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友達の姉が妊娠した。

作者: 多川想人

同級生の友達の姉が妊娠した。当の彼氏は名乗り出ず、姿を消した。

父親は誰なのかと、彼女の親は必死に問い詰めたけれど、彼女は頑なに名前を言わなかった。

その家族と長く付き合いのある僕は十歳上の彼女のこともよく知っており、その分深く同情したけれど、自分も高校一年生で何もできることはなかった。

仕方のないことだ。後ろめたさを感じながらもそう思った。

そして、妊娠が発覚して何週間か経った頃のある晩、車に乗った友達が兄と一緒に僕の家の前に来た。

その兄は僕もよく知っており、僕たちより3歳上で、高校を卒業してから進学せず、工場で働いている筋骨隆々な身体をした人だった。華奢な僕と友達に何度も筋トレしろと言っていたが、ついぞそのアドバイスを聞くことはなかった。

兄は運転手側の窓を開けて僕に言った。

「姉貴を妊娠させた奴が誰だかわかった、これからそいつをぶっ殺しに行くんだ。お前も来い」

僕は驚きそれが誰なのか尋ねた。その問には助手席に座る友達が答えた。僕も知っている奴の名前だった。

そいつは僕たちと同じ高校に通う奴で、女癖の悪いことで有名だった。年上だろうと年下だろうと、誰彼構わず手を出す彼が疑われるのはある意味仕方ないことだった。

僕は一応証拠はあるのかと聞いたところ、彼女と一緒に街中を歩いているところを最近見たという奴がいたらしい。彼女も男遊びが好きな人だった。

「だから、お前も来いよ。姉ちゃんを妊娠さして放っぽった奴だぜ」友達は言った。

姉思いな弟を二人も持って幸福だなと思った。

確かにこの友達とは幼馴染で、その家族とも深い関係にあった。けれど僕は内心複雑な気持ちでいた。

疑いを掛けられている奴とも仲が良かったのだ。

悪い噂が断たない男ではあったけれど、話すと案外良い奴だった。一緒にナンパに行ったこともある。

僕は少し考えた。友達とその家族と、女癖の悪い友達とどっちを優先するべきか天秤に掛けた。

そして車に乗った。

奴はすぐに見つかった。例のごとく街のカフェで女の子と喋っていた。

僕たちは彼を路地裏に引っ張り込み、メタクソにぶっ飛ばした。友達は鉄パイプで殴り、兄は自前の腕力で殴りつけ、僕は一発蹴りを入れた。彼は終始何事困惑していたけれど、途中で叫ぶこともできず、諦めて道端にうずくまった。

ぶっ殺す、とはいったものの、当然殺しはしなかった。


帰りの車の中、興奮する友達とその兄はお互いを褒め称え、僕のことも称賛してくれた。

「やっぱり、お前は信用できるぜ」と友達。

「もう俺たちと家族同様だな」と兄。

二人の笑顔は太陽よりも明るく僕も釣られて笑ってしまった。

そして急激に後ろめたさが襲ってきた。

僕は後ろの席で、前の二人に気づかれないように携帯を取り出し、最新メールを開けた。

もう何度も読み返した文面を再度読み返した。


『妊娠してしまいました。もちろん家族にあなたのことは言っていません。これからも言うつもりはありませんので心配しなくても大丈夫です。もとはといえば十歳も上な私の責任であるし、まだ高校生であるあなたを束縛したいとは思っていません。でもこの子は産むつもりです。これからもこの世にあなたの子供がいることを覚えていてください』


街の明かりが高速に窓の外を過ぎ去っていった。



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