化け猫の物語 1
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遠い昔、
私はあなたを見限った。
それはそれは好きだったけれど、
あなたの裏切りに傷つけられた私は、
あなたの顔を見ることさえ受け付けられなくなり、
あなたと袂を分かったのだった。
遠い空から声がする。
あなたが私を呼ぶ声がする。
もう、ずいぶん前に縁を切ったはずなのに
あなたが私を呼ぶ声がする。
それは、異国で歌うあなたの歌声。
まるでこの世には絶望しかないと
信じ込んだ
異常なくらい暗い、
それでいて伸びのある
声であなたは歌う。
歌う歌は、
明日への希望に満ち溢れた、
男と女の旅立ちの朝の唄。
歌詞と声がちょうど綺麗な正反対で
そのズレが、心地よいと
すっごい評判になり、
私の国にまで、聞こえてきたと言うわけ。
それはあなたは、
心をメロディーに乗せることができる、
数少ない天賦の歌手だものね。
どんなに有名になっても、驚かないわ。
だけどあなたが本来、
その歌をそう歌うと言うのは
ちょっと違うと思うわ。
あなたは楽しい歌は楽しく
前向きな歌は前向きにうたう、
はっちゃけた歌も大好きだったし、
明るい笑顔でうたうとき、
とても素敵な愉快なピエロも
演じ切っていたじゃない?
それがあの明るい歌を
あんな声で歌うなんて。
今、誰があなたの周りにいるの?
どうしてあんな歌い方しかさせてあげられないの?