悲しいことに気づくのだった。

自分がこれから死ぬことよりも、

二度と魔女と会えなくなる、

その悲しさが心を締めつけ、

その愛しさに泣いたのだった。


猫の涙が引き金なのか、

もはや理由はわからない。

魔女の姿が、突然消えて、

猫は命を、再び得たのだ。


魔女が突然消えたわけ?

猫には理由がわからない。


猫が死なずに生き返ったわけ?

若返ったわけ?わからない。


猫には聞くべき相手もない。

猫が直前泣いた涙を、

魔女のために泣いた涙を、

今、魔女ではなく、自分に向ける。


それが、最期の、奇跡だとして、

それが、奇跡の、魔法だとして、

それに、何の、意味がある!

生き延びることに、何の意味?


魔女に会えない、これからの日々、

もはや会えない、これからの生。


それを愛だと言うのなら、

魔女よおまえのその愛は、

魔女よ、おまえのその愛は、

あまりに残酷ではないか。


さすらい猫はその日から、

『さすらい』猫になったのだ。







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