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夢だから? 甘い猫のキス……


ねぇ、想い描いてみて?


言葉がまったく通じない世界、

彷徨さまよいたどり着いた

行き倒れの

1人(人って)で歩いてきた猫だったから、


じゃなくて。


この国で、

同じ言葉を話す人々と、

話しても話しても、

なにひとつ、

私の言う言葉が伝わらないんだ。

猫だから、にゃ〜にゃ〜としか

聞こえないからさ、


じゃなくて。



まわりの人の言葉はわかるのに、

私の言葉はみんなに届かない。


深い海の底を、

ひとり、歩いて

いるみたい。



高い雲の上を、

ひとり、歩いて

いるみたい。


どんな優しさも、

愛の言葉もこれっぽっちも届かない

孤り、棒立ちで生きている、

そんな静かなくらしのなかで

私は、あなたを、知ったんだった。


あの夜、

あなたからいただいた

キラめくダイヤモンドの光のような

真心を今も持っている。


遠い異国から来た毛並みの良い、

猫のブルース歌手らしいという嘘は

猫の毛の先ほども信じなかったけれど、

あなたの心の底深くに流れている

猫らしくない優しさだけは

なぜだか顔洗うあたりまえより無条件に

信じることができたんだ、

あなたの、三日月を思い起こさせる

銀色の眼をちらっと見ただけで

たやすく、忘れがたく、

信じることができたんだ。


『春がまだ来ないだろうか?』


あなたと2人で桜の花の下に立ち、

愛を確かめ合いたい。


それは、抱擁から始まる

愛の作業でなくて良い。

ただ、数秒間見つめ合うだけで

あたたかい気持ちの時間を過ごせる

花びら落ちくる夢色空間に

たゆたう甘いささやき声で良い。



それは確かめ「合う」じゃなくて、

たったひとりで、「確かめる」だね。


どうしてあなたはそんなつれないことを言う?

私の心を弄ぶように。

あなたは私を愛してなどいないと言いたいの?

素敵なキスをプレゼントしておけば良かったの?

(嘘。言ってみただけ。)

(あなたのくちびる、奪いたいだけ。)

寂しさを上塗りするかのように、

私の心は涙色になっていく。


『空を自由に泳ぐ燕はまだですか?』


その時が来たら、私はきっと

あなたの前から消え去るだろう。

その時になって、寂しいとか言ったって

知らないよ?

私の心を弄んだバツさ。


『遠くで聞こえる幸せそうな鐘の音は、

愛する2人の結婚のお祝いの鐘?』


私とあなたにそんなものが訪れないことが、

当たり前すぎて泣きたくもならないよ。


今夜流れるふたご座流星の群れが、

私の心に猫のプライドを与えてくれるのか?


『夢のひとひら、味わいな?』


野原に寝転がって観る星空は綺麗で、

星々のきらめく音さえ聴こえる、

(星の音? ああ、夢か?)

横にいるあなたのキスはとても優しくて、

(ゆめなかキスって、ちょっとやらしい……)

私はもうこんなにも愛に酔ってしまっている

(とろ〜んとした眼で、あなたを見つめるわ)

幸せなひとときを

(だって、夢なんだもの)(ね?)

この人生(人って、猫のくせに)で

(どうして私は、猫なんだろう?)

2度と味わえるわけがないと

(くやしくて、くやしくて、)

(くやしくて、くやしくて、)

(くやしくて、いとおしい)

知っている。


ええ、なぜだか知っているのだ。

(二度と見れない、夢だから……)

(ええ、夢だから……ね?)









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