第二十四話 帝国が動いた!
※後半は世界情勢の説明です。
読まなくてもわかるかなぁ・・・。
基本的には帝国の……うわ、やめろ!
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「何とか入れたか……。クリフ様は疲れていませんか?」
スイール達は当初の予定通り、ツァーノの街へと到着し、門番に少ない賄賂を握らせて何とか街の中へと入る事が出来た。
ミルカは気丈にふるまうクリフに近づき声を掛けた。
空気の薄い山道を散々歩き、標高千五百メートル付近にあるコピリーから一気に三百メートル付近にまで降りるまで休み無く歩き回っていれば、歩きなれた大人でも疲労の色が濃く写す。
そこを成人してない子供が自らの足で歩けばその疲労度は想像以上に溜まっている筈である。だが、クリフは苦痛の表情を見せずに淡々と口を開くのだった。
「ミルカ、ありがとう。殺された兄弟や親類の事を思えばこんなの疲れた内に入らないよ」
「その言葉、皇帝陛下にもお聞かせしてあげたかった」
歩きながら従者兼護衛のヘルマンが涙を流しながら呟いていた。老齢な彼は涙もろくなっているのかもしれない。
「さすがにこのまま歩き回っていたんじゃ目立ってしまうな。何処か宿を取ってひとまず休憩しよう」
その提案に誰もが首を縦に振って賛成すると、手っ取り早く見つけた宿へと入って行った。
街の雰囲気もそうだったが、宿での雰囲気に違和感を覚えながらも三人部屋を二つ押さえると早速体を休めようと部屋へと向かった。
スイールのみ一人部屋でと思ったのだが、宿内でのクリフの護衛をヘルマンと共に任せるとして、スイールはクリフとヘルマンと同室になった。
ミルカはと言えば、常に連れ立って旅しているヴェラとファニーと同室になっている。 元々、ミルカとヴェラは結婚したことになっており、二人が一緒の部屋で過ごすには何の問題も無かった。
ファニーの立場はと言えば、ミルカから主従の立場以上の関係を求められる事無く、男女の関係になる事は無かった。ファニーに女性としての魅力が無い訳ではなく、ミルカの男としての視線はヴェラにしか向いていなかった。
なぜ、ミルカとヴェラの仲の良い二人にファニーが付いて行っているのか、ファニー自身もよくわかっていなかった。
ミルカ達と別れても、何も言われないかもしれないが、彼女の女のカンがそうさせていたのだ。だから、二人の熱い仲を見せられても、嫉妬心すら沸いてこなかったのである。
部屋に入り荷物を置くと、早速ミルカ達が取った部屋へと集まった。
「スイール殿は喋れなくて申し訳なかったな」
「いえ、お気遣いなく」
ツァーノの街に入るにあたって、スイールは一言も発しなかった。
これがトルニア王国と友好国のスフミ王国やベルグホルム連合公国であれば誰が話しても構わない。
だが、ここは他国と友好関係を締結していないディスポラ帝国の一都市である。スイールの言葉遣いを聞けば、幾ら気を付けているとは言え帝国特有の言葉遣いや発音で他国からの旅行者、もしくは諜報部員と間違えられてしまうかもしれない。
それを気にしたミルカが前面に立ち、交渉ごとにあたっていたのである。
それはヘルマンも同じである。
ただ、彼の場合は帝国の発音であるが、言葉遣いが綺麗過ぎて逆に疑われてしまう可能性を危惧したのである。
「それで……街に入った時もそうだが、宿でも違和感を感じなかったか?」
「そういえば何処かピリピリと気を張ってる気がしたわ」
街並みはトルニア王国とよく似てて人々の往来もかなり多かった。
街の北東側、川を挟んだ先にはルカンヌ共和国の国境まで二百キロ以上もある広大で肥沃の大地が広がっていてツァーノの人口はかなり多いはずだった。
それにもかかわらず、屋台も自粛しているのか大通りには一軒も見えず、不思議な光景を目の当たりにしていた。
そして何より、街を守護する官憲隊が必要以上に多く、街中で事件が発生したのではないかと思うほどだった。それを裏付けられるだけの情報を得られていない今は大人しくしているしかない。
それが市民に伝播しているのか、山道を歩きくたびれた格好をしているミルカ達に向けられる視線が痛く突き刺さっていた。
「守備隊、ここでは官憲隊というのだったな、それがかなりの数を街中で見たのはそれ以外に理由があったりするのか?」
