第十四話 エゼルの必殺技と新たな武具の完成
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宿に併設されている酒場で久しぶりに五人で昼食を囲んでから、リブティヒの郊外に足を向けた。その場所は村の門から三十分程歩いた森の一角で適度な広さがあった。
前日にヒルダが見つけ、リピーターの練習をしていた場所である。
広場の奥の立ち木にはリピーターの練習の痕跡がありありと残っている。全て抜いてはいるが、深々と刺さった矢を強引に抜いただけの痕跡が。
他に、地面を刃物で削ったような痕跡が数多く残されていて、命中精度は今一つと言ったところだろう。
スイールが与えた役目だと、アイリーンと共に遠距離からの援護と炎の暴息からの防御が主であるとされている。
命中精度に関してはそれほど重要視していないと言うが、当たるに越したことはない。元々ヒルダは弓の扱いが上手ではないので、的に掠るくらいでも御の字であるのだが……。
そのリピーターだが、標準的な弩の上部に矢をストックする箱が装着されている。簡単に言うと、狙いを付けにくい武器と言えるだろう。
使いにくい武器でそこそこの命中率であれば今回に関しては問題ない。
金竜のゴールドブラムもそうだが、同じ竜種の赤竜ならば雄たけびの方向に向けて矢を射かければ目を瞑っていても何処かに当たる筈なのだから。巨体故に、的選びには苦労しないだろう。
「ちょっと見てて~」
ヒルダはめいっぱいの笑顔を久しぶりに会ったエゼルバルドに向けるとリピーターを的に向けて放ち始める。
数秒おきにリズムよく練習用の矢が打ち出され、数本が的から外れて後ろの木に突き刺さっていた。
命中率は七割ほどであろうか。とは言っても的の中心に当たった本数は皆無。アイリーンであれば九割九分は中心に集まっているだろう。
「ま、こんなもんね!」
「まぁ、良いでしょう」
「やるな!」
距離もだいぶ離れて五十メートル程ある。
出来を見れば及第点をあげられるだろう。
本当は一本くらい、間違えて中心に当たってくれても驚かせてくれても良さそうなのだが……。
それでも、援護には十分な腕前だと皆が称賛を贈れば、”えへへへ……”と頭を掻いて顔を綻ばせる。苦手な弓で褒められてかなり嬉しそうだった。
「ヒルダは滞在中は練習を欠かさないようにね」
「は~い!」
手にした二日目でそこそこの命中率(それほど良くないが)を見せたとスイールは満足して言葉を掛けると、ヒルダは笑顔で返事をしてくる。
普段の生活の中で見せぬ、子供っぽい笑顔はスイール達に和やかな雰囲気を与えてくれた。
「では、エゼルの成果を見せて貰いましょうか?」
「わかった!」
「ふむ!興味深いな、これは」
ヒルダの現状を把握したスイールは、真顔に戻り本命のエゼルバルドに向き直る。前座となってしまったヒルダには申し訳ないが、エゼルバルドの訓練の成果が気になって仕方ない。
当然、戦闘に耐えうる程に訓練をして来たと期待するのであるが……。
そこにヴルフが合いの手を出した。
彼もエゼルバルドの成長具合が気になって仕方がない。
そんなスイール達の思いを余所にエゼルバルドは試し切りにと程良い太さの立ち木を探してそれに近づく。ヒルダが的にしていた立ち木にしても良かったが、的を作り直すことも面倒なのだ。
「まぁ、これくらいでいいかな?」
立ち木を下から舐めるように視線を上に動かして、満足そうに頷きながら呟く。
そして、立ち木から数歩退いてから腰にぶら下げているブロードソードをスラリと引き抜いた。
真昼間で眩しいほどに太陽が輝きを放っているにもかかわらず、その刀身は光に負けず淡い白い光を放っていた。
エゼルバルドは深呼吸を数度行うと、スイール達が固唾を飲んで見守る前で魔力を集め始める。
ブロードソードの柄頭に装飾としても鎮座している黒い魔石が淡い青色に変って行く。魔石を通してエゼルバルドの魔力が吸い出されている証拠だ。
その魔力が伸ばした左手の前に集まって行く。
目に見えぬ魔力の塊は普段の魔法を使うような球形の塊ではなく、細長い剣を形作る。
これが金竜ゴールドブラムとの訓練で得た成果である。
エゼルバルドは訓練を始めた当初、教科書通りにまず魔力を集めてから剣の形状に変形させていた。
魔力を集めるだけだったら剣を振るいながらでも片手間で可能である。
だが、集めた魔力をゴールドブラムが振るわれる鋭い鉤爪を躱しながら変形させられなかった。
そうなると、せっかく集めた魔力が全て霧散してしまい、幾度も無駄にしてしまった。
さらに、集めてから変形させる為に予想以上に時間が掛かってもいた。
疲れ果て、半ばあきらめかけた時に新たなことを思いついた。
集めてから変形させるのでは時間が掛かりすぎる。ならば、集めている時の形状を最初から剣の形状にしてしまったらどうかと考えた。
発想の転換。
理由は幾つかあるが、大きな理由は二つ。
一つは集めた魔力を剣の形状に変形させる時に霧散させてしまうので魔力の無駄が多い。
もう一つは魔力を集めてから変形させているので時間が掛かる。
だから、集めると同時に剣の形状にさせてしまえば良いのだと運用を変えてみた。
初めは動かぬ状態から、それに慣れたら剣を振りながら。
最後にゴールドブラムとの打ち合いで、段階を踏んでじっくりと訓練に打ち込んでみた。
その成果がスイール達が目の前にしているエゼルバルドの姿である。
剣の形にした魔力の塊でブロードソードを覆い、それを剣に押し込めると同時に炎の魔法に変換させる。
それにより、淡く白い光を放っていたブロードソードの刀身が熱せられた鉄の様にオレンジ色の輝きに瞬時に変る。
魔力の塊は無色透明で存在の揺らぎを認識しなければ視認できない。
スイールとヒルダは何とか魔力の塊を脳裏に認識していたがヴルフとアイリーンにはそれが感じられず、エゼルバルドの気配が変わった数秒後に突如剣がオレンジ色で塗られたように感じるしかなかった。
「やあぁーーー!!」
オレンジ色に輝きを放つブロードソードを両手でしっかりと掴み上段に構えると目標の立ち木に向かい一足飛びに切り掛かる。上段に振り上げた剣を右にゆらりと構えを変え躊躇なく袈裟切りに剣を振り切った。
そして、縮まった膝のばねを利用して後方宙返りで立ち木から距離を取ると、剣をヒュッと振り、魔法を解いて汚れを吹き飛ばすとゆっくりと鞘に納めた。
パチンと音を立てて剣が納まると同時に、立ち木に斜めの線が引かれる。
立ち木に外周全てに線が引かれると同時に、ズズズと耳慣れない音が聞こえ、立ち木が動き始める。そして、エゼルバルドが切り裂いた立ち木は二つに分かたれ、”ドスン”と土煙を上げて地面に横たわった。
その切り口を見れば綺麗に切断されているが、鋸や斧で切り倒したような生木ではなく、火事が起こったかのように高温に晒され真っ黒に炭化していた。
これが魔装付与・炎で強化した剣を使って切り裂いた断面の特徴となる。
切り口が真っ黒に炭化している事が示す通り、魔装付与・炎が施された武器は高温を発する。実際、武器自体が高温になるのではなく、うっすらと武器を覆っている魔法が熱を発しているのだが。
その魔法が接触した場所が魔力と結合して瞬時に炭化させるのである。
その、切り裂いた断面を見ようとスイール達は立ち木の周りに集まって来た。
「なるほど、いやいや、見事としか言いようがありませんね」
「これほどの太さ、ワシでも無理だわい」
直径約五十センチ。
エゼルバルドのブロードソードの刀身は八十センチ。
その差三十センチも余裕がある様に見えるが、本来、剣で大木を一刀の下に切り倒すなど、どんな達人でも不可能である。そう、切り口をまじまじと見つめるヴルフでさえも。
その刹那、ヴルフはブロードソードを引き抜くと横たわった大木に向けて目に見えぬ速さでそれを振り下ろした。
「ふんっ!」
だが、ヴルフの振り下ろしたブロードソードは”ガッ!”と鈍い音を辺りに撒き散らし、大木に僅かばかりの傷を付けて刀身を幹に埋めるに留まった。
「本来はこれが普通だな。エゼルの魔法が異常だと言えるだろう」
ブロードソードを大木から抉る様に引き抜きながらヴルフが魔法の威力が絶大だと言葉にする。
例え、非破壊属性や鋭利化の魔法を付与された魔法剣であったとしても同じ戦果は無理である。板金属鎧で覆われた人の体を両断する技量を持っていたとしても、だ。
だから、無い物ねだりをしてもヴルフは使いこなせる筈もないと、早々に諦めるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数日、エゼルバルドとヒルダを中心に広場を使って集中的な訓練を行った。
成果は微々たるものであったが、リピーターの扱いをほぼほぼ実戦運用できるまでなり誰もが満足していた。
そして今日、スイール達は連絡をラドムの工房へ足を運んでいた。
「おう、出来てるぜ。注文通りだと思うがな」
前日にラドムの使いが装備品が出来上がったと知らせに来ていたからだ。
工房へ入ると目に飛び込んできたのは、その場の雰囲気に逆らうように異質な輝きを放つ二つの武器防具群、立て掛けられた棒状万能武器と塔盾だ。
塔盾の表面は金竜ゴールドブラムの金色に輝く羽根を使っているから金色に輝きを放っているかと思ったが、予想に反して鉄本来のくすんだ銀色をしていた。