スイールの目には異様な光景、とは言え、事件が起こったと思われる以上の理由があるのではないかと写っていた。事件が起こったのであれば街中で、それも人通りの多い道路の脇で数十メートルおきになど立っている筈も無い。
それならば何をしているのかとの疑問が残る。
「わからん。なにせ、帝国で過ごした時期もすでに過去だからな」
「それは私とて同じ事。理解に苦しむ」
「何にしても少し調べてみる必要があるな」
スイールの質問に答えられるだけの情報は久しぶりの帝国領に入ったミルカやヘルマンには持ち合わせていなかった。当然、ヴェラやファニーもそれは同じである。
その後、クリフとヘルマンと、二人と同室で念の為と護衛を任されたスイールを宿に残して、ミルカとヴェラ、そしてファニーの三人はこの宿を中心にして、情報を得に出て行くのであった。
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スイールやミルカ達が帝国領内ツァーノの街へと到着した十月下旬から一か月程前にさかのぼる。実際にはブールの街を出発してオグリーンの村を目指していた四日目にあたる。
彼等の耳には全く情報が届かなかったのだが、この日、トルニア王国、ベルグホルム連合公国、そして、アーラス神聖教国の三国では大きな事件が勃発していた。
ベルグホルム連合公国ではアルバルト山脈の麓に位置し、国内でも五指に入るほどの大都市ロニウスベルグの南方に突如として数万の軍勢が現れ、都市を囲う勢いを見せていた。
その軍勢は旗印からアルバルト国であると判明したのだが、何の意図があって攻め込んできたのか、さっぱりわからなかった。
数万とは言えロニウスベルグを攻め落とすには足りぬ数であったからだ。
ベルグホルム連合公国は都市国家の集まりで各都市が一定水準以上の軍隊を持ち合わせている。それに政治的思惑が絡むとは言え、各都市からの軍勢が速やかに駆けつける盟約も交わされている。
それに、ロニウスベルグは国内の木材生産を一手に引き受ける都市であるだけに、各都市はすぐに駆けつける筈である。
それをわからず攻めて来るとは何が目的なのかと深慮するしかなかった。
なぜ、アルバルト国の都市から一番近いアーラス神聖教国のカタナ市を攻めなかったのかも不思議に思えた。
カタナ市をアルバルト国が攻めなかったのは理由があった。
それはアーラス神聖教国を攻めるのはアルバルト国の役目では無かったからだ。
それが明らかになったのは、一連の戦いが終わってからであるが、この時点では誰の目にも不思議に写っただろう。
アーラス神聖教国を攻めたのは何処かと言えば、ザー・ラマンカ国である。
それもザー・ラマンカ国に対してこれでもかと対策を取っているアルビヌムの街をわざわざ攻略せんと軍を進めて来たのである。
ザー・ラマンカ国はアーラス神聖教国の北西に位置する国だ。
世界暦二三二八年現在、グレンゴリア大陸の東側は大きく分けて四つの国に分かれている。
北部の大部分を占めるベルグホルム連合公国。
南西部を有するアーラス神聖教国。
東側の山脈の南側の山岳国家のアルバルト国。
そして、南東部の海岸線に位置するザー・ラマンカ国である。
世界暦一七〇〇年あたりにザー・ラマンカ国の原型の国家が東側で成立する。
ちなみにグレンゴリア大陸の西側の北部を有するトルニア王国の成立は世界暦一二三二年であり、大陸最古の国家でもある。
そして、ザー・ラマンカ国の原型国家が設立して百五十年程経つとグレンゴリア大陸の西側で大規模な戦乱が始まりまだ百五十年しか経っていない若い国家は分裂する事になる。
そして、三十年余りの内乱の結果、南部をザー・ラマンカ国、アルバルト国、そして世界暦一五〇〇年辺りに布教が始まった宗教を国教とする、アーラス神聖教国の三つに分かれて南部が三つに分かれて安定してしまう。
北部はそれからもしばらく戦乱が続くが、南部からの侵略を恐れて十年程の後、都市国家の集まりであるベルグホルム連合公国として数年毎に各都市から元首を輩出する都市国家群の国家が成立した。
その為に、ザー・ラマンカ国はいつか、別れた領土を併合しようと画策をするようになり、度々アーラス神聖教国へと攻め入るようになる。
それではアルバルト国へと侵攻していないかと言えば、国境を接しているにもかかわらず一度も戦争をしていない。それは、アルバルト国の成立に関してザー・ラマンカ国の後ろ盾があったからなのだ。
アルバルト国が成立時に、散々裏から手を加えられ、隷属国家としていた。
それがあるからこそ、現在もザー・ラマンカ国とアルバルト国の間では侵略とは無縁となっているのだ。
ザー・ラマンカ国が攻めてきたとあれば、アーラス神聖教国はこれに対抗するしか手はなくベルグホルム連合公国と同じように聖都からの援軍が当然のように出発する事になる。
だが、両国の位置を見れば陸路はもちろんの事、海路からも侵攻が考えられ多くの援軍を送る事は出来ずにいた。
宗教国家であり、動員できる兵力は大陸の東では最大を誇るが、それでも四方八方からの侵攻を考えれば兵員の数は不足しているとしか言えない。
そして、トルニア王国では数年前から密かに懸念されていた北部三都市、エトルタ、ボルクム、ブメーレンが王国に反旗を翻し独立を宣言した。
そして、早速、北部三都市の兵員をかき集め、とある作物、砂糖の栽培地であり輸出の要となるミンデンを攻撃し、これを占領してしまったのだ。
三都市連合は兵力を三万五千集め、そのうち二万五千を出していた。
その勢いは衰える事を知らず、次は北部三都市の東、シュターデンを落とそうかと出撃の準備をしていると噂されている。
王国内では様々な噂が飛び交い、事実確認をしていた最中であった。
北部三都市の長を王都に呼び寄せ釈明を聞くなどしていたが、そのどれもが王家に忠誠を誓うなど宣誓しており、何が本当なのか、どれが正解なのかと混乱していた。
ただ、北部三都市が絡んだ事件も度々起き、それがアニパレ、ルスト、ブールの西部三都市に集中していたのも王都の判断を誤らせていた結果でもある。
それに付け加え、北部三都市が反旗を翻した立地にも一つの理由がある。
北部三都市の隣にはキール自治領と言う、トルニア王国にあって独立した地域がある。
独立自治を執っている事もあり、軍事的に協力関係を結んでいるだけでほぼ独立国家と同じと見て良い。
そこが、トルニア王国内で北部三都市が独立宣言を出すと真っ先に中立を宣言してしまったのである。
それにより、北部三都市は後背を海に面し、東を中立宣言されたキール自治領に守られ一気に地理的不安を払拭してしまった。
特に後背の海は遠浅の海岸が続いていて大型船が入船出来る港が限られていて兵士の輸送に難がある。守り易く攻め難い場所となった。
それにより、北部三都市を攻める場合には南方より攻めあがるしかなくなったのだ。
だた、北部三都市にも懸念が無い訳ではない。
それはこの地の殆どが広大な農地となる平原になっている事であろう。
多少、森林があるにしても農地に適した土地、それも、農作物の収穫が終わった今となっては騎兵による野戦が可能となり、正規のトルニア王国軍に軍配が上がるのは必定だ。
その三国が不思議な事に同日に軍を起こし、さらに兵を進めたのである。
情報の全てが揃えば誰の目にも、裏に何かがあると予想する者が現れる筈である。
だが、裏の裏まで読み取れる人物は現れるには時間がかかる。
そう、事を起こした当事者を除けば……、である。
「皇帝陛下、すべて順調に進んでおります。遠方より連絡が参りました」
皇帝の目の前に跪く女性、諜報隊の長を拝命しているレネが自信満々に報告を上げる。
「一軍はすでにスフミへの牽制に動いております」
同じように跪く男性、全軍の指揮権を受ける元帥職を拝命しているフェルテンも同じく報告を上げる。
「時は満ちました。今こそ、皇帝陛下のお力を世に示す時でございます」
二人よりも一歩前で跪く、内政の長、宰相の職を拝命しているリヒャルトがここぞとばかりに声を上げる。
その三人の前にはディスポラ帝国皇帝、ゴードン=フォルトナーは玉座に深く腰掛け目を瞑ったまま三人からの言葉を聞いていた。
玉座から赤い絨毯が真っ直ぐに伸び、その両脇には帝国の重鎮が顔をそろえる。
先代の皇帝から引き続き仕える者達が殆どで、皇帝からの下知を皆が待っていた。
そして、皇帝がカッと目を見開くと声を上げて叫んだ。
「よし、これから世界統一に掛かる。まずは邪魔なルカンヌ共和国を落とすぞ。全軍出撃せよ」
謁見の間から皇帝の下知がすぐさま兵士達に知らされると、兵士達は興奮したように騒ぎ始めたのであった。
※ちょっとわかり難いかもしれませんね。
地図はプロローグにある~~設定資料集~~を参考にしてください。