その横に立て掛けてある棒状万能武器も同じだ。
中空に仕上げられた金属製の柄を使うヴルフの棒状戦斧と違い、赤い樫の木を柄に仕上げられている。
その先端に装備された飾り気のない斧と何物をも突き通す鋭い切っ先の穂先にも金竜の羽根が使われているが、これも鉄と何ら変わらぬくすんだ銀色で仕上がっている。
その他に二組の矢の束もテーブルに置かれているが、これも見事な仕上がりである。
アイリーンの長弓に添えられた矢は矢羽根こそ鳥の羽根を使っているがそれ以外はすべて金属製だ。しかもや本体と矢尻の色合いが多少異なり、どうやって繋いでいるか不明だった。
弩の矢も同様であるが、こちらは分かりやすい。
通常の弩で運用を考えているとスイールから告げられていた事から、矢本体はどこにでも売られている木製。だが、先端の鏃だけは金竜の羽根を使った特別製。
「注文通りですね。ヴルフにエゼル、棒状万能武器はどうですか?」
ヴルフとエゼルバルドはそれぞれ棒状万能武器と塔盾を手にするとラドムに案内され工房の裏へと向かう。
そこで右腕に棒状万能武器を、左腕に塔盾を掴んだまま軽く振り回す。
硬い樫の木の先端に斧と槍の穂先。先端に金属部品が付けば重量バランスが崩れる、普通はそう考えるだろう。しかし、ラドムは振り回すだろうと予測し、石突をそれと無く大型にしてバランスを取ってあった。
「片手で自由にっ、て訳には行かないけど具合は良いよ。手触りも最高!」
「確かにな。振り回すにはちょうど良いな」
エゼルバルドは左手に塔盾を掴んだまま振り回していたが、ヴルフは塔盾を傍に立て掛け両手でブンブンと振り回し、二人共が満足気な表情を見せている。
「それで、塔盾は良かったのか?」
棒状万能武器は渾身の出来だったが、塔盾に至っては量産されている市販製品を短く切りそろえ表面に金竜の羽根を使った金属を薄く張り揃えただけの簡素な作りをしている。
人がちょっと屈んだだけですっぽりと隠してしまう程の大きさを誇っている塔盾だが、赤竜との、いや、竜種との戦いではその巨大さは振り回すには不利になる。それを片手で振り回せるまで小型、軽量化した。
「ヴルフとエゼルが振り回しているんです。十分でしょう」
「そうかぁ?竜種が力を入れればぶっ壊れてしまうけどよぉ……」
だが、スイールは”それでいい”と答えを返した。
盾は物理的な攻撃から身を守る防具だ。矢を弾き返したり、剣戟を逸らしたり、また盾そのもので打撃を与える事もする。
それでも、竜種と呼ばれる人の想像の斜め上を行く存在には足りぬだろう。
今回、ラドムに注文した塔盾は物理的な攻撃から身を守る役目を与えられていない。
それは、スイールやヒルダが発動させる魔法防御の代わり、つまり、竜種が吐き出す炎の暴息の防御させるためのものだ。
「竜種が敵なのですから、どんな武器でもすぐに壊れてしまいます。それぞれに役目を持たせなければ戦うなど不可能ですよ」
スイールはラドムとの会話をそうやって締めくくった。
「で、アイリーンはどうですか?」
調整の終わった長弓を受け取り一度、二度と空撃ちをしてみる。
アイリーンの耳には音が変わったようには聞こえなかったが、からくり部分が適正に組みつけられているのか今までよりも弱い力で弦を引けると驚きを隠せずにいた。
「今まで苦労してたのは何だったの?って思うくらいよ」
「だろうな。随分とヘタってたから頑丈に作り直しをして置いた。ま、初期性能に戻っただけじゃがな」
「あの~、それだけで十分なんだけど……」
”かっかっか”と高笑いするラドムをアイリーンはジトッと目を細めて横目で呆れるように視線を送った。
初期性能に戻すだけでもどれだけの技術が次ぎ込まれているか、全く予想が付かない。ラドムは笑い声の中に絶対の自信を見せている。
「そうそう、こいつを渡しておこう」
ラドムは、一通り武器の具合を確かめて額に浮かべた汗を拭くヴルフに手にしていた金具を渡した。
「これはなんじゃ?」
「その棒状万能武器の柄が折れて使い物にならなくなったら、穂先だけをお前さんの棒状戦斧に取り付けるための金具だ。使わんかったら捨ててくれれば良い」
棒状万能武器の柄を硬い樫の木で作成したとはいえ、竜種との戦いでは折れる可能性が非常に高い。
それ故に穂先を棒状戦斧に移設させて、なんちゃって棒状万能武器に改装させてしまえと考えたのである。
「そう言う事か。遠慮なく頂いておこう」
ヴルフは”そうなったときは遠慮なく使おう”と、ラドムに嬉しそうに答えるのであった。
※必殺技と新たな武具が出来上がりました。
これから赤竜退治に出発です。




